子犬③

大して強くもない騎士を薙ぎ払いながら、数だけは一丁前の有象無象に、どこかに誘導されているかもしれないと、1人でその目的と黒幕を考えていた。

メルトとナーガを隣に走らせて廊下を進み、目の前の大きな扉を龍力で早い内に開けて、タイムロスせずに陽の光が当たるどこかに飛び出る。


「待っていたぞ子犬! やはり腕は落ちているな、だがここまで辿り着けた褒美に私と1戦やらせてやろう!」


突然視界に映ったカミラが私の腕を掴んで投げ飛ばし、天地がひっくり返った様に視界がひっくり返り、綺麗に地面に投げ飛ばされる。

受け身も満足に取れずに背中から地面に打ち付けられ、もう殆ど立ち上がる力も残っていなかった。


「何なのだカミラ、突然なにを……」


「腑抜けている暇があるのかトール! そんなに消えたいなら湖に帰って出汁でも出してろ!」


「腑抜けてなどおらぬわ!」


「ならば示せ! この私を1度でも認めさせてみろ!」


剣を出してカミラ目掛けて横薙ぎに振るい、飛び退いた時の追撃として、剣を振るうと同時に、左手の槍を投じる。

予測通り飛び退いて剣を避けたカミラは、飛来した槍を掴んで止め、左手で地面に突き立てて切り返しを防ぎ、無防備になった私の体に蹴りを入れる。


完全に重心が前に寄っていた私の体は動かず、地面から足が浮き上がって吹き飛ばされる。

地面を転がって衝撃を殺してから立ち上がり、剣を正面に構えて向かい合う。


「随分と腑抜けたなトール、こんな攻撃は通じなかった筈だ。私を舐めているなら今の内に本気を出しておけ、殺しはしないが痛い目に遭うぞ」


「……ミョルニル、パラシュ」


「やっと呼んだじゃん、余計な意地ってやっと気付いた?」


「たまには僕たちに頼りなよ、宿主を叶えるのが僕なんだから」


「行くぞ、あわよくば殺してしまえ」


「了解」


2人が同時に返事をしたのを聞いて、龍力を込めていた足で踏み込み、下からミョルニルで掬い上げ、上からはパラシュで叩き切る。

だが、その凶牙を容易く見切ったカミラは、初めて持った鞘に収めたままの短刀で、私の脇腹に柄頭を打ち付ける。


鱗の服で守られているにも関わらず、服には傷を付けず、体の中だけに衝撃を通してぐちゃぐちゃにする。

膝を着くまいと踏ん張っていたが、カミラに軽く蹴りを入れられ、結局は完敗してしまう。


「所詮その程度……正直死んだ方がマシなレベルだな、今のお前に用は無い。早く消えろクソドラゴン」


「100万年の昼寝の前は、思い出せない程に辛かった。それでも目覚めたのは、またあなたが居ると信じたから。でも、人が戻って来るのは100年後だ。私は目覚めていない」


「何を言っている、クソで出来た脳が遂に完全に湧いたか?」


「あ、あの! これ以上見過ごす事は出来ません」


握った拳を解いたメルトが前に飛び出して来て、機嫌が悪いカミラの前に立ち、下から見上げる。

メルトの背中に隠れながらも出て来たナーガも同じく見上げるが、カミラに見られたからか、視線を逸らしてしまう。


「ほぅ、熱心なのは褒めてやる。だが相手を選ぶくらいしろよ、クソみたいに転がされたくなければな」


「良い2人とも、これは私が吹っ掛けた喧嘩だ。道を示してくれぬかジュン、そして私にクライネを導かせてくれ。私を見ていてくれているかアイネ、この左眼から見ているか。見返すには歩くしかない、それなのに私はまともに歩く事すらままならぬ、こんな不器用な私ですまぬな。だがもうしばし、もうしばし待ってくれぬか。待つ間は憂鬱になる事なく、希望しておいてはくれぬか」


思っていたよりもか細い腕を前に伸ばして糸を切ると、全身に稲妻が走った様に久し振りの高揚感が溢れ出し、同時に靡いた髪の一部が、金色に染まっていた。

それを見て一瞬躊躇いはしたが、既に体が電気を帯びていて、周りでバチバチと音を立てて虚空を跳ねる。


「ふんっ! クソみたいにひょろいその指先は、何を掴もうと伸ばすトール!」


「何も無い、私が手を離した物を今更都合良く取り戻そうとは思わぬよ。だが、必要ならば私は自分の手を離す覚悟も出来ておる」


「だからお前は甘い、クソみたいな思想しか持てず、クソみたいな結末しか掴み取れないんだよ」


「くははははははっ! 太陽よ顔を出さぬか、お前さえそうすれば、2人は帰ってくるのだ!」


今持てる力を全てミョルニルとパラシュに乗せると、漸く得物である二刀流の短剣を構え、軍人時代よりも鋭い魔法を纏う。

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