13篇「狂気の王 後編」
木々の間から、
いつの間にか、森の古道で俺達は怪しげな連中に囲まれている。
十人か、二十人か、あるいは、それ以上いるのか、よく分からない。
手には、
――ピンチッ!!
これって、大ピンチじゃないのか!?
数が多過ぎる。
ダン爺が凄ぇ~戦士だってのは聞いてる。
とは云っても、人並み外れてデカイってだけの爺さんだし、この人数相手に
後は、魔術が使えるって云っても女子供。
俺に
コレ、マズイでしょ!
「ダイナマクシア伯の手の者だな?」
――おっ!
話し掛けてきたぞ。
話し掛けてきたって事は、会話ができる、つまり、交渉可能って事だ。
交渉次第でなんとかなる、ってなら
「その通りだ。君達に危害を加えるつも…」
「うるルルルぅせぇぇぇーーッ!この
「
「あなた達ですね、周辺集落の何の罪もない住民の田畑や家畜を荒らしたのは!わたし、許しません!」――更に被せるようにファム。
えーっ!!!――
ちょっと、ヤル気満々じゃねーか…
なんでコイツら、こんなに短気なんだよ!
「おのれ、伯爵の
うお!
交渉決裂!
済し崩し的に喧嘩かよ。
堪らん!
ダン爺が勢いよく一歩踏み出す。
――ドンッ!
踏み出した瞬間、ダン爺の姿が1体、2体、3体…と増える。
分身!?
『
次から次へと黒装束の連中を
ハムが金切り声を上げる。
――なにごとッ!?
「おどれら、苦しみぬいて、その罪を
ハムは独自の妖術、
それは我が
黒装束の連中は、装束
――おい!?
やり過ぎじゃねーか!?
ファムも詠唱?
「
ファムは
小鳥の
無数の
あっという間。
時計を確認する余裕はなかったが、体感で5分も経っていない、その程度。
凄惨な光景に
「おい、やり過ぎだろ!」
「よく見てみろッ、坊主ッ!」
茨の蔓で拘束された黒装束の者達に目をやる。
三角帽が脱げ落ち、顔が顕わになっているその男。
顔半分は、両生類のそれを思わせ、肉が
「なんだッ、この化物はッ!?」
「“
「坊主!おめぇ~、もしかして、コイツらの事、可哀想とか少しでも思ったんじゃあるめぇーなァ~?」
「…あっ…うん…いや、だって、その人間な訳だし…」
「カイトさん!
「……いや、でも…」
「小僧っ!
「え?ひっぱたくけど?」
「同じ事ぞな。いや、もっと遙かに深刻な事態ぞな、もし」
「カイトさん。渾沌は、
「……うーん…」
「坊主。分からねぇーなら、それでもいい。だが、それは死に直結する、とだけ覚えておけ。
抜き身の刃をチラつかせて殺意を抱くヤツを前にして、なんも抵抗しねぇ~ってのは、自殺と変わらん。
渾沌ってのは、その存在そのものが、殺意を抱くヤツ以上に危険な存在。ヌルイ事を云ってっと、すぐにヤツらに付け込まれ、取り込まれる。渾沌に取り込まれたら最後、
「……分かったよ…」
ダン爺は、茨に囚われた者達の首を次々と
絶対悪、と云うのが、どうにもピンとこない。
別ルート、正確には、なかった事になったルートで、孤児のサアヤが渾沌の化物に襲われた時は、確かに恐ろしかった。
今の連中も醜悪な姿をしてはいたものの、今ひとつ、絶対悪と云う認識が俺には薄い。
もっとゲームチックに割り切って、敵対者は皆倒す、くらいの気持ちになった方がいいんだろうか。
恐らく、そうしないと、あっさりとやられてしまうのかも知れない。
3人が動いていなければ、連中に殺されていた可能性もある。
どうにか、スイッチを入れる
逃げた者の跡を追う。
ダン爺とファムは、
ここは黙って着いて行くしかない。
古道からも外れ、木々の間を縫い、茂みを越え、森の奥へ奥へと進む。
この追跡からが長い。
1時間、2時間と道なき道を、辺りを警戒しながらゆっくりと進み、いつの間にか真昼になっていた。
森が少し開けた木陰の下で一旦、小休止。
村の中での聞き込みしか想定してなかったんで、俺は食料の類を何も持ってきていない。
だが、ダン爺は干し肉や干し
どうやら、デイドリでは常に何か食べるものは携帯しておかないとマズイ気がする。
何せ、コンビニやスーパーってのがそこら中にある訳じゃない。
移動にも
その中に、保存食や水を常備しておくのがベターだ。
また、1つ勉強になった…のかな?
