第10話

「じゃ、杏。後で塾で会おう!」

「うん。じゃあね。」

 2人だけの約束、そう思うとなんだかドキドキした。


 夜、私は塾に行った。西原くんはすでにもう来ていて、私の分の席を立っていてくれていた。

「遅いじゃん!」

「ごめん、お母さんが帰ってくるのが遅くてさ。」

 私は慌てて言い訳をしたが、ただただ西原くんとの約束で緊張のあまりなかなか塾へ向かうことができなかっただけである。


 私たちは、お互いに宿題を始めた。数学が苦手な私は西原くんに質問しに行った。

「ここの因数分解なんだけど、たすき掛けでやっても全然わかんなくて。」

 私は、西原くんなら難なく解けるだろうと思っていたが案外その問題は難しかったらしく西原くんでもなかなか解けなかった。

 仕方なく、先生に質問しに行った。自習室に戻ってくると、

「さっきのとこ、教えてよ!」

 と、西原くんが私の席を覗き込んできた。場所を移動して、私たちはその問題を解いた。そして、自習室に戻ろうとすると、

「待って。話そうよ。もっと。」

 西原くんはそう言いながら、私の手を掴んだ。





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