Epilogue. Starry-like restart

 今日も普段と変わらない朝。やかましいレイを引き連れながら事務所へと向かう。神社での一件の日も雨夜はホテルを取っていたようで、昨日はそのまま休みとしたのである。つまりは今日がお互い隠すところもなくなった再始動の初日であり、このまま事務所へ行けば雨夜がいつもと変わらぬ様子で事務所に待っているはずである。

 事務所に着いた折にはやらねばならないことがたくさんある。まずはレイを紹介するとともに、謝罪をさせなければならない。もちろん雨夜も雨夜でレイに謝罪と感謝を述べる必要があるだろうが、まぁそんなこと強要せずとも雨夜なら勝手に言うだろう。


 そんなことを考えながら事務所に着き、扉を開けて中へと入る。すると当然のごとく雨夜がソファでカフェモカを飲んでいる。見慣れた光景のはずなのだが、何だか新鮮な気がする光景である。着いて早々、俺が通訳となってレイを雨夜に紹介しようと、大麻事件での情報筋がレイであったこと、雨夜を見つけてくれたのもレイであることを告げる。すると雨夜はやはりというか何というか、

「ごめんなさい、心配かけて」

と申し出てきた。案の定レイと違って出来た人間である。

 一通りの紹介を済ませ、俺はいつもの席へと戻ってパソコンで依頼の確認をするのだが、この結果もまた言わずもがなであろう。携帯にメールは来ていないからな。そういうことなのだ。となれば日課のパイプ修練くらいしかやることがない。

 俺はパイプに葉を詰め、火を点ける。タバコとは違い、葉の燃える焦げた匂いがあたりを包む。

 相変わらず苦いし辛い。何をどうしたらこれを旨いと感じる日が来るのであろうか。パイプの似合う渋い探偵を気取るのは諦めるべきなのだろうか。

「探偵さん、これ」

気付けば雨夜がソーサーにカップを載せて持ってきていた。しかしその中身はコーヒーではなく、

「たまにはどうかな、って」

カフェモカが淹れられていた。

 カフェモカは甘くて苦手だとは言え、雨夜が淹れてくれた手前飲まないわけにもいかない。

「ああ、ありがとな」

そう考えてカップを手に取り一口含むのだが、これまた相変わらず甘い。

「どう、かな?」

感想を求めてくる雨夜。さてどう返すべきか。嘘を言うのは心苦しいし、かと言って正直に言うのも気が引ける。

 悩みながらもパイプを一吸いすると、さっきまでとは何かが違う気がする。パイプの苦味が嫌じゃない。確かめるようにもう一度カップを手に取り、カフェモカを一口含む。その後パイプを吸って煙を吐く。

 やはりそうだ。そういうことなのだ。嫌々ながらも、雨夜に出されたカフェモカを飲んで気付いたことが一つある。

 カフェモカを飲みながら吸うパイプ。それは甘味と苦味が調和して、格別に旨いということだ。

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れいのう探偵大海を知る @guest15532

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