子犬④
「まだだ、まだ出せるはずだトール!」
漸くまともな斬り合いが始まって数分が経過した頃、右手のカルンウェナンと左手のタミングサリがミョルニルを弾き、下から振ろうとしたパラシュを足で封じられる。
目の前で溜息を吐いたカミラに一撃入れようと素手で殴り掛かるが、腕を絡め取られて投げ飛ばされ、そのまま捻られて肩を外される。
「ぐっ……がァァァ!」
外れた右腕の痛みを雄叫びで殺しながら左腕を振ったが、容易く避けられて踏みつけられ、鱗がばりばりと音を立てて割れる。
振った足が横腹に漸く入るが、離す前に右足を抱え込まれ、付け根を足で踏み付けられ、関節がまた外される。
「っっっうぅ……クライネ、すまぬ」
「誰に謝ってるクソドラゴン、泣き言を垂れ流すくらいなら……」
「すみませんアイネさん、これ以上手を出さないままではいられません!」
「待て……カミラ、手を出すな……」
「それは出来んな、あの2人はお前よりも真面目に私を倒そうとしている。その相手に手を出さないなど無礼千万、きっちりしごいてやる」
剣を抜いたメルトの一撃をひらりと避け、間隔を開けてナーガが放った光魔法を弾き返し、背後から忍び寄っていたミョルニルとパラシュを投げ飛ばす。
素早く跳躍してナーガを叩き落としながら、投げた短剣に仕掛けてあった魔力で、飛ぼうと翼を広げたメルトを沈黙させる。
「どうなってやがる? 寄って集ってこの程度か貴様らは! 一体今まで何をやって来た、クソみたいに温い訓練受けて、クソみたいな教官に甘やかされて来ただけか! そんなクソ未満の兵士になるくらいなら、生きたくても生きられないやつらと変われ!」
手も足も出ないまま倒れ伏した全員の中央で、容赦無く叱責と罵倒の大雨を降らせる。
手を振って何かの合図を出した後に、周りの景色が剥がれ落ち、いつの間にか城の中庭で倒れていた。
「立て……立てトール!」
「足が動かぬのだ、外したのを忘れたのか……」
「貴様は戦場で片足が無くなったからと言って生きる事を諦めるのか! もっと死ぬ気で考えろ、生き延びる覚悟を決めろ! 私は覚悟の無い者に容赦はしないぞ!」
「……ならば、もう満足してしまった時。必死に見苦しく足掻いて帰る意味はあるのか」
「知るか、そんなもの意味なんて探すだけ無駄だ。人が死ぬのはなんでか知ってるか? 至極単純だ、答えてみろ」
「……生きる事をやめた時か」
「お前は馬鹿なのか、そんな綺麗事を吐けと私が言ったか? 単純に生命活動が停止した時だ、諦めなければ生きられるなんてクソ甘っちょろい事を吐かすな。少し考え直しもしたが、やっぱりお前は死ね!」
叫んだカミラは、短剣を仕舞ってメルトの剣を拾い上げると、私の元に戻って来て剣を振り上げる。
無表情で私の目をしっかりと見て、逆手持ちに変えて躊躇無く振り下ろす。
「アイネをいじめないで!」
命を委ねようと目を瞑った時、遠くから聞こえた声に体が反応し、まだ動く左手で振り下ろされた切っ先を受ける。
前腕を全て貫いた剣が半分腕の中に入り、目を細めたカミラが飛来した小さな影と共に吹き飛ぶ。
土煙を上げて噴水にぶつかって止まった2人を見ると、アリスの剣を腹の前で止めたカミラが、口角を上げて座り込んでいた。
もう1つ小さな影が上から落ちて来て、噴水ごと真っ二つにして、カミラに一撃を入れる。
「良い突きだ小娘、思わず尻餅をついてしまったぞ。そして上からの斬撃をした幼子、完成された剣だがまだ成長の余地がある。それは得意とする流派ではないな、その刀に耐えられるものに変えたか、其の判断も賞賛しよう。だがな、この私に傷を付けるのにはまだ足りん!」
カルンウェナンで鈴鹿の一撃を止めていたカミラは、アリスの剣を一瞬で絡め取って蹴り飛ばし、鈴鹿が持っていた刀の刀身を叩いてへし折る。
咄嗟に飛び退こうとした鈴鹿の腕を掴み、残っていた噴水の残骸に叩き付け、カルンウェナンを布で拭く。
「なんて強さや、忍び寄ってたのに気付いとったんか。うちの所の忍びも嫌がる相手やわ、ほんにこの世界に居ってくれて良かったわ」
「お前も居てくれて感謝する、この私が咄嗟に短剣を抜かされたのだからな。そしてあの小娘の突き、しっかりと殺す気で来ていた。不思議な娘だと聞いていたが、こうも変わっているとはな」
観念した様に笑った鈴鹿が全身の力を抜いて倒れ込み、泣いているアリスが私の腫れた腕を心配そうに掴んでいる。
漸く騒ぎを聞き付けた参謀のアズウェインが中庭に走って来て、倒れ伏す私たちと、半壊した噴水を見て頭を抱える。
「王よ、これは何があったのですか」
「カミラくんに訓練してもらっただけだよ〜、物は壊れちゃったけど一方的だったな〜。うん、楽しかったよ〜」
「ふんっ、こんなクソ集団を国に入れるな。今日だけ泊まらせて追い出せ、まだ訓練を受けたいなら残らせてやれ」
「追い出さないよ〜、だって楽しいじゃないか〜」
機嫌が悪そうに中庭から出て行ったカミラを見送って、左手で泣いているアリスの頭を撫でていると、一筋だけ金色に染まった髪の所為で、急激に意識が遠退いていった。
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