終章:救世主は、冒険生活支援者《ライフヘルパー》!

終幕:レベル0

「なあ、そろそろ出発してもいいいんじゃないか?」


 とある商人の高級酒運搬護衛という仕事を終えて報酬を得た帰り道。

 守和斗はファイとクシィにそうきりだした。

 冒険者になってから毎日、かなりのペースでクエストをこなしていった。

 おかげで、ファイもクシィも冒険者レベルが3にあがり、【野外冒険者フィールド】というランクになることができた。

 このランクになると、街の外での仕事も積極的に受けられるようになり仕事も格段に増える。


 ちなみに、レベル上げだがモンスターを倒すと自動的に経験値がはいる……という仕組みは、もちろんない。

 クエストをクリアするとポイントがもらえ、それがいわゆる経験値みたいなものになる。

 これがある程度たまると、冒険者資格認定協会クエシャルトに申請することでレベルが上がるという仕組みになっていた。

 フェイもクシィも多くの仕事を受けて、ここまで達成したのである。


 もちろん、守和斗の冒険者レベルは変わらない……というよりも、関係ない。彼女たちのレベルアップの祝いをすることはあるものの、自分が祝われることはない。


 虚しさはある。

 しかし、結果的には良かったのかも知れないと思う。


 どうせ戦闘系能力職ジョブになっても、この様子なら手加減しながら戦うことになっていただろう。

 それにくらべて、冒険生活支援者ライフヘルパーとしての仕事は手加減なんてしていられない。

 掃除、洗濯だって意外に重労働。冒険者をやっている彼女たちが死なないように、影ながらサポートするのもなかなか面倒だ。

 どれもけっこう、本気で挑まなくてはならないことばかりだった。

 レベルが上がらないことはつまらないが、冒険生活支援者ライフヘルパーとしての仕事に最近はやりがいさえ感じていたぐらいである。


「まあ、ぎりぎりだけど旅費も貯まってきたし、2人とも早く家に帰りたいだろう?」


「そ、それはそうだが、そのなんだ……」


 宿への道を歩きながら、右隣のファイが歯切れ悪い返答をした。

 それに対して左隣を歩いていたクシィが言葉を続ける。


「でも、あたしはまだ喚起魔法を教わっていないわよ。教えてくれる約束でしょう?」


「そ、そうだ。私もまだ、剣術と気の使い方をちゃんと教わっていないぞ!」


「いや、まあ、そうなんだけどさ……」


 守和斗は、さてどうしたものかと頭を掻く。


 冒険生活支援者ライフヘルパーとなった守和斗は、ファイとクシィの仕事のサポートの一環として、2人に戦い方を教える契約をしていたのだ。

 実は、この仕事にも守和斗はやりがいを感じていた。

 なにより、2人は才能にあふれている。教えたことは、スポンジが水を吸いこむようによく覚えるし、非常に真摯な態度で争うほど貪欲に学ぼうとしてくれる。

 こんな優秀な生徒もなかなかいないだろう。


 しかし、気がかりがあった。

 初めは、ちょっとした違和感だった。

 ところが数日前、それは確信に変わった。


 守和斗の伝えようとすることが、2人に伝わりすぎる・・・・・・のだ。


 技や術を教えるとき、口伝や実演だけではコツがなかなか伝わらないものだ。

 しかし、ファイもクシィもそれをすぐに掴んでしまう。

 最初は「すごい才能だな」と思っていた。

 ところが、それだけでは説明できないことが出てきた。


 次に教えようとしたことをすでに知っていることがあったのだ。


 本人になぜ知っているのかと聞くと、「守和斗から教わった気がした」と言う。本人もよく覚えていないうちに知識をもってしまっていたのだ。

 そして守和斗は、2人から微妙にもれ始めている精神波に気がつく。


 それは精神感応テレパシーの兆候だった。


 生まれも育ちも種族も違う2人が同時に精神感応テレパシーに目覚めるなんて偶然は考えにくい。

 となれば、原因は守和斗。それもパイには現れず、この2人にだけ影響を及ぼすこととなれば、思いつくのは1つしかない。


 精神感応テレパシーを利用した言語交換。


 それによる脳の異常活性化が2人に影響を及ぼした。

 思い返してみれば、言語の読み取りはよくやっていたが、言語交換は精神感応テレパシー能力者としかやったことがなかった。守和斗も一般人とやったのは初めてだったのだ。


