第三幕:冒険者(三)
ラクティスの屋敷から、実は金目の物はある程度、頂戴してきた。
しかし、その多くはセレナの村人たちに復興資金として渡してきてしまった。
守和斗たちは最低限の旅費だけもらったのだが、それも保って3日である。
売ったら高そうなキングサーベルタイガーの牙も実はもらってきているが、こんなレアアイテムを売ったら簡単に足がつくだろう。
せっかくラクティスの部下に催眠術をかけて、嘘の冒険者パーティーをでっち上げたのにそれでは意味がない。
記憶にある場所か、視認できる場所にしか飛べない
しかし、長距離の
やはり超常は、通常に対して毒になりやすいのだ。
他にも連合国の1つである
しかし、第七は第一派ではあるものの、第六の隣に位置するために、どうやら内部で派閥ができて意見が分かれているらしい。
要するに連合も一枚板ではないということなのだ。
下手に接触すると面倒なことになるかもしれない。
「というわけで、いろいろと検討した結果、自分たちで金を稼ぐしかないと結論づけたわけだが……」
ファイが言葉を続ける。
「移動しながら金を稼ぐとなると、やはり冒険者をやるしかない」
「誇り高き
ファイの言葉に、パイが下唇を噛みながら俯く。
丸いメガネの下、幼い顔が顰められる。
「まあ、そう言うな、パイ。むしろ、我々は
ファイの言葉に、守和斗は疑問が生まれる。
「でも、資格を証明するには、本名を明かさなければならないんじゃないの?」
「それは心配ない。
そう言って彼女は掌を見せた。
するとそこに、魔力をともなった複雑な紋章が現れる。
淡く赤色に光る線で、円形に花びらが幾重にもなった模様だった。
「これは
「へー。なるほど……ん?」
感心する守和斗の肩を隣にいたクシィが指先でつついてくる。
「ちなみにこれが、
クシィは体を守和斗に寄せたかと思うと、ファイと同じように掌を見せてくる。
そこに現れたのは、やはり淡い赤で剣を星形に重ねた紋章だった。
「そしてさらに……」
クシィの掌に、今度は別の紋章が現れる。
それは、五芒星が描かれた単純な物だったが、その中央にこの世界の文字で数字が書かれている。
「これが
「おお。
「……ぷっ。なによそれ」
クシィにかるく笑われるが、守和斗は気にしていなかった。
実は内心で、冒険者という響きにワクワクしていたのだ。
ライトノベルで読んだ夢や冒険にあふれた冒険者。
未知の迷宮に挑むワクワク感。
そして冒険に行かない間のまったりとした日常。
それは守和斗にとって、ちょっとした憧れだった。
「ところで、この紋章の真ん中にある25ってなに?」
その守和斗の質問に身を乗りだしたのは、なぜかファイだった。
彼女はクシィの掌を見て目を見張る。
「……ハレンチ。貴様、
「フフ。まーね。これでも魔術学院で学年トップだし」
ファイの言葉に、守和斗の肩に手をのせたクシィが鼻高々になる。
「どうせバカ騎士は、他にもってないんでしょ?」
「くっ……」
碧眼で睨むも言い返せないところを見ると、どうやら図星らしい。
だが、そのファイの代打のように、隣からパイが掌を見せた。
するとそこには、十字架のような紋章が浮きでている。
「
「――なっ!?」
パイの言葉に、今度はクシィが息を呑んだ。
そしてクシィだけではなく、ファイまでも息を呑む。
「すごいじゃないか、パイ! いつのまに……」
「ファイ様を驚かそうと黙っていたのです。これでファイ様が怪我をなさっても、体のすみからすみまで見てさしあげられます!」
「お、おお……」
若干、ひき気味のファイ。
どうもこの2人の関係は微妙らしい。
それにレベルで負けていたのが口惜しいのか、横ではクシィが歯噛みしている。
この話題は続けない方がいいと、守和斗は話をそらすことにする。
「ところでさ、この世界にもレベルってあるんだな」
「……ああ。そう言えば、古代語の『レベル』と同じね。……まあ、それは当たり前かな。効率的に強さを図るために、
クシィの説明に守和斗は複雑な想いで苦笑する。
たぶん、
ライトノベルのファンタジー異世界転生・転移物でも、冒険者組合やレベルあげは定番だ。
この世界の人間をゲームの駒扱いすることは許せないが、レベル上げという冒険者の醍醐味を味わえるのは楽しくなってしまう。
それに確かに数値化されることで、強さの判定をするのに合理的である。
「冒険者か……。俺は、なにになろうかなぁ」
守和斗は、ついボソッとこぼした。
どのジョブを選ぶのかは、RPGなどでもキャラメイクのもっとも楽しいポイントの1つだ。
楽しくならないはずがない。
しかし、周りにいた3人の娘たちが、なぜか目を丸くして守和斗を見ていた。
「……え? なに?」
なぜ驚かれているのかわからず、守和斗は尋ねるように3人の顔を見わたす。
すると、ファイが開口する。
「守和斗、冒険者はそんな簡単にはなれんぞ」
「え?」
「冒険者業は信用仕事だからな。誰でも彼でも認定していては、仕事が適当な奴も出てきてしまい、最後には依頼など来なくなる。だから冒険者は資格がある者しかなれない。まず、
「え? 冒険者になる時に、ナイト……いや、
「バカ言え。
「
パイが説明を続ける。
「
「す、すいません……」
なんでそんなところだけ現実的なんだと思うが、考えてみれば当たり前である。
ゲーム的に考えていた自分が、守和斗はたまらなく恥ずかしくなる。
中途半端にゲーム的なところがあるため混乱してしまうが、ここはあくまで現実なのだ。
「まあ、
「いや、それは
「ならば資格をとるしかない。格闘戦闘の専門家である【
「すごく納得だ……」
ファイの説明に、守和斗はうなずくしかなかった。
仕事がそんなに簡単なものではないことぐらい、嫌と言うほどわかっていたはずである。
しかも、冒険者の仕事の多くは「成功報酬主義」とはいえ、「成功できる根拠がない者」に、仕事を依頼する馬鹿など確かにいないだろう。
ならば身分証明、資格証明など、能力を証明する制度は明確に存在して当たり前である。
住所不定、保証人なし、資格なしの人間が、そんな簡単に職に就けるわけがないのだ。
「……ってことは、俺は冒険者にはなれない? もしかして無職?」
「……っていうか、ご主人様というより、女の『ヒモ』じゃない?」
「うぐっ」
クシィの言葉に、守和斗は顔を押さえる。
それはなんとも屈辱的だ。
仮にも救世主とまで言われた自分が女性のヒモに甘んじるなど、元の世界の両親にも妹たちにも顔向けできない。
「なーんてね。まだなれる戦闘系
顔を上げると、クシィが悪戯っぽく笑う。
「高レベルは学院に通わないとダメだけど、あたしと同じ攻撃系精霊魔術の専門家【
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