終章:救世主はターゲット?
第一幕:ターゲット(一)
「なんと、まさかお一人で来られたのですか?」
「まったく、レクサ様は無茶をなさいます」
そんな彼女から苦笑と共に放たれる声は、透きとおっていながら全身に浴びせられると、えもいわれぬ心地よさがあった。
彼女の種族は、魔力ある言葉を放つことができるという。
(日本で言うところの「言霊」かな……)
それに日本の文化も好きで、子供の頃はよく日本の写真などを見せてもらっては、祖父に説明を聞かせてもらったものだ。特に神道などはミステリアスで、彼の好奇心を大いに刺激した。
目の前の女性を見ると、その時に見た白い服に赤い袴の巫女の写真を思いだす。
もちろん、見た目はまったく違う。目の前にいる女性は、幾何学模様のような銀の冠に、真っ白な裾が大きく広がる西洋風ドレスを纏う、気品あるいでたち。
しかし、そこから醸しだされる神秘性に、まさに日本の巫女と通じるものを感じていたのだ。
レクサは玉座に腰かける彼女に、頭上で合掌をしたまま頭をたれる。それは相手に敬意を示す、この世界の挨拶。
彼女はまだ十代半ばという年齢ながらも、落ちつきもあり威厳も備わっている。自然に敬意を払いたくなる雰囲気に包まれていた。
「恥ずかしながら、今回はわたくしめの個人的な事情。それにご存じかと思いますが、わたくしは
「それは存じております。しかし、なにもこの非常時に……」
「いえ。非常時だからこそでございます!」
謁見の間と言われる大部屋に、レクサは力強い声を響かせた。
少し縦長で、大きな石柱が立ち並ぶ天井の高い部屋。周囲にもシータを守るための近衛兵達が、その柱と一緒に立ち並ぶが、彼らはまるで置物かのように微動だにしない。
おかげで、その場にはシータとレクサの2人しかいないかのようだった。自国にいるときのように、うるさく口をはさむ者はいない。
「不躾ながら、申し上げます」
だからレクサは、頭を上げると言葉を続けた。
ラベンダー色の
ただ、現実の世界よりも整った己の顔のレクサというキャラを気にいっていた。そして気にいりすぎて、まるでナルシストのように鏡を見ながら、どうすれば自分がよりかっこよく見えるのかも研究していた。
その研究成果を試すように、顔だけを少し斜めにして目許にかかった髪をかきあげる。
「国民にも愛された
「無論、関わりがないとは申しませんが、いくら
「何を仰いますか。他国の者などと水くさい。同じ連合国の同志。それに、前からお伝えしたとおり、わたくしの気持ちは本物でございます」
「……本気で……本気で、彼女と添いとげたいと仰るのですか?」
心を覗きこむような聖典巫女シータの切れ長の眼差しをレクサは正面から受けとめた。
彼はそのことに、何のやましさもなかった。
「もちろんでございます。嘘偽りはございません! 彼女こそ、わたくしの求めていた女性なのです。わたくしは彼女さえいれば、側室もとることなく、わたくしの愛情のすべてを注ぐつもりでございます。だからこそ、彼女の生存情報があるのなら、何をおいても命がけで駆けつけましょう」
「生存情報……。確かに密偵より、第六にてファイ殿の噂が報告されました。しかも、怪しい男と行動を共にしているとも情報が入っています。もしかしたら、何かよからぬ事に巻きこまれているのかもしれません。ただ……第八はまだしも、第七と第六に貴方様が入るのは許可されないでしょう」
「はい。無論、隠密にて行動致します」
「それは見つかれば争いのタネになりかねません。
「先ほども申し上げた通り、これは個人的な事情です……」
「
ふと、シータは表情を緩めた。
その表情が、年相応の少女の不安を浮かべる。
「情報はさしあげます。……ファイ殿は、我が国の
「おまかせください。もし、不逞の輩に囚われているのでしたら、そやつを成敗し、必ずや無事にファイ殿をお連れ致しましょう!」
こうしてレクサがファイを探す旅に出たのは、守和斗たちが
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