傭兵と銃とナイフと

バリー

第1話 町から世界へ

「どこいくんだよー」

「それは着いてのお楽しみ!」

何気ないただのカップルの会話。だがここは戦闘の後が酷く残る市街地。まだ危険は残っている。近くで銃声が鳴った。

「またか・・・ごめんよ」

「いいっていいって!お仕事でしょ?」

「でもこれだけは約束して。生きて帰るって」

私の名前はアルト・クーレ。この地域に住んで地域の安全の為警備をしている。警備と言っても、ただそのあたりをふらついて何か起こってないか気にする程度であるが。

銃声が鳴った近くまで行くとそこには獣の死骸と知り合いの姿が。

「おいおい、ここで銃は撃つなって言わなかったか?面倒は起こさんでくれよ?」

「何言ってるんだ。これも立派な仕事だぞ?」

まあ、そうなんだが・・。

さっき銃を撃ったのは知り合いのフルーレ。

同じ仕事をしている仲間と言ったところだろうか。

「どうすんだ、それ?」

「ああ、これか?今日しばらくはこれで食いつなげられるからな。ありがたくこの命は頂戴するよ」

フルーレは三十キロ以上ありそうな大きな獣を軽々と担ぎ、自宅へと帰っていった。

フルーレや私の職は傭兵。世間からは「金で動く殺し屋」「感情がないただの機械」そんな事を言われている。実際、そんな感じに近いので言い返すにも難しいのが悔やまれる。私たちも生きるのに必死なのだ。それが命を落とすような危険な事でもしなければ生きてはいけない。

仕事が舞い込んできた。傭兵には似合わない荷物の運搬時の護衛か。報酬も悪くない。

この仕事はフルーレにも届いたらしく、同じ仕事をすることとなった。

「よろしくな、フルーレ」

「まさか、あんたにまで来るとはね。予想外だわ」

自分の前では女性らしさを出さないのに、こういう場では女性らしさが見えるのは仕事中だからか。

「そういえば、まだあの戦闘スタイルなのか?」

「ん?これか。いいじゃないか、私にとってはこれが一番使い慣れているんだ。これで私が長物なんて持ったらそれこそ怖がられて近づく人がいなくなる」

私とフルーレでは戦闘スタイルが違う。

フルーレはナイフとなぜかリボルバーを持った銃と剣を使う戦闘スタイルだ。最初に会った時、なぜハンドガンではなくリボルバーなのかと聞いたら「リボルバーの方がかっこいいだろ!」と言われてしまった。まあ分からなくもないが。

一方の私はナイフというところは一緒なのだが、あくまで緊急用の装備。

メインはこの年季が入ったアサルトライフル。

いつもお世話になってる整備士に見てもらった所、もう五十年近いモノらしい。

整備士が言うには博物館に寄贈するレベルの珍しい銃らしく、今でも動くのが不思議との事。

なぜフルーレが長物、私のようにアサルトライフルなど大きな銃器を持たないかというと、フルーレの身長が関係している。とても小さく、一時は子供に間違われる程だったとか。

それがあってか、身長を伸ばそうと必死に努力して今に至る。身長は伸びたのだが、顔はまだ子供らしく、いざ長物を持つと少年兵のように見えてしまうのを気にしているのだ。

予定の場所に一緒に向かい、依頼人を待っていると一人の女性がこちらに向かって歩いてきた。

「あの、傭兵の方ですか?」

「はい」

「今回はよろしくお願い致します。最近ここも物騒になってきて、近くの町に行くのにも怖いものとなりました」

話を聞くに、町へ品物を売りに行くのだそうだ。その道中で品物を奪われないように守ってほしいとの事。

早速町へ向かったのだが、品物を積んだ荷車が思いのほか速度が遅い。これは時間がかかりそうだ。

向かっている道中、分かってはいたが山賊が襲ってきた。フルーレと目を合わせる。やるか。

私が遠くにいる敵へ牽制射撃を加えると、その隙にフルーレが敵の懐に潜り込み確実に一人ずつ倒していく。我ながら連携が取れている。やがて人数が少なくなり、残りの山賊は一人となった。

