扇風機との夏

ツナハムバハムート

第1話壊れた扇風機

 夏が到来し、それと同時に夏休みに入った。

 学生寮に入っている俺は実家に強制送還されることになり、大荷物を抱えて戻ってきた昨日は疲労困憊ですぐ布団に入って寝た。それが大体夜の八時くらいのことだ。

 気が付くと時計の短針は十時を指していた。二時間しか寝てないのかと思ったが外を見ると空が明るい。どうやら十四時間も寝てしまっていたらしい。まあこんなに惰眠を貪っても咎める人など誰もいやしないので何とも思わんが。


 いかんせん腹が減ったので、何か食うものをと下のリビングへ行こうとしたときに部屋の入口あたりに寝る前にはなかった扇風機を見つけた。母が気をきかせて置いてくれたのだろう。今年の夏は何年に一度でレベルの猛暑で、冷房などついていない俺の部屋はまるで蒸し風呂のようなもわっとした暑さが広がっていた。実際枕の色が変わっているほど寝汗をかいており飯より先にシャワーを浴びるべきか迷うほどだった。よくこんな状態で十四時間も寝れたものである。熱中症になってもおかしくないほどだ。


 シャワーを浴びてから生のトーストをくわえて部屋に戻った。実家に戻ってきてもやることもないので正直なところ暇である。とりあえずベットに寝ころびながら漫画を読んでいると、汗がぽたりとページに染みをつくった。うだるような暑さにいらだちを抑えきれず投げ捨てるように漫画を置き、扇風機をセットした。スイッチを入れると生ぬるい、しかし心地よい風が顔をたたく。


「これでこの夏何とか生き残ることができる。感謝するぞ」


 扇風機にお礼を言いながら設定をポチポチいじくっているとあることに気付いた。

 なんとこの扇風機首振り機能が壊れているのだ。なんてこった、こんなのブレーキの壊れた車と大差ないじゃないかと思ったがよくよく考えてみるとそこまでたいした問題ではなかった。それでも不便っちゃあ不便であるし、そんな不良品に俺の命を預けた母にも怒りが湧いた。


 無駄だとわかっていながらおもわずブラウン管のテレビを直す時のように扇風機をたたきながら叱咤するように言った。


「がんばって首を振ってくれ!お前にこの夏の俺の命がかかっているのがわかっているのか!」


 俺の願いが通じたのか扇風機は意気揚々と首をぐわんぐわんと音を上げながら降り始めた。


 なぜか動くはずのない縦方向に。

 さながらそれは俺の問いに答えを返しているようだった。

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