第一章:救世主は、補充要員?

第一幕:補充要員(一)

「お前たちとは、もうやっとれん!」


「そうだ。君たちは下手すぎる。ついていけないよ」


 迷宮館ノーティスという建物の正面広場。その真ん中で、四肢が太いながらも小柄なひげ面男と、ひょろっと背の高い優男の2人は、先ほどから積憤をもらしていた。

 その相手は、【ウィロー・コクート】と、仲間の4人。彼らは、薄汚れて傷んだ鎧や衣類を身にまとい、その疲弊した表情を浮かべていた。酷いのは見た目だけではない。服の下には、多くの痣やすり傷もできてしまっている。

 それは宝物庫迷宮ドレッドノートの第8層という、まだ比較的探索が安易な上層だというのに、パーティーメンバーが苦戦を強いられたことを意味していた。


「ま、待ってくれよ、な? 明後日にはまた潜るチャンスがあるんだ。今、やめられたら6人を切ってしまう……」


 ウィローは、パーティーリーダーとして2人を必死に説得していた。短く切りそろえた金髪を掻き乱しながら、ひきつった笑いを浮かべて懐柔を図る。なにしろ、穴の下に広がる魔神級の宝物庫迷宮ドレッドノートに入るには、ルール上の問題で最低でも6人のパーティーを組まなくてはならないのだ。


「あのなぁ、いくらチャンスがあっても死んだら元も子もねーんだ」


 しかし、2人が首を縦に振ることはなかった。


「だいたいテメーが悪いんだ。よく考えるんだな……」


「そんな……」


 その後、何を言っても取りつく島もなかった。結局、2人はその場から去ってしまった。宝物庫迷宮ドレッドノートへの出入り口付近で起こしてしまった、そんな騒動。それはただ、周囲にいた他の冒険者たちに自分たちの不甲斐なさを印象づけただけの出来事になってしまった。

 幻聴だろうか。ウィローの耳には、周囲からの嘲笑が聞こえてくる気がしていた。


(くそっ……なんでだ……)


 確かに、戦果は散々であった。苦労するはずのない魔物に翻弄され、さらに第8階層の核たる【魔力子房マッシブ】も、後から突入したパーティーがさっさと見つけてとられてしまった。

 これで第8層の魔物や罠が復活することはなくなる。あとは掃討さえしてしまえば終わり。最下層から魔神が上がってでも来ない限り、第8層は安全なエリアとなるだろう。

 つまり、次に潜るときは第9層。今よりも手ごわい魔物がいる可能性がある場所に行かなくてはならない。今のレベルでも、まともに戦えていないというのに。


(だけど……だけどオレは、しっかり戦っているぞ!)


 ウィローは、腰に下げていた片手剣の柄を握りしめる。巻いてある皮がつぶれるのではないかというぐらいに。

 確かに、自分の剣術が飛びぬけて長けているとは言わない。しかし、戦士バールとしては珍しい大きな五角形の盾を使い、仲間を守る役目も担っているつもりだ。その守った証拠に、背負っている盾に無数の傷が刻まれている。


(俺が騎士ロールだったら、もっとうまく盾を使えていたのか? ……いや、違う! オレは騎士ロールになれなくても、魔力が弱くてもちゃんとやれている! 単に、他の奴らが弱すぎるだけじゃないか……)


 もちろん、そんなことを考えても口にはださない。そんなことを言えば、確実にパーティーは空中分解する。


「どーすんだよ、リーダー」


 仲間から不安の声が上がる。


「メンバー、足らなくなっちまったじゃねーか」


 そんなことは言われなくてもわかっている。そうだ。今はともかく、抽選で得た明後日のチャンスを生かすために、新しいメンバーの確保が大事だ。明日の夜までにメンバーの変更申請を冒険者資格認定協会クエシャルトに提出しなければ、探索権利を失ってしまう。


「安心しろ。今から、オレは冒険業仲介所ハロークエストによってくる。ちゃんと補充メンバーさがしてくるさ。みんな先に宿へ帰って鋭気を養っていてくれ」


 そう胸を張って答え、ウィローは迷宮館ノーティスにある冒険業仲介所ハロークエストの棟に向かっていった。豪快な大股で、使い古びた鱗衣鎧スケイルアーマーをガシャガシャと鳴らしながら。

 仲間の不安そうな声など聞こえないフリをして……。

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