「ま、まってくれ!命だけは勘弁を!」

「どうするよ?」

「知るか。そいつは罪を犯したんだ。どうするかはお前に任せる。私がやると面倒くさい事になるのでな」

はあ、仕方ないか。私は山賊にナイフを突き刺した。

記憶消去メモリーデリート

そういうと山賊は気を失い、倒れた。

私とフルーレには何故か人とは違う特殊能力がある。私たちはこれを「潜在センス」と呼んでいる。

私の能力、記憶消去メモリーデリートはナイフを刺した対象の記憶を数分から最高一時間までの間なら消すことが出来る。さっきのような罪を犯した人に対して更生を促す目的で使うのがほとんどである。

フルーレの方はというと完全破壊デストロイボムというもの。ターゲットにした対象に攻撃を加えると数秒後にその対象が爆発するという能力だ。

この能力には欠点がある。フルーレの戦闘スタイルが接近戦というのもあるが一番の問題は対象が爆発するという事だ。これはフルーレ自身も危険が及ぶものであり、フルーレもこの能力を使う事はほぼないと言ってもいい。

尤も、私は一回だけだが使用した瞬間を見たがとてもフルーレに合わない能力だった。

途中、何度か襲来はあったが何ともなく退け無事に町に着いた。

「ここまで守っていただきありがとうございました。報酬はこちらになります。又あればよろしくお願いします」

依頼者は頭を下げ、町の中へ入っていった。

「さて、帰るかね」

「ん、少し町の中でも見ないか?せっかくここまで来たんだ。寄り道くらいしていこうじゃないか」

そういうとフルーレは市場へ歩いて行った。

そうあることじゃないしな。いいか。私も行くことにした。

お、ここだここだ。

フルーレはある店の前で止まった。

看板には銃砲店と書かれている。

「なんだ、ここに用か?」

「ここはな、私の銃のメンテナンスをしてもらっている店だ。腕は確かだぞ?」

中に入ってみると壁一面に銃が並べられている。どれもよく整備されていて、腕は確かなようだ。

「お、知り合いの顏が見えたな。それで、お隣の男はどういう関係だ?」

「同じ仕事仲間だ。ここの腕を見せたくてな」

「そうかい。じゃあ一仕事するかね。」

そういうと店主は私たちを隣の部屋に案内した。そこは作業部屋のような感じだった。

「さて、今日は何をして欲しいのかな?」

すると、フルーレは私の銃を示した。

「それか。これまた古い銃だなそりゃ」

その場の空気に流されるように銃を渡してしまった。

ふーむ、独り言をつぶやきながらじっくりと私の銃を見つめている。

「なるほどな、大体の事は分かった。あんた凄いな。こんな状態でよくここまで戦ってきたものだよ、感心する」店主は驚いていた。

聞いてみると、ほとんどのパーツにガタが来ているらしく、弾が出ているのが不思議なくらいとの事。パーツの交換をしてくれるらしく一日預けておく事にした。

その間に泊まる宿を見つけ、市場を回ってみる事にした。私たちが住んでいる所とは随分と違い、活気にあふれている。こういうのも悪くはないな。

翌日、店主を尋ね、銃の状態を見せてもらった。外見はそこまで変わってはいない。土や泥が落ちているくらいか。肝心なところは中身だよ、と店主が言う。まず基本となる発射機構はそのままでほとんどのパーツを交換、研磨をして状態の改善。ライフリングの修正。

聞いているだけで時間が過ぎていくようだ。

話が終わったところでようやく銃を渡してもらった。こういう人なのか。

フルーレはリボルバーの整備が終わり、店主と話をしていた。こうしてみると親子のような光景だ。

そうだ渡すものがあったんだ、店主はそういうと店の奥から銃を取り出してきた。これをフルーレにやるとの事。

「もしかして私にか?それにしては随分と大きいやつじゃねえか。使えってか?」

「まあそんなとこだ。いつもはリボルバーだろ?たまにはこんな長物、使ってもバチは当たらんだろ」

「それにしたってデカすぎやしねえか?スナイパーライフルなんて私の性に合わないぞ」

「まあそう邪険にするな、今から説明してやる」

「まずこの銃の名前だが、お前の能力と同じ名前だ」

「は?どういう事だ」

「お前の能力は対象を完全に消し去るものだ。それは使った自分にも危険が及ぶ。分かっているはずだが?」

「それはそうだが・・・」

「その力を使うために特別に作ってみた。まず使う弾薬だが、特別製の徹甲榴弾だ。一般的な徹甲榴弾より火薬の量を増やしてある。普通に敵に対して撃っても効果は高いがこれはお前の能力の効果を上げるための改造。