「ヤツらの
「え?何故、そんな事が分かるんだ、ダン爺?」
「村で儂らを
んでだ、
「カイトさん。この辺りは
「そ、そうなのか!?」
「小僧、追跡を再開したら気を引き締めて行くんぞな」
「お、おう!」
――成る程な~。
こりゃ、もっと色々考えて行動しないとダメだ。
ゲームよりずっと慎重にならねーと!
追跡を再開。
休憩はたっぷり1時間ちょい取った。
体力回復には十分。
3人は
元々、俺は小食なので食事は少なくても全然余裕なんだが、やはり、水は携帯必須と実感。
――さて。
ダン爺達は、連中の隠れ家は近いと云ったが、再開してから1時間半は過ぎている。
逃亡者の
とは云え、ダン爺やファムの追跡は恐らく早い方だと思う。
じっくりと地面を眺めたり、考え込んだりは一切してはいない。
恐らく、痕跡の確認は
俺も追跡直後は、逃亡者の痕跡は分かった。
急いで逃げていたであろう足跡が残っていたし、草も踏み
普通の歩行速度で移動されていると、その痕跡は俺には分からない。
これもよく観察して出来るようにしておいた
覚える事が次から次へと。
なかなか、興味深い。
「坊主!息を
珍しくダン爺が小声。
「どうしたんだ?」
「カイトさん、水の匂いがします。大分汚れた、汚れたと云うよりは
――クンクン。
鼻に意識を集中させ、嗅いでみたが、水っぽい臭いは全く感じられない。
俺の鼻が悪いのか、それともエルフの鼻がいいのかは分からないが、云われた通り、警戒し、出来る限り足音を立てず、忍ぶように歩く。
比較的木々の密集した場所を選び、それを縫うように歩む。
途中、木々を
珍しいな、と関心を抱いていたら、その栗鼠がファムの近くに寄ってきた。
ファムは栗鼠に耳を
「近くの河跡湖に邪教の
栗鼠と話したのか?
うむ、ファンタジー。
これって、俺も出来るようになるのか?
物音を立てないように歩き始めてから
ダン爺の手合図で頭を下げ、茂みに身を隠す。
ここ
水の臭い。
汚水の臭いだ。
この臭さに気付いてしまうと、これが気になって仕方ない。
鼻が曲がりそうだ。
茂みに潜み、息を潜め、隙間から向こう側を覗く。
何やら
近くには社が見え、その奥には沼が見える。
沼の
既に腐敗しているものもあり、
――
儀式か何かの準備だろうか。
「儂とハームは両サイドに分かれてもう少し近付き様子を覗う。坊主はファム
「うん、分かった」
そう云い終わると、ダン爺とハムは二手に分かれて大きく左右を忍びながら迂回。
間もなく、二人の姿は視界から消え、ファムと二人で茂みの奥を覗く。
――それにしても。
合図?
何の合図なんだろう?
二人と分かれてから大分時間が経った。
長時間しゃがみ込んでいるので支えている足が
太陽は大きく傾き、夕暮れ特有の長い影を落とす。
まさか、こんな森の奥深くで1日過ごすのか?
追い掛けるんじゃなかった、と少し後悔。
一段と薄暗くなった夕闇を、篝火の炎が高く突き上げる。
黒装束の一団が
――なにが始まるんだ?
怪しいその集団は、口々に何かを
「偉大なる
三日月湖の水面が
「!?マッド・トード?
「そのようですね、カイトさん。ほら、アレをご覧ください」
湖面から巨大な物体、そう、
――で、でけぇ~~~!!
二階建ての家屋の屋根の高さ程もある
象よりも巨大なそのカエル、と云うよりは、カエルの姿に似た化物は、得たいの知れない
目の上には角のような巨大な突起物が突き出ており、爪は
完全に、化物。
その
その姿を見ただけで、背筋に悪寒が走る。
顔は引き
――これか?
これが、絶対悪、ってモノと対峙した感覚なのか?
何も分からないのに、知らないのに、兎に角、圧倒的にムカつく感覚、違和感。
今は無き別ルートで
早く、この場から立ち去りたい。
逃げ出したい。
ログアウトを――
「今だァーッ、坊主ッッッ!!!!!」
――えッ!!?
エクスカリバー・チェーンソー 武論斗 @marianoel
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