10篇「辺境伯、帰還す」
※ ※ ※ ※ ※
「ご主人様、お帰りあそばされました!」
既に、かなりの数のお屋敷の
間もなく、勇壮な騎馬に
鎧武者は、20代半ばか、もう少し上か、そのくらいに見える。
好青年と云うよりは、もう少し落ち着きと貫禄が見え、壮年と云った方がいいのかも知れない。
従者が下馬を手伝い、鎧武者が玄関に近付くと、家人は皆、
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
屋敷の主人の名は、ダイナマクシア。
“
辺境伯の爵位を持つ名誉ある
“ダー”は、名ではなく、剣士の称号の1つらしい。
伯爵の持っている領地は、ここから
つまり、このお屋敷は、別宅って事。
ダリア王から譲り受けた土地って訳。
辺境伯の爵位そのものが比較的珍しいらしいのだが、その中でも更に珍しい二重辺境伯だと云う。
レグヌムって云う遙か西にあるでっかい国、
レグヌムと竜とご一緒帝国について説明を受けたんだが、どうにも理解出来ない。
しかも、竜とご一緒とか云う、この
滅んだ国の称号がいまだに残ってるってのも、イミフ。
まだ、俺の認識力がそれを理解する迄、追いついてないって感じ。
ファムは、俺を
ファムは初めて会った時から、俺を転生者だと思っているらしい。
転生者ってのは、外宇宙、
転生者は、ごく稀にこの世界にやってくる旅行者、
俺が、俺の中のリトル俺の甘言に乗って口走った
まあ、外の世界からやって来た事には変わりないので間違いではないんだが、そんな大層なタマじゃないぞ、俺は。
広々とした応接室。
会議室にも見えなくない、かなりデカイ部屋に俺は通される。
部屋の真ん中には、巨大な木製の丸テーブルが置かれている。
――これって、アレじゃね?
円卓。
中華料理食べに行った時にしか見たことないぞ。
既にファムは部屋に入っており、壁際の席に腰掛けていた。
伯爵は席から立ち上がり、こちらを出迎えてくれた。
――どうぞ、腰掛けて。
紳士的な態度で椅子に座るよう促してくれる。
よかった――
片膝立てて地べたに座り、
――よし!
ここは、積極的に点数稼ぎに行こう。
「初めまして、伯爵。
ファムに誘われ
「ようこそ、カイト君。我が
必要なものがあれば遠慮なく、我が家人に云い賜え。出来る限り、用意させよう」
「あ、ありがとうございます!これからも宜しくお願いします!」
いい人じゃないか!
貴族っていうから、もっと傲慢でイヤなヤツかと思った。
「ところでカイト君。ファムタファール女史から
「え?……一応、それっぽいです」
「ちょっと試させてくれないか?」
「え?試す?」
「試すと云うのは失礼な言い方だな…そう、相談。相談させては
「…そ、相談ですか…?」
――ひぇッ!
いやいやいやいや。
それって…
すでに、試されてるんですけど!
偉い人からの相談って、基本、断りようないじゃん。
「実は、屋敷に戻る途上、水晶川を越えた辺りで、近くの村落に住まうという住人達から直談判を受けた。
ここ最近、近隣の村々の家畜や農作物がなにものかに荒らされ、かなりの被害を受けているらしい。
どうやら、ここから北西に向かった水晶川中流域近くの
「は…い?」
「村落の警護や事件の解決そのものは、ダリアの政治屋と官吏達に任せれば良いので、追って王都には報告しておくが、私を信頼し、頼ってきた村民らを
そこで相談なのだが、君に私の
「えー!?お、俺がッ!!?」
「どうかな?引き受けてくれるかね?」
「――…」
――これ…
断れませんよね?
試すって云われてからの相談じゃ、もう断れる感じじゃないし。
くっそ!
いや、イベント発生そのものは、ありがたいっちゃ~ありがたいんだけどサ。
マッド・ロードはアカンでしょ、マッド・ロードは!
