4篇「到来、国士無双」
※ ※ ※ ※ ※
「おはやうござゐます」
「あ、お早うございます、カイトさん」
「今日もカワイイね!お仕事がんばってね」
「カイトさんも、お
ダイナマクシア伯爵
毎日必死で勉強した
正確には、定型句を丸暗記。
公式を覚えないと先に行けないのと一緒。
これを
おかげで、定型文的な日常会話程度なら、サラッと出てくるくらいにはなった。
人見知りな俺が、こっちでは軽口叩ける程度にフレンドリーに
外国語を習得し、これを得意としている者が、習得言語圏で生活をせず、社会や慣習を理解していない場合、習得言語
要は、外語を母国語に翻訳してから理解するフィルターに加え、社会通念や俗習が不明の為、母国語翻訳した意味合いを母国での常識として認知するので、対象外語生活圏で使用される世俗的なニュアンスを理解していないからだ。
簡単に云うと、無知ゆえの怖いもの知らず、って感じ。
なので、屋敷内で会った人達には、積極的にペラペラと喋れる。
ま、ただの
言葉の勉強とは別に、こっちの世界についての考察もした。
考察というよりは、整理。
まず、あっちだのこっちだのと云う言い方は、混乱を
そこで、寝ている世界、夢を見ている時にのみ存在できるこっちの世界を『
と云っても、デイドリームは長いんで、デイドリ、って略す。
デイドって略すと、「泥土」って脳内変換され、なんか、きったね~イメージだからヤメタ。
ナイトメアの方はどうやって略すかって?
ナイトメア、だよ。
略さにゃならん程、長くないし。
ん?
現実世界がなぜ、ナイトメアかだって?
あんな俺にとって
そう、デイドリで見ている夢、それが
現実なんて、ヤメテやる!
いや、まあ、デイドリに来る為にも、生きなきゃならんので、やっぱ向こうは向こうで必要なんだな、コレが。
一応、ナイトメアの方がメインの生活圏なので、デイドリに来る時、というか、夢を見る行為をログイン、夢から覚めて起きる行為をログアウト、と名付けた。
本当は、ジャックインとかダイヴとかテイクオフとか起動とか発進とか、ま~、色々候補はあったんだけど、日常的に分かり易い方がいいだろ、って事でコレにした。
ゲーム感覚なんで、これが丁度いい。
ま、ゲーム脳だよゲーム脳。
トンデモ設定の夢の中だから、同じくトンデモ理論の似非脳科学「ゲーム脳」がお似合いだろ?
考察・整理の過程で興味深い出来事、というより、純粋に驚いた事がある。
それは、ログアウトに関してはそこそこ自発的にできる、って感じだ。
ファムに勉強を教えて貰い始めてから、この屋敷で過ごした一週間の内、実は1回だけ、自発的にログアウトを試み、実際にログアウトしている。
そう、それがさっき。
メイドさんに
なので、今は、ファムと出会ってから初めてのログイン、って訳だ。
ちなみに、初回ログイン・ボーナスは無いらしい。
ココの運営、無能だわ。
ま、その運営って、夢見てる俺なんだけどな。
はぁ~、つっかえねーわ!
過去の経験上、夢を見ている時間と夢の中を過ごした時間は等価ではなく、過ごした時間経過の方が夢を見ている実際の時間より経過時間が長い、即ち、時間が進むのが速い、と分かっている。
この時間の流れの違い、つまり、時が経つ速さは一定せず、マチマチ。
要は、「何時間夢を見れば、何時間夢の中を過ごせるか」、という解を導き出す公式は成立しない、恐らく。
既に分かっていたのは、デイドリでの活動期間、要は、デイドリ内での暦で過ごす期間が長ければ長い程、ナイトメアに戻ってきた時、疲労度が増す、という事実。
これを経験的に知っていたので、あまりデイドリ内で長く過ごすと、ナイトメアに戻った時、ハンパなく疲れてて、学校とか行く気がしなくなっちまうからヤバイな、ってな感じで、自発的にログアウトを試みた。
すると、意外や意外、サクッとログアウト出来た。
より正確には、ログアウト時、一瞬の溜めみたいなのがあった気もするが、殆ど問題なくログアウト完了。
つまり、目が覚めた。
ここで更にビックリした事があった。
寝てから目が覚める迄の時間、リアルでの時間経過は、たった30分しか経ってなかった。
俺はいつも、ほぼ夜中の2時前後に寝る。
んで、目が覚めたのが同日2時半。
たったの30分しか寝てない。
夢ってのは、寝た瞬間から見始めるものじゃないから、ナイトメア時間上、30分未満でなくてはならない。
デイドリ時間では一週間経過していたのに、現実には寝てから30分程度、夢を見ていた時間はもっと短い訳。
夢見てる時間と夢で過ごす時間に一貫性はなく、過去、デイドリの中で一週間過ごした事はあったけど、ここ迄現実での時間経過とデイドリ時間との
過去、最も速いデイドリ時間の流れ、が起こった訳だ。
ナイトメア時間の実に300~400倍、もしかしたら、もっと速い時の流れを観測した事になる。
しかも、全然、疲れてない!
実は、ここが驚き、一番のポイント。
ぼんやり
ここから導き出される考察。
それは、デイドリ内で何かに熱中している、
恐らくなんだが、体感時間、と、満足度、が影響しているのではないか、と思われる。
面白かったり、楽しんでたりすると、時間、あくまでも体感時間の話だけど、速く感じる。
ツマラナイ時、楽しくない時ってのは、体感時間が凄く長く感じる。
で、満足度が高いと疲労感は少なく感じる。
勿論、実際の疲労と疲労感は違うし、体感時間ってのも
ただ、少なくとも、確実に、何かに取り組んでいるとデイドリ時間は速く経過する、って事だ。
多分、俺は、何かをやってる、何かに取り組んでいる時の方が、楽しい、と思うタイプなのかも知れない。
自分でも意外だが、ボーッとしてるのが、苦手なのかも?