この火薬はお前の能力の底上げをする」

「言いたい事は分かったが・・なんで私の為に?」

「せっかく他の人が持っていないものを使えるんだ。使わなくてどうする?」

そう言われるとフルーレは渋々その銃を受け取った。

「よかったのか?自分が言うのもなんだが、お前には合わないと思うぞ」

「正直なところ私も同じ感想だ。だが、私の為に作ってくれたのだ。有難く使わせてもらおう」

それとだが、フルーレが聞いてきた。

「おかしいとは思わなかったか?」

「ん?店主もとい整備士の人か?いい腕だったな」

「そうじゃなくてだな・・なんで分解もせずに銃の中身が分かったと思う?」

「そういえばそうだな・・何故だろう?」

「アルトには言ってなかったか。あの人は特殊能力を持っている。私たちと同じようにな。だが、その能力は戦闘向きではないんだ」

フルーレは説明してくれた。

「あの人が持つ能力は機械の目マシンアイ。機械を分解することなくその中身、構造を見ることが出来る能力だ。あの人は元々兵士でな、能力に気付かなかったらしい。自分の能力に気付いた時に兵士を辞めてな。この店を作ったと聞いている」

町から出ようとしたとき、一人の男から声をかけられた。

「すいません、あなたはアルト殿かな?」

「そうだが、それが何か」

「急な申し出ですまないが、一つ仕事を頼まれてほしい。そちらの女性もどうでしょう?その装備から察するにアルト殿と同業者に見えますが」

フルーレは軽く頭を下げ、答えた。

依頼人は私たちをある店に連れて行った。

「こんなところで申し訳ないが、説明をさせてもらう。私はこの国の軍を指揮しているものです。地位で言えば指揮官かな。ここまで言えばなんとなく仕事の内容は分かってきたかなと思いますが」

「なるほどねぇ・・・戦争かい?」

「話が早くて助かります。具体的に言うとあなた方には少数、お二人で行動していただき、敵兵士の数を減らしていただきたい」

「一つ質問があるんだが」

「何でしょう?」

「敵を減らすんだったらそちらの隊でも一つ引っ張ってくれば済むことじゃないのか?なんで私ら二人だけなんだ?」

「あなたたちの能力は素晴らしいものです。特に女性の能力は敵を証拠も残すことなく倒すことが出来ると聞いています。あなた方傭兵なら今の軍の状態も少なからず分かっているはず」

