3篇「YO!YO!ょぅι゛ょ」
※ ※ ※ ※ ※
――で、でっけぇ~
想像を遙かに超えるデカさだ、このお屋敷。
スケール感が、ハンパない。
日本のど田舎行ったって、こんなにでっかい家ねーだろ?
こっち用の腕時計で時間を計ってみたんだが――
町を出て、田舎道みたいな感じの石畳をファムの後を着いて歩き、ほぼ30分ってところで、そのお屋敷の薄らデカイ門に到着。
それから庭を歩き続け、更に30分して
途中、村みたいな集落あったぞ。
どんだけ、広いんだよ、ここの庭。
正味、1時間ちょい。
ちょっとちょっと~…
正直、チャリが欲しい。
いやいや、原チャが欲しい距離だぞ。
途中、ファムにどれくらいで着くか聞く
この世界の住人の云う、もう少し、って長過ぎんよ!
俺なんて、結構疲れちまって、軽く息切れしてるっつーのに、彼女は、けろりとしてる。
これって、彼女がエルフだから?
それとも、こっちの住人って、タフなの?
「さあ、着きましたよ。どうぞ、お上がり下さい」
――ゲストルーム。
深紅のベルベットのソファに腰掛ける。
歩き疲れたんで丁度いい。
が、落ち着かない。
豪邸も豪邸。
玄関を入り、広々したエントランスをファムに連れられ、奥へ奥へ。
歩く歩く。
ここまで来て、まだ、歩く。
途中、何人かのメイドさんを見掛けた。
本物のメイドを見たのは初めて。
ま、“夢”の中なんだが。
どうやら、このお屋敷は、ファムのものではないらしい。
ファム自身も
屋敷の持ち主は、ダイナマクシアという辺境伯のものだと云う。
どうやら、今、領主は不在らしく、帰ってきたら取り次いで貰える、と。
正直、あんま興味ないけど。
ファムは、書庫から持ってきたという書物をテーブルにどさりと置く。
どうやら、この辺りの言語学や国語学、辞書、辞典、図鑑の
彼女もソファの隣に座り、白紙のノートを手渡してくれる。
意外だったのは、この世界に紙がある事。
流石に、粘土板や木簡は使ってないだろうとは思っていたが、パピルスや羊皮紙あたりを使っているものだとばかり思っていた。
品質がいいとはとても云えないが、十分、まともに文字を書ける。
初めに、ファムは文字を教えてくれた。
完全にお手上げ。
例えるのであれば、幼稚園年長さんから小学校低学年くらいの児童への勉強法なんだろうとは思うが、俺はそもそも、その“域”に達してない。
文字より会話、更にその前段階の単語と幾つかのポピュラーでシンプルな定型文を教えてくれと頼んだ。
こうなってくると、教師と生徒と云うより、お母さんと赤ちゃん。
かなり、マニアック!
なんか知らんが、上級者向けのプレイみたいだ。
なかなかくるシチュエーションのはずなんだが、実際やってみると、これが全く感覚が違う。
そう、知的好奇心のが
図鑑に描かれた絵を見て、単語を発するファムの言葉をそのまま真似る。
これがなかなか、同じような発音が出来ない。
要は、難しい!
これがなかなか、俺的には燃えるものがあり、必至に覚えよう、となった訳だ。
あまりにも上手く発音できないから、エルフと人間で発声に関するメカニズムが違うんじゃないか、とファムに質問したくらい。
回答は至ってシンプル。
今、俺に教えてる言葉は、この辺りの共通言語で人間が日常的に使ってる言葉、なのだそうだ。
うーむ…
無駄な知識、というか偏見のような感覚があるせいで、勉強の邪魔になる。
――集中。
発音についてのレクチャーを聞きながら、ファムの口の動きをつぶさに観察。
何度も繰り返す、単語を、熱心に。
そして、
リンゴのような赤い果物、その絵。
喰ったことも触ったことも味も分からない、そりゃ、実物を見たことさえないんだから当たり前だが、その果物の普通名詞の発声が、どうやら完璧だったららしい。
ファムもやたらと喜んでいて、エルフ特有の言葉やその他の特殊な言語も覚えられる素養があるんだと。
リンゴ、ま、リンゴじゃないんだけど、その果物の名前云っただけなのに、ここまで褒められるとは、なかなか、こそばゆい。
後で知ったことだが、母音や子音と云ったような純粋な発音、アクセントやイントネーションと云った高低強弱や音程、音節の類以外に、
初め、なかなか褒めてくれず、急にベタ褒めしたのは、この言霊に関してだったんだと。
どうりで難しい訳だ。
だって、現実世界では、そんなの存在しない概念、というか、不要な概念だったんだから。
夢のくせに、こまけーんだよ、設定が!