ちなみに、今、デイドリにいるってのは、あの後、すぐ寝たからだ。
流石に、30分しか寝てなかったんで、すぐに戻って来られた。
――おっと。
また、余計な考察と自分語りをしちまった。
ヲタ特有の考察と自分語り、どうしても、しちまう。
かまってちゃん、ってのが
あんま、妹の事、文句云えねーな、こりゃ。
さて、と。
ファムに玄関で待っててくれと云われたのはいいが、一体どんな訓練をするんだろう。
いや、頼んだのは俺の方からだから、基本的に彼女にお任せするしかないんだけど。
何を頼んだかと云うと、剣術、の訓練だ。
小さい頃、空手と剣道を少しだけ習ったが、
デイドリがファンタジックな世界って事は既に分かってる。
且つ、メルヘンチックな方ではない、ってのも何となく分かってる。
んで、どうにも原始的、だ。
ナイトメアでの時代区分にして、それが上古なのか古代なのか中世なのか近世なのか、ハッキリとよく分からないが、1つだけ確実なのは、現代の日本ではない、って事。
要は、治安が悪い、と考えるのが妥当。
それに、言葉の勉強をしていると、どうにも不穏な単語も出てくる、
魔獣だの魔物だの魔神だの悪魔だの、結構、不吉な感じ。
勿論、神話とか伝承の類にこそ、こう云った単語はよく見られるんだが、やたらとそれらの解説が具体的と云うか、生々しいと云うか。
そう考えると、少しでも戦えた方がいい、って思う訳だ。
護身術程度でいいんだが、魔術とかがあるデイドリでは、護身の幅が広がり過ぎて不確定になっちまう。
なので、剣術、と具体的な単語を上げて、これを頼んでみた。
それに、ほら。
剣士、ってなんか、カッコイイじゃん?
――ギィ。
突然、玄関のドアが開いて、ちょっとビクッとなった。
扉の横から顔だけ出して、こちらを覗くファム。
うーん、綺麗、だ!
「カイトさん、お待たせしました。庭の方にどうぞ」
「?え~と、外に出ればいいの?」
「はい、どうぞ、こちらへ」
促されるまま、外に出ると、ファムの後ろに誰か居る。
ボサボサの髪に
完全にホームレスみたいな格好。
――で、で、でけぇ~~~!!!
俺が170cmちょい、そこから確実に50cm以上は高い。
220cm~240cmくらいか?
いや、250cmくらいあるのかも?
なんか、デカ過ぎてスケール感が狂っちまって、実際どれくらいあるのか推測出来ない。
もう、ここまでくると、ちょっとした巨人と云っても過言じゃないぞ。
「カイトさん、こちらが今回、剣術を教えてくださる
カイトさん、これは凄いチャンスですよ!“
「――え?」
「ゥゥウオオオォィ~~~ッス!!!」
「あっ…ょ、ょろしくどうぞ……」
「ほほぉ~う――
「ヒッ!ひゃ、ひゃい!!」
「よっしゃ、いい返事だッ!まずは、よしッ!
もうファム
剣の時間には、儂ん
「あっ、はヒッ!」
「カイトさん。ザン様は普段、伯爵の別宅の方にいらっしゃいますので、通いになります。
お昼には、わたしが食事を届けますので、頑張りましょうね」
――頑張りましょうね…って、おい!
説明が雑過ぎ!
全然わかんねーよ。
それに、なんで話がもう出来てんだよ。
俺的には、もっとこう、勉強の息抜きみたいな感じで、軽く剣術でも学べればな~、くらいにしか思ってなかったのに。
なんか知らんが本格的な感じになってねーか、これ?
なんとか上手く
本当、こういう時に限って、リトル俺のヤツ、出て来てくんね~んだよな。
「よっしゃ、カイト!それじゃ、儂に着いて来い!走って行くぞッ!」
「えっ?えっ?あっ、ハイ!」
だ、ダメだ~!
グイグイ来るタイプなんで、俺のペースが乱される!
話すどころか、なんか着いて行かなきゃいけない感じになったし。
それに、
くそ~、こうなったら、追い着いてくしかねーぞ。
――ちくしょー!
もう、それから――地獄。
伯爵の別宅っていうから、いつもの邸宅の若干小さい版を想像してたら、完全にこの爺さんが自作したバラック。
走って筋トレ、走って筋トレ。
でっかい石を持ち上げては投げ、丸太を担いで振るい、庭を流れる川で泳ぎ、
その繰り返し。
唯一の救いは、正午にファムがやって来て、美味しい食事の差し入れ。
クタクタになって本邸に戻ると、風呂と食事を済ませ、語学レッスン。
早起きして、また、爺の処へ。
なんなんだ、このエンドレス地獄は!
作業ゲーにも程があるぞ!
何度も、自発的にログアウトしようかと思ったが、このエンドレス・ブートキャンプ地獄が続く限り、どこでログアウトしようと、ログインの
なんで俺は、自分の夢の中でさえ、こんなキツイ思いをしなきゃいけないんだ。
なんて、甘美な響き。
そして――
なんと、ご褒美が!
ファムが、一緒に町へ出掛けないかと誘ってきた。
やった!
やはり、天使、いや、女神!
そう、俺が求めていたのは、こう云うシチュエーションなんだよ。
断じて、むさ苦しい爺さんの下、汗水流して筋トレするような苦行じゃない。
このデートを通して、ファムともっとお近付きになるぞ。
さあ、俺の
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