《参》女子高生とヤクザ
これは友達の話です。
この友達はなかなかぶっ飛んでる奴で、たこ焼きが好きだという理由でたこ焼きのタトゥーを肩に入れているという頭おかしい奴なのですが、そんな彼がある時、ふと一人旅に行きたくなったのだそうです。
彼は誰に対しても物怖じせず話しかけたり出来る男で、それこそ引っ込み思案な私とは雲泥の差で、クラブで出会ったフランス人と仏語を話せるわけでもないのに仲良くなってフランスへ一ヶ月間も金もないというのに旅行に行ってギャングのアパートに入り浸って物乞いしながら遊び、しまいにゃ捕まりかけたりしてもヘラヘラしてるような男なのです。
なので国内での一人旅など、近所のコンビニにエロ本を買いに行くより容易いことだったのでしょう。
さて、これは彼がその一人旅に行った時の話です。
彼はビッグスクーターに下着と少々のお金を積んで、とある北陸の街に行きました。行き当たりバッタリの旅だったらしいのですが、彼はその街でお酒と音楽でも楽しもうと思い小さな繁華街にあるクラブに行きました。クラブに一人で行くような人、嫌ですね。
そこで知り合ったヤンキーに妙に気に入られ、「寿司を奢ってやるからついてこい」と言われたそうです。
彼は奢って貰えるならゴミでも貰うような男なので、喜んでついていきました。
連れていかれたのは回らないお寿司屋さんです。ビンボーな彼は回らないお寿司など食べたことがないので大喜びです。
店の前につくとヤンキーは「オジキにお前を紹介したいからちょっと待ってろ」と言い残し、どこかへ消えていきました。
しばらく待っていると金のネックレスに白いスーツ、タレ目サングラス、という出で立ちの明らかに『そっち系』の人が肩で風を切ってやってくるではありませんか。
彼も少々ビビったようですがせっかく寿司を奢って貰えるのだから別にいいか、と持ち前の物怖じしない性格でニコニコ握手をして一緒に寿司屋に入りました。
オジキさんはその寿司屋の常連らしく、店の主人に偉そうに注文を繰り返します。
流石は北陸の街です。お寿司は大変美味しかったそうです。
さて、良い感じにお腹も膨れてきた頃、オジキは声を潜めて言いました。
「この包みを隣町にいる知り合いに届けて欲しい」と。
明らかに怪しい話です。「礼はする」というのが余計恐ろしいです。
私なら「あわわわ」と慌てふためき二、三歩後ずさりしておでこを地面になすりつけて「勘弁してください」と半べそで言うところ、彼は「いいっすよぉ」と持ち前の物怖じしない性格で引き受けてしまったのです。
さて、時間は既に夜中です。しかし、すぐに行って欲しいというオジキの頼みを二つ返事で引き受けた馬鹿な友人はバイクにまたがります。
さあ、今まさに出発しようかという時になり、オジキはこう言いました。
「寄り道はするな。途中の山道や向こうの街で誰かに止められそうになっても無視しろ。10分以上後ろに同じ車がいたら本気で逃げろ」
絶対ヤバいやつです。私だったら失禁して勘弁してください、と泣き叫ぶところですが、友人は「了解っすー」と持ち前の物怖じしない性格で頷きバイクを走らせました。
深夜の街を抜け、彼は目的の隣町へ続く峠道を進みます。深夜の峠道なんて私は絶対走りたくない。しかし、彼はアホなのか度胸があるのか、特に気にもしないでバイクを走らせます。
街灯もない田舎の山道を一時間ほど走った時、彼はバックミラーに明かりが見えることに気づきました。
車がずっとついてくるのです。
しかし、分岐もない山道です。たまたま同じ道を走っているファリミーカーかもしれません。
とはいえ、寿司屋でのオジキの話もあります。出来るだけ距離を離そうと彼はアクセルをふかしました。
その時です。自車のヘッドライトが女の子を映し出したのです。
制服を着てルーズソックスを履いた女子高生がずっと向こう、暗い山道を一人歩いているのです。通学カバンを肩にかけ、トボトボとミニスカートから伸びる白い脚を動かし、フラフラと明かりもない山道を歩いているのです。
こちらからは後ろ姿しか見えません。
セミロングの黒髪が揺れるだけです。
こんな時間にこんな人気の無い山道を一人で歩いているなんて、おかしい。
彼はそう思いましたが、彼の持ち前は物怖じしない性格です。
それに大の女好きでもあります。
話しかけて後ろに乗せてあげようかな、と思ったのだそうです。アホです。
アクセルを緩め、前方の女子高生に近づく彼。女子高生はヘッドライトに照らされているというのに、振り向くこともなくトボトボと歩いています。
気づかないわけないのになぁ、なんて能天気に思いながら友人は女子高生に近づきます。
肩が叩ける距離になっても少女は振り返りもしません。
絶対変だと思うのですが、彼はアホなので気にすることもなく声をかけようとしました。
すると、背後からけたたましいクラクション。
そうです、先程から後ろを入っていた車です。
彼が女子高生にうつつを抜かしているうちに接近していたのです。
ヘッドライトをハイローにカチャカチャ切り替えるように、明らかなパッシングを繰り返し近づく車の助手席の窓から、身を乗り出したパンチパーマの男が「オラァ!そのバイク止まれやぁ!!」と怒鳴りつけてきたのです。
(ヤバいっ!)と流石に彼も慌てて、アクセルをふかしました。
もう女子高生どころの話じゃありません。
カーチェイスが始まります。曲がりくねった道を決して走行性能が良いわけではないビッグスクーターと黒塗りの高級車とが駆け抜けます。
彼は必死に高級車から逃げ、距離が稼げた所で木陰にエンジンを切ったバイクを止め、息を潜めました。彼のバイクが隠れていることに気づかず、猛スピードで高級車は過ぎ去っていきました。
なんとかやり過ごした彼は、流石にバクバクの胸を撫で下ろし深呼吸をしました。鞄にはオジキから預かった怪しい包み。
もうこんなもの投げ捨てて逃げようと、思ったその時、目の前の地面に古ぼけたチラシが落ちていることに気づきました。
なんとなく気になって拾い上げた彼は驚き、全身に鳥肌が立つのを感じました。
そのチラシは三年前にこの付近で行方不明になったという女子高生の捜索の為のビラだったのです。
そして、そこに貼られた行方不明時と思われる制服姿の女子高生の古ぼけた写真は、さっき山道で見た女子高生と全く同じだったのだそうです。
考えてみれば、こんな深夜に制服姿の女子高生が周りになにもない山道を歩いているわけがありません。
ゾッとした彼は急いでバイクを走らせました。
とはいえ、前には自分を探すパンチパーマの高級車。後ろは行方不明の女子高生の霊
(?)です。
「どっちに行きゃいいんだ!って泣きたい気持ちになったぞ。」
……と、居酒屋で笑いながら彼は語りました。
こんな話を聞かされても私はもうどこからツッコんでいいのかわかりませんでしたが、無事に帰ってこれたので、まぁいいか、と思いました。
終わり
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