「なんぞ、
――え?
誰?
客室の扉の前に少女、というか、幼女が1人立っている。
ロープを
あら、かわいい!
いくつぐらいの子かな?
5、6歳くらいか。
白人さんは成長早いって聞くから、もう少し下の可能性もあるかな。
小さいのに、顔立ち整ってるな。
こりゃ、将来、
有り
ま、ファムっていう妖精みたいなのが、隣にいるんだが。
――ん?
あれ?
ドア、開いた様子ないんだけど、どうやって入って来たんだ?
つか、いつから
「あれ?今、言葉分かったぞ?」
「それは魔術のおかげですよ。ですから、勉強は続けましょうね」
「あ、ああ~、そう云うことか~」
――いやいやいや、そーいう事じゃない。
急にそこに現れた子供は、なんなのさ?
それに、魔術って…
いや、そりゃ薄々は気付いていたよ?
ファンタジックな世界観なんだから、魔術の1つでもあるのかな、とはさ。
しっかし、サラッと云われると、ちょっとビビるじゃねーか。
「…え~と、その…そこの子は?」
「ええ、わたしと同じように伯爵にお世話になってるハームちゃんよ」
「ハム?」
これって、異言語間で話す事の出来る魔術の影響なのか?
どうにも、固有名詞が聞き取りづらい気がする。
発音のせいなのか?
それとも、言霊のせいなのか?
「こりゃ、カミクライ!ちゃんはやめろと云うとろうぞな、ちゃんは!」
「あ、ごめんね、ハームちゃん」
――えっ?えっ?
いや、違うな。
これ、完全に天然だわ、彼女。
ぱっと見、凄く綺麗で賢そうだから近付きがたいイメージあるけど、ファムって意外とフワフワしてるというか、ヌケてるな。
ま~、俺が語った訳の分からん世迷い言を
「それより、なんぞな、その
「彼は、アオバ・カイトさん。恐らく、
「そこの
「本当ですよ。確証はまだないですけど、彼は転生者です」
「こんなショボい小僧っ子が転生者だとしたら、あの予言は外れたも同然ぞな」
――転生者。
この転生者ってなんだ?
出会った初日に何度も聞く単語って事は、それなりに有名な何かなのか?
それに、予言、て。
転生者ってのは、こっちの世界のドコかで予言されてた話なのか?
いや、それより。
それよりもだ!
なんか、俺、バカにされてね?
少女、じゃなかった、幼女の言葉に棘があるような。
「そんな事ないですよ。わたし、聞きました。
彼は、言葉も分からないのに“
「そうには見えんぞな。
「この僅かの間に彼は、言霊を理解したくらいです。教え始めて、ほんの僅かですよ」
「ほじゃけん、そんなもん、血筋か
――あっ!
コレ、完全に馬鹿にしとるわ。
なんか、イラついた。
「おい、ハム!さっきから黙って聞いてりゃ、坊主だの小僧だの俗物だの下種だの、云いたい放題いいやがって!ナメてんのか、コラ!」
「お!?ほれ、見てみい、カミクライ。小僧っ子、顔を真っ赤にしてワシに文句垂れておるぞな。気性も荒く、おまけに短気ぞな」
「うるせー、ロリ!喧嘩吹っ掛けてきて、黙って聞いてる程、お人好しじゃねーっつ~の!
なんも文句云わねーとでも思ってたんか、おい!
どんな育てられ方したんだよ、このロリは!
