第四幕:冒険者(四)
「さて、さっきの続きだけど。唯一、
食事を終えて宿に戻った守和斗たちだったが、クシィだけ寄るところがあると後から部屋に帰ってきた。
そして宿の部屋で、食堂の続きを話し始める。
部屋は金がないので、ベッドが横並びの長細い4人部屋。
女性陣からまた「変態」「スケベ」と文句が来るかと思ったが、それは一切なかった。
唯一、パイがなにか言いたそうだったが、どうやらファイに説得されたらしい。
その代わり、両端にクシィとファイ。真ん中の2つが守和斗とパイとなった。
もちろん、パイはファイの隣をキープしている。
今はその真ん中のベッド2つの間で、4人とも顔を合わせている。
守和斗の腰かけるベッドの隣にはクシィが腰をおろし、向かい合わせのベッドにはファイとパイが座っていた。
ちなみにファイの隣に腰かけた瞬間、パイの鼻息が荒かった気がしたが……守和斗はそれを見なかったことにした。
「それで
そう言いながら、クシィが横に置いていた薄い小冊子のような物を手にした。
少し黄ばんだような色をした紙で、傍目からも肌理が粗いのがわかる。それが細い糸のようなもので簡単にとめてあるようだった。
表紙にはなにやり魔方陣のようなのが描かれており、そこにわずかながら守和斗は魔力の反応を感じていた。
「それは?」
「これはね、さっき買ってきた【精霊魔導教本】という
「おお、なるほど。それは簡単だ」
「でしょう? この方法は、レベル9までだけどね。それ以降は、魔術学院にいかないと手にはいらない。ちなみにレベル10以降は、5属性全部を修得する必要もなくなるわ。得意な属性だけで規定数覚えることができればクリアよ」
「……なら、レベル9の精霊魔導教本を買った方がよかったのでは?」
「レベル1から順番に覚えないとダメなの。レベル1から9までそろえる資金もなかったしね」
「なるほどね。まあ、とりあえずレベル1をクリアさえすれば、
「そうよ。問題は精霊たちの教授を受けられる器ができているかどうかね。精霊たちは単純に
「やってみるよ」
守和斗はその教本を受けとった。
そしてクシィの指示に従い、掌をかざしてわずかな魔力を流しこむ。
途端、魔方陣が反応して赤い光を放ち始める。
それは、
紅蓮、瑠璃、深緑、黄土、白妙……5色の光の球が浮かびあがり、守和斗の周りをゆるりと回りだす。
球の大きさは、親指大。
よく目をこらせば、うっすらと人の形をしているようにも見える。
それはこの世界の精霊。
精霊は踊るように上下に揺れ、少しずつ守和斗に近づいていく。
守和斗に流れこむ、こそばゆいような精霊からのアクセス。
それを守和斗は、黙って受け入れる。
――だが、途中で紅蓮だけが外側に弾かれた。
停止するすべての光。
そして1回だけうなずくように揺れると、その場からスッと消え去った。
「しっ……失敗した!? どういうことよ!?」
それを見守っていたクシィが立ちあがって驚く。
ファイやパイも、同じように目を見開いて驚愕していた。
「こんな失敗、初めて見た。どうして……火の精霊だけが……火……――あっ……ああああっ!!」
何かに気がついたクシィが、合点がいったように手を叩いて守和斗を指さした。
それから、額をおさえて「しまった……」と重々しく呟く。
「ど、どうしたの? 俺、なんかまずいことでもあった?」
「あるもなにも……あんた、
「……ああ。そう言えば、『
トラクトの使用したのを見て覚えた魔術だ。
「きっと、そのせいよ……」
クシィが大きなため息と共に、またベッドに腰をおろした。
「あんたが覚えた『
「……というと?」
「この魔導書は使えないという事よ。方法としては、火の
「つまり、手詰まりってことか。なんかごめん。無駄遣いさせちゃったね……」
「あんたのせいじゃないわよ。気がつかなかった、あたしがバカだったわ……」
「まあ、なんだ……すぐに冒険者になれないだけだし……」
沈鬱な雰囲気がその場を包む。
特に守和斗は表情に出さないようにしていたが、かなりガッカリしていた。
金が稼げずヒモになることよりも、憧れていた冒険者というものになれないことが、ことのほかショックだったのだ。
今まで身を粉にして世界を救うために生きてきた彼が、これからの人生を楽しむためにもやっていきたいことを見つけたのに、それを叶えることができなかったのである。
(まあ、彼女たちを送ったら、ゆっくりと目指してみるか……)
そうだ。すぐに冒険者になれないだけで、時間をかければなることもできるのである。
守和斗は気を取り直して、自分なりになにか金稼ぎの方法を考えようとしていた。
「……なれますよ」
そこにボソッと、パイが呟いた。
「すぐに冒険者になるだけなら、もっと簡単になれる
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