貴様らが何処に隠れようが、上を見上げれば光が照らしている、それが私だ③

全方向から押し寄せる帝国兵をひたすらミョルニルで叩き潰し続け、追い付いた3人に目が向かないようにするが、どうしても数の差で敵を討ち漏らしてしまう。

3人の方に5人の帝国兵が走っていき、その背中を追おうとするが、すぐに次の敵に道を塞がれる。


「すぐにやってやるよ」


リーダーの少年が最初に飛び出して1人を斬り伏せ、それに続いて2人も敵を見事に返り討ちにする。

だが、初陣の彼らはいつの間にか隙を突かれ、少女の背後に残りの2人が迫っている事に気付いていなかった。


「おわっ!」


バランスを崩したお陰で1人の斬撃は奇跡的に避けられたが、もう1人の騎士が、今度は的確に狙いを定めて剣を振り下ろす。

だが、即座にカバーに入り、紫色の髪の少年が剣に剣をぶつけて防ぎ、目付きの悪い少年が首を斬る。


体勢を立て直した少女が、今度は体勢を崩した騎士を斬り、危なげなく切り抜ける。

何故カミラがあんな素人を突然入れたのか分からなかったが、これで漸くその意味が分かった気がした。


あまりにも自分たちの過去に似ているその姿を見ていると、自然と口元が緩んでしまい、こんな所で手こずって居られないぞと、背中を押されて急かされている気分になる。


「一気に切り抜けるぞミョルニル、パラシュ。暴れて来い」


「やっと行ける!」


「あの3人、なかなか良いね」


出て来て早々5人を薙ぎ払ったミョルニルに対して、パラシュは微笑ましく3人を見ていて、私の背中にぴったりと張り付いている。


「あぁ言う関係に憧れるか?」


「なに、僕たちも同じようなものじゃない、か!」


ミョルニルが振り下ろすと同時に降り注ぐ雷に帝国兵が怯み、横腹を突かれた事による混乱と合わさり、逃げ出すものまで出て来ていた。


「逃がすな! 深追いせずに1人でも多くやってやれ、このまま敵将の所まで突っ込んでやれ!」


「おぉ!」


逃げ惑う真ん中の隊に対して、前方と後方の帝国兵は確実に体勢を立て直し始め、このままでは両方からすり減らされるのは確実だった。

だが、カミラの指揮により遊撃隊が上手く働き、立て直しを大幅に遅らせている。


「いやっほー! このまま敵将まで行こうぜ兄貴!」


この目の前の快進撃に気分が上がったのか、少年は更に前に出て、腰が引けている帝国兵を斬り倒し、龍力を纏わせた剣を振るう。


「おい待てって、慌てるな」


それを見て紫色の髪の少年がカバーに入り、少女とすれ違いざまに、一矢報いようとしていた帝国兵を斬る。


「まだ数が多い、確実にすり減らしてからだ」


「ちぇー、まぁ、確実にって事は重要だよな!」


目付きの悪い少年に言われた少女は簡単に折れ、少し下がって、また3人固まって戦闘を継続する。

そろそろ潮時だと悟ったのか、カミラは空に魔法を打ち上げ、それを合図に全騎士が猛突進を始める。


「これから敵将の下に向かう、付いて来れるな3人とも」


「当然だろ! 舐めんなよお前」


「行けるさ!」


相変わらず無駄な質問には無視を貫く目付きの悪い少年の目を見て判断して、ミョルニルとパラシュを馬に乗せて、敵陣に深く入り込む。

打ち上がるだけで終わらない魔法が帝国陣営に降り注ぎ、立て直しかけていた帝国兵を、再び混乱と恐怖の渦に陥れる。


「対軍兵器め、本物の化け物に目を付けられたこいつらは一体何者なんだ。訓練兵の中にも居なかったし、まさかその辺のゴロツキを拾って来たんじゃないだろうな」


ふわりと宙を舞いながら、洗練された騎士をも凌駕する連携で、何とか敵を圧倒し続けている3人を見ていると、背中に衝撃が加えられて背中を押される。

それが斧を持った帝国兵だと気付き、他人の心配をしている暇ではないと言われた様な気がして、手の中の剣をしっかりと握って背後の帝国兵を斬り捨てる。


「ノッてきたな、付いてこいお前ら」


「逆にあんたが遅れるなよ!」


「先行するなって、レヴィも何か言ってくれ」


「……前を見ろツェルシー」


「なっ……うわぁ!」


「危なかったなツェル、お前の馬はもう真っ二つだ、振り返らずに私の馬に乗って行け」


ツェルを狙った隊長らしき騎士をパラシュに任せ、雷で作った馬にミョルニルを移らせ、遊撃手兼、パラシュの補佐に回ってもらう。

腕の中に居たツェルに馬を譲って、大将首を取る競争から脱落した為、大人しく3人の下に敵が集まらないように立ち回ろうとしたが、カミラが撤退を示す魔法を打ち上げる。


それで漸く不自然な点が確信に変わり、神経を研ぎ澄ませて、こちらに向かっているであろう神力を探っていると、この公国をひとつ挟んだ先の、帝国の属国である国の平原に大きな神力を見つける。

その出鱈目でたらめな神力の大きさから、アトラルでなければ、確実にあの悪魔が来る事が分かっていた。


急いでカミラの下に飛んでいって隣に並ぶと、馬を止めて私の顔を見上げる。


「ここまで引き摺り出された、今戻ってもあいつの移動速度なら間に合わない。あの悪魔が来る」


「まんまとしてやられたって事か、雑魚を殺して喜んでいるクソ共を何人返してやれるか……分かってると思うが、お前はくれぐれも無理をするな。あの力を使うな、既にごく一部だが髪が金色に戻ってるだろ。他の髪に隠しても分かる、お前で居たいなら斬り捨てることも大切だ」


「そうだな、でも今は何故か楽しいんだ。呆れる程に平穏で生き急ぎ過ぎてたからよ、疲れてたんだ。でも今は生きてる実感がある」


「相変わらずクソのままだなお前は、取り敢えず撤退だクソドラゴン。他の状況を把握してから考える、貴様の連れて来た軍師もなかなか使えるじゃないか」


「私が連れて来た人類だ、優秀じゃない訳がなかろう。しかし、公国の者には申し訳ない事をしたな、同じ人類に攻められるとは」


「あいつらはそんな事気にしないだろう、半分以上は作り物だからな。そう思う心すらないさ。さて軍師、帝国兵を追って巨人共々滅ぼしてやるか、それとも戦線を下げて一か八か街を砦にするか。ここからの判断を貴様に一任する」


────────


帝国兵を追って巨人と戦う人は【Critical Point】へ

戦線を下げて街を砦にする人は【貴様らが何処に隠れようが、上を見上げれば光が照らしている、それが私だ】へ

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