「あー・・・そういう事か。送り込める戦力がそもそもないって事か。なるほどねぇ」

「指揮官どの。事情は理解しました。ですが我々は傭兵。どういう事かはご存じで?」

「報酬ですね。それについてはまず前金でこれだけ差し上げます」

言われた額は今まで聞いたことがないような額だった。

「そして、その作戦が完了したら前金の二倍の報酬をお約束します。どうでしょう?」

フルーレは何とも不思議な顔をしていた。

「指揮官さんよ、そんだけの額出すって事はそれだけ危険って事だ。やるやらないは別として、情報はないのかい?敵の数とか装備とかよ?」

「情報ですか。ではこちらをどうぞ」

書類の束を私たちの前に差し出した。

それを見た途端、フルーレは何やら嫌そうな目線を書類に向けた。

「アルト。これはお前が読んでくれ。俺は・・こういうのはちょっと駄目でな・・」

差し出された書類に目を通してみる。

内容は敵の基地の場所や装備、大体の人数まで書かれていた。

「ほう、これは凄いですね。装備や敵の人数まで書かれている。これはいいものだ」

「お褒め頂きありがとうございます。では依頼の件ですが、受けていただけますか?」

私たちは二つ返事で受けた。

本格的に動くのは明日、今日は軍の拠点で準備をしてくれて構わないというので邪魔することにした。

おはようございます。指揮官の声が聞こえ目覚めた。

「昨晩はいかがだったでしょうか?物資は少ないですが、整備には困らないはずです」

「おはようございます。お心遣い感謝します。一つ気になったのですがよろしいですか?」

「何でしょう?」

「なぜ指揮官直々に私たち傭兵を探しているのでしょうか?一般的であれば指揮官ではなく、専門の役職の方が勧誘や探索をするはずです」

「その事については色々とありまして・・・こうして私自らがやっていることについてはお察ししていただきたい。今では些細な事です」

「そうですか。では深くは追及しません。たしか今日が実行日でしたね」

「はい、あなた方には期待しております、では」

指揮官は少し頭を下げ、部屋を出ていった。

身支度を整え、部屋を出るとフルーレが先に準備を終え待っていた。

「なに話してたんだ?」

「なに、朝の挨拶くらいだよ」

「そうかい。まあ気にする事じゃないか」

私たちは食堂で食事を終えると本部へ向かった。

アルトさん、フルーレさん。おはようございます。指揮官の声が聞こえた。

「こりゃどうも、指揮官どの」

フルーレは少し不満気味であった。

「今回の進路を説明します」

敵勢力が進行する方向に向けて軍の小隊が突撃し足止めをする。その隙に横から私たちが狙撃を用いて確実に数を減らす作戦だ。

「じゃあ私たちは場所に向かいます」

指揮官に軽く挨拶をして向かった。

私たちが付く場所は向こうからは見えない高所。フルーレのスナイパーライフルが役に立つだろう。「しかし、私が狙撃ねぇ・・。あんまり得意じゃないんだが」

元々近距離戦闘がメインだったフルーレだ。まずは操作に慣れなくては。

「どれ、少し練習するか」

「練習?するにしたってどこでするんだ?近くに敵がいるかもしれないんだぞ?」

「任せてくれ。えーと・・・これをこうして・・・と、これでいいかな」

私は近くに落ちていた枝や葉で簡単な的を作成した。

「これかぁ・・まあ無いに越したことはないが・・撃ってみるか」

フルーレはスナイパーライフルに一発だけ弾を込め、的に照準を定めた。

「これくらいで・・っ!」

放たれた弾丸は真っ直ぐの軌道を描き的の中央に当たった。

「ん?その銃、サイレンサーでも付いてるのか?ほとんど音がしなかったが?」

「いや、そんな説明は受けてないな。弾になんか加工でもしてるんだろ。これでいいか?」

「ああ、ありがとな。付き合ってくれて」

フルーレは手でサインを出して返してくれた。

持ち場に戻ると戦闘が始まっていた。

「さっそく活躍か。見せてやるか、私の能力を!」

「張り切ってるねぇ。私もやらないとな!」

アサルトライフルにスコープを取り付けて狙撃の準備に入った。

ここから見る限り敵の数は三十から四十くらいか。フルーレにその情報を伝える。

「能力使用は実践じゃ久しぶりだな。狙撃は初めてだがな!それじゃあやってみるか!」

フルーレは弾に能力を使用し、銃に装填した。

「この弾がどれだけ強化してくれるか分からんが・・ここだ!」

フルーレが放った弾丸は狙ったターゲットに命中した。その直後、敵が大爆発を起こして周囲の敵を巻き込んだ。遠目から見てもはっきりと爆発の大きさが見える。

「はぁ・・すげぇなこれ。普通に使うより倍以上は確実に威力が高い」フルーレは驚いていた。次の敵を撃った時、こちらに攻撃が始まった。どうやら場所が気づかれたみたいだ。

「よし、移動するぞ!早く来い!」

「了解。もう少し活躍したかったけどね、仕方ねえか」

私たちはその場からすぐに基地へ逃げた。しかし、敵が数人、こちらの場所に向かっていたようで遭遇してしまった。

「お前たちか!狙撃していたのは!ここで死ぬか捕まるか。どちらか選べ!」

そういうと一目散に我々に攻撃をしてきた。

すぐに木の後ろに隠れたが、人数は向こうの方が上、どうするか。

「おい」フルーレが話しかけてきた。

「この弾だがよ、どうやらこれ自体を撃つだけで能力が強化されて発動するみたいだ。つまりは・・こういう事だ!」

フルーレは敵が立っている地面に向けて弾を撃った。直後に地面が爆発し、敵の注意を引くことが出来た。「今のうちに行くぞ」

爆発に気を取られているうちに私たちはその場から逃げることが出来た。

基地に戻ると他の隊の報告を聞くことが出来た。

突撃した小隊は少し被害が出たが奇跡的に死傷者はいなかった。私たちと別動隊で動いていた者は残念ながら帰っては来なかった。

私たちの戦果を報告すると指揮官は少し笑みを浮かべていた。そこには悲しみが混じっているように見えた。

「残念ながら犠牲者が出てしまいました。悲しい事ですが、戦ってくれた者の犠牲を無にしてはいけません。このまま進軍して敵陣地を狭めていきます。皆さん、よろしくお願いします。」頭を下げた。その場にいた全員が犠牲者に黙祷をささげている光景は、不思議と悲しみではなく感謝の気持ちが見えた。

