貴様らが何処に隠れようが、上を見上げれば光が照らしている、それが私だ④
「避難と迎撃準備を同時に進めろ、もたもたするなクソ溜めかここは! 騎士として教えられた事を訓練の時以上にやれ! 倒れたら手を止めてくれる優しい敵など居ないぞ!」
「はい!」
ひとつの小隊を叱咤しながら自らも迎撃準備を進めるカミラは、額の汗を布で拭き取り、休んでいた私を睨む。
誤魔化す為に尻尾を使って柵を立てるが、眼力を維持したまま近付いてきて、足を地面に縫い付けられる。
「逃げなかったなクソドラゴン、それだけは褒めてやろう」
「逃げれない様にしたのは誰だお犬様」
「私は犬ではない!
「狼はイヌ科だろ、毎回吠えて、これじゃあどっちが
何も言わずにナイフを柵に突き立て、耳を動かしながら言いたいことを我慢している。
「貴様の相手をしてる暇などない、とっとと手を動かせ子犬」
「溜まってるなら話くらい聞いてやるよ、張り詰めてて疲れてるんだろ」
「要らん、お前に聞かせる話などない」
「甘いもの食べながらだ、連れて行けなかったから埋め合わせだ。私も久し振りに食べないと、頭がおかしくなりそうだ」
「既に頭がおかしいクソドラゴンと行くのはハードルが高いが、仕方がない、私の話を聞かせてやろう」
「面倒だけど、さっさと迎撃準備するか。巨人は任せて良いんだろ?」
「お前は馬鹿か、お前と私で相手をする。お前はヤーパンでフルングニルの右腕を殺したと聞いた。お前が本体と思い込んでいたとは知りたくなかったが、巨人を狩れる奴が居るのは有難い」
「仕留めるまで気付かなかっただけだ、カミラ1人で十分だろ。私をわざわざ巻き込むな、それよりも人間をやる」
ナイフを引き抜いて布で拭くカミラは手を止めると、突然風を纏って砂を舞い上げ、私の胸に手を当て、体が容易く吹き飛ばされる。
その直後、立っていた所が黒い何かに覆われていて、カミラの風によって狭い範囲で渦巻いていた。
シルフィードの風でも払えないモヤは、どんどん濃くなっていき、やがて黒い球体の何かが膨らみ始める。
カミラを助け出そうと雷を撃ち込むが、煙の様に少し穴を空けるだけで、すぐにまた飲み込まれて行く。
「カミラ!」
「やぁトール、久し振りだね」
背後から掛けられた声にパラシュを向けると、にこにこしたロキが立っていて、カミラが入った黒い何かに手を
膨らみ続けて大きくなったそれは、地面から伸びた茨に持ち上げられ、地上から離れていく。
「彼女はかの大魔導師じゃないか、そんな人に協力を仰ぐなんて連れないなぁ。君の強さを見せてほしい、僕はその為に色々やって来たのに」
「フルングニルの右腕も貴様、ナイグラートでのミョルニルとパラシュを活動停止に追い込んだのも、まさか……」
「そう、そのまさかさ。人類連合を龍人とその同盟諸国にぶつけたのも僕さ」
「クライネと私を引き裂いたのも、そしてオーディンをフェンリルに食わせたのも。ジュンを殺したのもお前なのか……それなら一体何がしたい、お前は何が目的だ」
女に姿を変えたロキは愉快そうに笑みを浮かべると、パラシュの刃を指で撫でながら、球体に向けて神力を撃ち込む。
容易く破裂した黒い球体が割れて、カミラが頭から落下し始める。
「カミラ! ミョルニル、パラシュ、ロキを逃がすな」
「任せて、このド畜生を逃がす訳ないでしょ」
「今までの借りを返済してほしいくらいだよ、死ぬ以外選ばせないけど」
咄嗟に飛び出したにも関わらず、ミョルニルとパラシュはロキに己を向け、そこから1歩たりとも動かせない。
「凄い凄い、ただの武器が人型になって意思を持つなんて。これどうやってやったの? 後で僕にも教えてよ」
カミラを受け止めた直後に体が浮いて地面に叩き付けられ、何故か助けた筈のカミラが、私の腕を持って立っていた。
その状況に戸惑っていると、風が腕に巻き付いて捻られ、鱗がバキバキと音を立てて曲がっていく。
「ッッッ……ロキ、カミラ……」
「あはははははははっ! 良いよ、シルフィードの力は凄いね。かつての友を君が攻撃出来るかな? でもね、腑抜けた君が、無力な君が見たいんじゃない。あの頃の、神の君が見たいんだ!」
カミラの足を払って転ばせて離脱し、残っている右腕で剣を持ち、魔弾を撃ち続けながら後退する。
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