Kidding kidnapper 3
「それで、依頼ってのは一体なんなんだ?」
「まぁまぁそう急がずともよかろ? わしくらい長く死に長らえているとな『つれづれなるままにぃ、日ぐらしすずめに向かひてぇ、久しくとどまりたるも久しからず』というくらい暇に勤しむ日々での。他愛無い会話一つでも余興としては十分楽しめるというもんじゃて」
鎌倉文学大好きっ
だがしかし、俺には想像もつかないほどの長い間を孤独に
服からして鎌倉時代くらいに生きていたのだろうが、幽霊との会話と言えばまずはこの質問だろう。
「死んでからどれくらい経つんだ?」
「おぉおぉ、
返事はある。がダメな屍のようだ。会話が少しも進まない。美人だからと言って一瞬でも気を許した俺が間抜けだった。
「お前が何もしていないのはわかった。わかったからもういい。とりあえず名前を教えてくれないか?」
「名前、のぉ……。そんな記号なぞとうの昔に忘れてしまったわい。じゃがぁ、どうしてもと言うならば、ママであろうがハニーであろうが、おぬしの好きなように呼んでもらってもかまわんのじゃぞ?」
そんなふうに呼んでたまるか。その嫌味な笑みを止めろ。
「おぬしも本当はそう呼びたいのじゃろ? わかっておる。わしの美貌もまっこと罪深いわい。じゃが遠慮する必要などない。恥ずかしがらずに呼んでみぃ。マイハニーと」
だめだ。こいつはただのゴーストジョーカーではなく本物のジョーカー。道化だ。このままではこいつのペースに流されて、本流からどんどん遠ざかってしまう。流れに逆らうためにも
「なら幽霊だし、レイでいいな」
「確かになんでもいいと言いはしたがの、それはあまりにあんまりじゃわい」
ここで反応すると話が進まないことは先ほど学んだばかり。レイに毒されて言いたいことも言えない状態にならないよう会話を
「今度こそ、依頼の内容を教えてくれないか?」
「おぉ、そうじゃったな。実はの、昨日の昼頃であったか、例に漏れず公園でスズメに向かっておったところ、年端もいかぬ、そうじゃな。見た目からするとおそらく十にも満たないくらいじゃろう。
それはまた穏やかじゃない事件である。そしてそんな事件に興味があるとは甚だ意外である。
「女子が一人出ているところを狙われた故に、親も誰とはわからぬ」
その点に関してはきっと捜索願が出ているだろうから、安西にでも聞いてみればわかるだろう。
「じゃがの、犯人はしかと目に焼き付けたし、女子が幽閉されておる場所へもついていった。行ったはいいんじゃが、身を持たざる身のわしにはどうすることもできんでの。どうしたものかと考えておると、風のうわさで聞いていたおぬしのことを思い出したというわけじゃ」
なるほど。今回もまた苦もなくスピード解決しそうな事件で何よりである。こうして俺の名声が容易く昇りつめていくのだと思うと口元が緩んで仕方ないが、その気を出してがめつい探偵だと思われるのもなんだからな。ひとまずは真顔でいるとしよう。
「場所がわかるんだったら話は早い。早速警察に通報しておくよ」
「ちょい待ち」
一体どうした。
「実は奇妙な点が一つあっての。犯人の男は連れ去った女子をどうにかしようというわけでもなく、基本的には女子も犯人と楽しそうに遊んでおったのじゃ。名前も知っておったようじゃし、顔見知りやもしれん」
どういうことだ? 犯人と被害者は顔見知りで、しかも楽しそうに遊んでいるとなると、逢引きか、あるいは普通に親子なんじゃないのか。
「おぬしの疑問もようわかる。二人は親子か、あるいは禁じられた悲しき恋かと考えているんじゃろ? じゃがの、犯人の男が『お父さんとお母さんはどっちを取るのかな』のようなことを女子に言っておったのじゃ。それに対して女子の方は、ただ、さみし気に俯いておったの」
「ちょっと待ってくれ。今までの話をまとめるとつまり、その女の子と犯人は親子ではない。そして女の子は犯人に危害を加えられることもなく、楽しそうにはしているが、帰してもらえないと。そういうことだな?」
ここにきて初めてレイは言葉を選んでいるかのような、悩まし気な表情を見せた。
「どちらかと言えば帰してもらえないと言うより、女子の方も自ら帰る気は甚だ無さそうじゃったが、おそらくそういうことなんじゃろ」
だめだ。全くわけがわからん。面識があるのも謎だし、親がどっちを取るのかという点も謎である。どちらかの一方はおそらく子供のことだろう。となると何か他に、その子の親には子供より優先するものがあるということなのだろうか。
もはやとんちの要る問題だと考えた方がいいのかもしれない。とりあえず両手の人差し指で頭をさすって考えるとしよう。
「他に何かあったかと言えば、パイプ……だと思うんじゃが、それをおぬしと同じく犯人も吸っておったことくらいかの。じゃがしかし、何度考えても奴の目的も、女子の心情も、どちらもさっぱりわからんわい。わしも長らく死んできたせいか、限られた時を懸命に生きる人の気持ちなど、とうに失ってしまったのやもしれんのぉ……」
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