 それに気がついたとき、守和斗は青ざめた。

 細心の注意を払ったつもりだったが、下手すれば2人の脳や精神を壊していたかも知れないのだ。

 もちろん守和斗は、すぐさまそのことを2人に説明して謝罪した。

 守和斗の勝手でやってしまった取り返しのつかないこと。

 どんな償いでもするつもりだった。


 しかし2人から返ってきたのは、予想外の反応だったのだ。


「いいのかな……」


「もしかして、まだ気にしているの?」


 クシィの苦笑にファイも続く。


「私たちが望んだことだぞ。それに中途半端は一番良くないと、守和斗も言っていたではないか」


「まあね。せめてコントロールできるようにしないと、弱いけど精神波がだだ漏れだから、敏感な人に対して影響を及ぼしかねないし」


「そうだ。下手すれば心情がもれるのであろう。このままでは帰るに帰れまい」


「それにせっかく手にいれた不条理チート能力。有効利用させてもらわないとね」


 脳に影響を受けた。そのことに関して、2人は守和斗に怒りではなく、むしろ感謝を述べた。

 そして謝罪ではなく、指南を求めた。

 彼女たちは、精神感応テレパシーをさらに活性化させて活用させろと言ってきたのだ。


 確かに精神感応テレパシーをコントロールできるようになれば、2人は飛躍的に成長するだろう。

 なにしろ、守和斗の技術の微妙なイメージまで伝えることもできるし、その気になれば守和斗の経験まで共有することができる。

 さらにファイの剣術ならば、相手の動きを敏感に読み取ることも可能となる。

 クシィの得意な魔術ならば、全てではないが口頭の呪文ではなく、精神感応テレパシーによる呪文を使うことで無詠唱魔法を使うこともできるようになる。

 鍛え方次第では、英雄騎士ヴァロルに匹敵する力を得ることも可能かもしれない。


「『許せない理不尽を覆せるぐらい不条理に強くなればいい』……そう言ったのは、ご主人様だろう?」


「そうそう。あたしはその不条理チート能力で、連合に泣いて謝らせてやるんだから」


「ふん。その前に私が不条理チート能力で、同盟を降伏させてやろう」


 相変わらずの口げんかに聞こえるが、どこか口調も内容も柔らかい。

 もしかしたら、2人とも気がつき始めているのかも知れない。

 今の気にいらなくなってきた・・・・・・・・・・・理不尽な状態・・・・・・を変える、不条理な力を得ることも可能になるかもしれないと。


(でも……それは、もしかしたら俺にとっても、そうなのかもしれないな)


 もしこの2人の力が、英雄騎士ヴァロルを上回ったらどうなるだろうか。

 2人だけではなく、そのようなものが多数輩出されてきたら。


 圧倒的な力を手にして、この世界で好き勝手に「俺Tueee!」を楽しもうとしている降神者エボケーターたち。

 しかし、彼らよりも強い存在が、彼らの傍若無人に対する抑止力として存在する世界になってしまったらどうだろうか。

 その世界に、多額の代金を払ってまで来る魅力は下がるのではないだろうか。

 結果、この非道なゲームをとめることができるかもしれない。


「うん……そうだな」


 守和斗は改めて心を決める。


「俺は君たちをもうしばらく支援するよ」


 その宣言に、ファイとクシィは一度、顔を見合わせると、2人そろって守和斗の前に歩みでる。

 そして並んで微笑んだ。


「頼むぞ」「頼んだわよ」


 2つの弾む声が重なった。


「「レベルの上がらない冒険生活支援者ライフヘルパー!」」


「――ったく」




                              第一部・完

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※次からはおまけの用語説明となっています。

 用語説明を飛ばしたい方は、下記のリンクの「第二部」をご覧ください。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883806205/episodes/1177354054888399127

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