最初の町出て、すぐに魔王討伐みたいな、結構な勢いでムリゲーですよね、それ?
王都で
あ、山羊人って云ったけど、コレは俺が適当につけた名前なんで、実際にアイツの事をなんて呼ぶのかは分からない。
うーん、困った――
「お待ち下さい、閣下」――ファムが割って入る。
「うむ、
「閣下。カイトさんはまだ、こちらに来て間もなく、土地勘もなければ、慣習や文化に
ですから、人里離れ、何があるか分からない場所へ、カイトさん一人で調査に向かわせると云うのは反対です!」
ナイスだ、ファム!
ラスボスって訳じゃないにしても、マッド・ロードなんて呼ばれちゃってるボスクラスの調査とか、俺には早過ぎる。
ここは上手いこと断って、レベル上げ…レベルって概念そもそもないけど、もうちょっと何とかなってからじゃないと。
ガチ勢ってのはほら、無謀とは全然違うし。
ほら、せめて魔法の剣的なナニかを手にしてからじゃないと。
「はっはっはっ、ファムタファール女史。私は何も、カイト君一人で調査に行って貰おうなんて思ってやしない。
カイト君が望む人物、人材を幾人か
あくまでもカイト君は、私の名代であり、それはそのまま調査団の長を意味し、現地での噂の真相を確かめて貰えれば良いのだよ」
「それでしたら、閣下。わたしもカイトさんにお供します」
「勿論、構わない。カイト君も人材が必要なのであれば、当家の家人達から選び、連れていっても構わない」
「あっ…ハイ」
うげぇ~――
仕方ない。
覚悟するか…
「分かりました、伯爵。調査の件、お引き受け致します。でも、家人の皆様のご助力は結構にございます!」
「うむ。家人の手伝いはなくて良いのかな?」
「はい、大丈夫です。その代わり、調査に同行して貰いたい人物がおりまして、その者達に伯爵から口利きをお願いしたい、と思います」
「ほほう。相分かった。して、その人物とは?」
――大門前
「なぜ、ワシが小僧っ子の下についてド田舎の家畜泥棒風情を調べに行かなきゃならんぞな」
「伯爵からお話は聞いたでしょ、ハームちゃん。いつも伯爵にはお世話になってるんだから、たまにはいいでしょ?」
伯爵邸の敷地と外を隔てる大門に、四人は集まっている。
馬三頭に
騾馬の内、一頭は俺の乗馬で、他の騾馬は駄馬。
馬はデカくて、まだ、一人で乗るのは危ない。
馬三頭は、他メンバーの乗馬。
メンバーは、俺、ファム、ハーム、ダン爺。
「調査の話は聞いたぞな。ほじゃけん、カミクライを助けよと云うのであればこそ、引き受けたんぞな。
じゃが、小僧っ子が伯爵の名代とは聞いておらんぞな」
――えーっ……
初めて会った時、云い過ぎちまった上、見掛けによらず凄そうな幼女だそうだから、親睦を深める目的も込めて呼び寄せたのに、丸っきり最初の時と同じ状態に戻ってるぞ。
「おい、ハム!お前、
「うるさーわい!馬にも乗れんよ~なションベンくさい小僧っ子がよう云うぞな!」
「こっ、こいつ!また、泣かされてぇーのか、おいッ!」
「うるせぇーぞ、てめぇ~らッ!!ちったぁ~静かにしろォ!!」
ダン爺が
とにかく、この爺さん、やたらと声がデカイんで、いきなり話し掛けられるとビクッとする。
「これからマッドなんちゃらをぶっ倒しに行くんだからよォ、ちったぁ~仲良くしろや」
「え!?いやいや、調査しに行くだけだよ、ダン爺」
「ご託をぬかすな!アルスマクスの話を聞いただけで分かるわっ!
そいつらァ~、
「ほーよ、
こいつら、自由過ぎる上に血の気が多い。
しかも、自信家。
大丈夫かな?
とても、
「さあ、カイトさん。行きましょう。
――ファム、お前もか…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます