第6話 交渉

「そ、それはじゃな・・・・」


 爺は完全に動揺していた。


「思考ができ、出力ができ、現実世界と干渉できる。この条件を満たすには脳細胞の機能が正常に作動している必要がある。」


「ああ、それは魂を呼び出しているのじゃ。」


「魂は質量がないから物質ではないし、物質を変化させることもないのでエネルギーでもない。霊的な話はおいておいても、干渉ができない時点で矛盾を孕んでいる。

ともかく今の状況が、俺がまだ生きてることの証明になる。まだ生きているなら蘇生するのは規約違反じゃあないでしょ。」


 爺は黙ってしまった。そんなつもりはなかったんだけれど。


「これでも俺は生き返る資格がないのか?な?な?」





爺の様子が変わった。椅子から立ち、俺に向かって一礼した。


「すまぬ、本当に済まぬ。観念じゃ。すべておぬしの言う通り!お前を生き返らせてやろう。」


「おっ、マジで!」


「ただし段階は踏んでもらうぞ。おぬしは日本に電車に轢かれた死体として転生してもらう。安心せい、死なない程度に応急処置しておくからの。」


「ありがとうございます!」

そう言うや否や急に周囲が明るくなった。



 気づけば俺は雨濡れるレールの上に僅かな血液を滴らせて倒れていた。スクリーンで見たおぞましい血はどこにもついていなかった。背中が鈍く痛い以外は特に痛みもない。


「助かった!」


 こう言わずにはいられなかった。


 しかし、このとき俺は知らなかった。神の仕組んだ罠を。己の運命を。

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