その夜、フルーレと話をしていた。

「なあ、帰ってこなかった人の装備なんだが・・」

「なんだ。まさか回収しにいくとかいうんじゃないだろうな?大体の場所は地図に書いてあるがそこは敵の近くだ。鹵獲されていてもおかしくない。それでも行くのか?」

「ああ。せめて遺品くらいは回収してやりたい、そう思わないか?」

「私もそうは考えたが・・・危険が大きすぎる。端的に言えばメリットとデメリットが大きすぎるんだ。下手すれば自分たちが同じ目になるかもしれない」

「それでも私は行こうと思う。無理にとは言わない。付いてきてはくれないか?」

「・・・分かった。そこまで言うなら付いていく」

「ありがとう」

そういうと私はフルーレのテントを抜けて自分のテントに入り就寝した。

翌日、指揮官に事情を説明し行方不明の方の遺品を回収することにした。

「遺品の回収ですか・・・たしかに大事な事だと思います。ですが、それは大変危険な事ではないのでしょうか?」

「分かっています。ですが、それでも行かせてください」

「すまんな指揮官どの。こいつはそういうのはキッチリやりたい性格なもんでね。くんでやってはくれねぇか?」

「分かりました・・・ですが一つ条件を」

「何でしょう?」

指揮官は通信機を渡した。

「これには通信機能の他に今いる場所を指し示す機能があります。遺品などを発見したらこれを近くに置いてください。すぐに回収部隊を向かわせます」

「つまり、行ってもよろしいのでしょうか?」

「はい、生きて帰ってきてください」

指揮官の許可、いや願いを聞き、私たちは遺品の回収及び捜索に向かった。

目的地付近に近づくたびに周囲の警戒を高めているがそれらしき影や物体はなかった。ふと、目の前の地面に不審なものが。

フルーレがスコープで見るとどうやら近づくと爆発する地雷のようなものだった。なぜここに罠が・・・。地雷を避けてその先へ進むと敵の遺体が。近くの地面には何かが爆発したような跡と残骸がある。さっき見た地雷がここにもあったのかもしれない。

「なあ、ここ周辺どう思う?」

「こんだけ地雷やら罠が張ってある。前の戦闘の跡か、それとも誰かが妨害してるのか。どっちかしかねえんじゃねぇか?」

フルーレの言い分はもっともだと思う。前の戦闘の跡だとしたら敵が死んでいるのは分かるが、発見した残骸を分析も兼ねて分解してみたら設置されたのはここ最近のものだった。つまり誰かがここに侵入されるのを嫌っている可能性がある。設置したのが回収対象の人だったらいいのだが・・。

そこから少し進むと回収対象の遺体と思われるものが見つかった。死因は頭部に一発か・・腕がいいスナイパーがいるようだ。

幸いなことに装備や持ち物は取られていなかった。発信機を遺体の傍に設置。これでいいのだろうか。しばらくして基地から通信が入った。

「こちら通信隊。発信位置を特定した。そちらに回収部隊を向かわせている。しばらくの間、周囲の警戒を怠らないように」

遺体は周囲に遮断物がある森の中だ。こんな視界が悪い状況で頭部に一発撃てるスナイパー。相当な腕前を持っている。フルーレにアイコンタクトで合図をして周囲に何か手掛かりとなるものがないか探してみる事にした。

探してはみたもののそれらしきものはない。薬莢一つ見当たらない。なぜ・・。その時、こちらに向く殺意に気づき咄嗟に屈んだ。

頭の上を弾が掠めて空気を割く。間一髪だった。撃たれた方向を見ると誰もいない。くそ、逃がしたか。木に着弾した跡が残っている、何か妙だ。相手は狙撃してきている、だとしたらそれなりに口径の大きな弾、もしくは着弾点が大きなダメージを受けて変形しているはず。だが着弾跡は変形がほとんどなかった。