客がいるのにノックもしねーで勝手に部屋入ってきた上、初めて会ったのに挨拶もしねーで
ロクな
親の顔が見てみて~よ!ぁあッ!!?」
「……ろ、ろり??」
「おう、クソロリ!初対面なら、まず挨拶しろや!習わなかったか?だとしたら、耳の穴かっぽじって、よく聞きやがれ!
まず、挨拶ッ!コレ、基本!!挨拶できねーヤツは
ついでに、面と向かって悪口云うなよ、アホロリ!それで
呼んでこいッ!今すぐてめーのバカ親呼んでこい!そいつら、俺が叱ってやんよ!甘やかすなボケってな。
ロリロリしてりゃ~、怒られねーとでも思ったか、このバカロリ!
調子のんな、クソして寝ろッ!!!お漏らしすんなよ、クセーから」
「……ぅぅ」――グスグス。鼻を
――ハッ!!
イカン!
幼女相手に、キレちまった。
弱いヤツには
早口で
こういう時、全然出てきてくんね~んだよな、リトル俺は。
止めに来いよ、バカヤロー!
隣にゃ、ファムもいるってのに。
うーん――
嫌われちゃったかも。
「カイトさん、あんまりハームちゃんを叱らないであげて。ほらっ、ハームちゃんも謝って。カイトさんに、ちゃんと謝って」
「……ぅぅ、ゴメンぞな、もし…」
――あれっ?あれっ?
やけに素直じゃねーか。
うーん――
「さっ、ちゃんと挨拶して、ハームちゃん」
「…ぅん――はじめまして…」
「あっ……こ、こちらこそ…は、はじめまして。ど、ども」
「…ワシは、ハーム・オ・ハーム。よろしくぞな、もし…」
「ああっ…えーと、俺は、
――なんか…
気まずい。
あんだけ
いや、まあ、仕方ないよね、うん。
――トントン。
ドアをノックする音。
「失礼します、ファムタファール様」
「どうぞ」
ファムが応答し、部屋の中に呼び込む。
メイドさん、だ。
やっぱ、メイドさんって、サイコーだわ。
「失礼しま…アッ!ハーム様、やはり、こちらにおいででしたか。教授方がお待ちかねですよ、早くいらして下さい」
「あ~、忘れていたぞな。
ふむ、今日は失礼するぞな。また、今度改めて話すぞな、もし」
「はい、それじゃまたね、ハームちゃん」
メイドさんに連れられ、金髪幼女は客室を去った。
――。
なんか急に静かになった、な。
「カイトさん、ハームちゃんを許してあげてね」
「…ああ、うん、それはもういいんだけど、あの子はいったい?」
「ハームちゃんは、王立ダリアン魔術院の理事長ですよ」
「ダリアン魔術院?」
「王都ダリアにある魔術学校で、ドラコニアン・ワイルド一帯では唯一の学匠ギルド公認の研究機関の事です」
「…うーん、よく分からないな…」
「そうですね…ドラコニアン・ワイルド一帯で魔術を志す者であれば、誰もが入学したがる、そんな教育機関ですね。本場レグヌムからも留学生が来る程です」
「え?要は、凄い学校って事だよね?」
「ええ、そうですね」
「その学校の理事長?理事長って学長って事だよね?」
「まあ、そうですね」
「!?…もしかして、あの子…凄い子なの…かな?」
「そうですね、世界で108人しか存在しない妖術師の一人で、
二つ名“
「……あ、後で、あ、謝っとこうかな…」――小声で。
「え?」
「い、いや、なんでもない」
「それじゃ、勉強のほう再開しましょ!」
「おっ、そうだな」
――しくったな。
魔術とかナチュラルにある、トンでも設定の夢の中だった。
“外見”で判断したら、ヤベーわ。
ま、現実でも“外見”だけで判断しちゃ駄目なんだけどね。
今後、この当たりは特に気をつけないとイカン。
慎重にやらんと即ゲームオーバー、あり得るぞ。
もっとも、なにをどうすればゲームオーバーなのか、それさえサッパリ分からんけど。
――ま、いっか
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