Critical Point①

「集合に遅れた帝国兵の隊を各隊で囲んでり潰せ、くれぐれも深く入り過ぎるなよ。数の圧倒的な差は変わっていない、それくらいクソ共でも分かってるな!」


「はい!」


「さぁ散れ、尻尾巻いたクソイキリ豚野郎共を引っ掻き回してやれ!」


カミラの悪口全開の命令が全体に行き渡ったところで、一斉に散開し始めた騎士を見送っていると、珍しくカミラの方から馬を横に付けてくる。


「何だ、指揮官が私になにか用か」


「貴様の連れていたあのチビ、何故あんなに剣を出せる。魔法にしてもぶっ飛び過ぎだ」


「あれは夢の中の想像らしいが、私もよく分からん。実体もあるし、アリスの生い立ちも何も分からないんだ。それより、この後どうするつもりだ」


「巨人が見えたら騎士の指揮を軍師に押し付ける、私とお前でクソ汚ねえあのデクを殺す」


短剣を抜いて耳をぴくぴくと動かし、後方の軍師とアリスを一瞥いちべつし、勝てる時に浮かべる笑顔を浮かべる。


「油断するなよカミラ、特にアリスには無理をさせてくれるな。アリスが無理する時は私に回せ、ミョルニル、パラシュ、守ってやってくれ」


「はっ、過保護だなクソドラゴン。だが、それが貴様の首を絞めることを忘れるな。さぁ行くぞ、私に続け子犬!」


カミラの後ろに乗って落とされないように腰に手を回すと、肘打ちされて引き剥がされ、一緒に馬から落ちてしまう。


「貴様……何をしている、この」


「ははははっ、このまま飛んでいってしまおう。どこにだって連れて行ってやる」


地面に落ちる直前に飛翔して翼を広げ、すれすれを維持して飛び続けていたが、足を絡められて地面に付けられ、磨り減る前に急いで上昇して、名前も知らない巨人の顔の前に飛び出る。

私たちを認めた巨人は、雄叫びを上げて拳を突き出したが、私の腕の中からするりと抜けたカミラはシルフィードの能力を使い、腕の周りを回転しながら短剣を突き立てる。


あっという間に肩に移動したカミラは、血に濡れたマントをなびかせ、迫った左手で姿が見えなくなる。

潰されたとは思っていなかったが、その姿はどこにもなかった。


「受け止めろよ子犬! 落としたら殺すからな、私を花嫁と思って抱き止めろ!」


「くはははっ! お前は花嫁でなく花婿だろ、とてもじゃないけど受け止め……」


光を引いて巨人の腕を往復して斬り刻んで帰って来たカミラが、笑っていた私の胸に強制的に飛び込んで来て、そのままのスピードで来たカミラに吹き飛ばされる。

右腕をだらりと下げた巨人を見て舌打ちしたまま、カミラは受け止めきれなかった私の胸を叩く。


「何を吹き飛ばされているクソ雑魚ドラゴン! 隙が出来た所為であのデクがクソデカい魔弾を撃ちやがった、消せるなクソドラゴン」


「任せろと言いたいけどよ、弾幕がすげぇな。抜ける隙間が無い、それだけどうにかなるか?」


「ふんっ、手間の掛かるクソ子犬だ。私のやり方をもう一度目に焼き付けろグズ、シルフィード、この無能に道を示せ!」


カミラが風を纏わせて投げたナイフが一直線に伸び、風の壁を作りながら巨人の前まで道を作り、帰って来たナイフを掴む。


「流石だカミラ、撒かれた魔弾の処理は任せた」


「何をぐずぐずしている! とっとと行けクソドラゴン!」


不機嫌なカミラから逃げる様に風の道に飛び込み、大きく広げた翼に追い風を乗せ、体が耐えられる限界まで加速し続ける。

通り過ぎた箇所から風の道が崩れ、あっという間に巨人の目の前に出る。


「最大出力だミョルニル……」


返事が無い事でミョルニルを置いて来た事を思い出し、早速カミラの忠告が私の首を絞めに来た。

目前に迫る左手の大きな拳が影を作り、太陽を遮って、反応が遅れた私の体をもっていく。


至る所で骨が砕ける音が響き、飛ぶ事すら出来なくなった私を叩き落とそうと、大きな手が広げられ、上からもう一度降って来る。


「こんな筈じゃなかったんだけど、呼ばれたから……一応?」


下から飛んで来たミョルニルに受け止められ、魔力を殆ど使い切る一撃で手を弾き飛ばし、そこから離れて岩の後ろに着地する。


「今回ばかりは助かった、アリスたちは無事か?」


「今回ばかりどころか、殆ど毎回なんだけど。それよりも、自分の心配が先じゃないの?」


「まぁ、大丈夫じゃないって分かってるしな。全く動かん」


「魔法くらい撃てるでしょ、根性見せなさい馬鹿!」


ミョルニルに思い切り投げ飛ばされて再び巨人の眼前に飛び出し、尻尾に巻き付けたミョルニルに龍力を有るだけ流し込んで、回転しながら投じる。


「ストレルカ!」


光の矢となって突き進むミョルニルが首を半分吹き飛ばし、防ごうと覆い被せた手を千切り、大きくターンして脳天から入って体を真っ二つに裂く。

約束通り帰って来たミョルニルが目の前で人型になり、自由落下する私を受け止め、地面に足を着いて寝転がる。


投げ出された私は少しだけ地面を転がり、仰向けになって崩れゆく巨人を眺める。

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