細い針で刺したような小さな傷が残っているだけ。不思議だ。

「おい!捕まえたぞ!」

フルーレが叫び、こちらに向かって何かを投げてきた。人のようだった。

こいつが撃ってきたヤツだ、フルーレはそう言った。確かに銃は持っていたがそれは狙撃銃とは呼べず、精々突撃銃アサルトライフル。これで狙撃したというなら不思議でならない。狙撃犯と思われる人物に質問をぶつける。

「おいあんた。ちょっとお聞きしたい事があるんだが。いや、もう分かってるか。なんでこちらに攻撃してきた?」

「あ、あんたらあの軍の者だろ!じゃなきゃこんなところに来ない!」

「まあ待て。私たちはあんたが言っている国のやつじゃない。逆だ」

「なに?それじゃ何でこんなところまで来てるんだ!」

その光景を見てフルーレが銃を突きつけた。

「おい、あんたはこっちの質問にただ答えてればいいんだ。死にたくなきゃ正直に答えろ」

その人は冷や汗をかいていた。

「わ、分かったから銃を下げてくれ・・」

「これでいいだろ。続けてくれ」

フルーレはたまに過激というか少々強めに出てしまうのが弱点だ・・。

「あー・・コホン。じゃあ続きをしようか」

「あなたは何処からきて何をしていたのか、正直に話してくれないかな」

「自分はあんたらの国の者だよ。ここで敵が来るのを抑えていたんだがさすがに数が多すぎた。仲間の一人はあんたらも見た通り頭を撃ち抜かれて死んだ。自分もそうなる可能性はあったがどうにか抑えていたんだ」

「なんだ、つまり味方って事か」

「ん?つまりあんたは敵じゃねぇって事か?」

味方だ、という事が分かると安心したのか今まであった事を話してくれた。この狙撃手・・いや突撃兵か。名前をバスカという。私たちと同じく傭兵として戦闘に参加していたが、戦闘中に仲間の一人が敵の攻撃を受けて死亡。もう一人いたとの事だが、話を聞くと基地にいつの間にか戻ってしまっていて一人で敵を抑えていたらしい。凄いじゃないかこの人。

縛っていた縄を外し、基地に救出した。

いやぁ、さっきは撃ってすまなかった。

バスカは傭兵という役割に不満を持っているようで私たちと同じ潜在センスを持っている。能力名は風の弾エアバレット。空気中の酸素を弾丸にして攻撃する能力だ。本人によれば力を最大まで使えば建物を破壊出来る威力の弾も作れるとの事。自分で専用装備を作成できる腕を持っているようだ。

「バスカさん、先程は失礼いたしました」

「いやなに、こっちこそすまなかったな。まさか味方が来るとは思わなかったんだ」

「つかぬ事をお聞きしますがよろしいですか?」

「ん、何だ?答えられる事ならいいですが」

「では、お聞きしますがあなたの能力、風の弾エアバレットはいつ頃判明したのですか?」

「これか?んー何というかなぁ・・・いつの間にか分かったんだが、私としては難しい能力なんだ。空気から弾丸を作るといってもその間は無防備。誰かの掩護なしでは機能は難しい。かといって隙を無くすためには力をなるべく使わない小さい弾しか作成が出来ない。威力なんて微々たるものだ」

「掩護なしでこれまで戦って来たのですか?誰か仲間と言える方はいなかったのですか?」

「この能力は軍にいた時にいつの間にか見つけたんだ。その時に周囲に話したんだが気味悪がられてな。自分を慕ってくれるやつはいなかった。しょうがなく一人でやってきたんだ」

「それは・・要らぬ事を思い出させてしまって申し訳ございません」

「いやいや、別に構わんよ。もう過ぎたことだ」

バスカは過去をあまり気にしない、いや過去を受け止めてそれを糧にしているのだと思う。

そのあとしばらく話をしているうちに私たちと行動を共にする事となった。他に身寄りの場所もなく、同業者でありなおかつ命の恩人に近い存在の私たちに少しでも恩を返したいそうだ。

よろしくな。バスカは笑顔で言った。

これから私とフルーレ、そしてバスカの三人で生活か。知らない人と一緒に過ごすというのも悪くないかもしれないな。

まずはあの銃砲店の店主に顔合わせでもしてみるか。どういう反応をするか楽しみだな。


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