神人靈媒日記より 〜靈人との対話/ナガスネヒコの御魂〜

 今回は神人靈媒日記の紹介となります。テーマは過去の靈人との対談。この対談の相手はあの長髄彦の御魂となります。日本の歴史上の人物の中でもかなりの大物との対談に、緊張感と同時に高揚感すら感じてしまいます。

 記紀での長髄彦は、神武天皇の東征に従わずに最後まで抵抗した豪族の長として描かれていますが、実際のところはどうだったのでしょうか。まずは先入観を一旦手放して、フラットな気持ちでお読みくださればと思います。



 〜靈人との対話/ナガスネヒコの御魂〜


私:登美能那賀須泥毘古とみのながすねびこの御靈と御繋ぎください。――お繋ぎくださり感謝申しあげます。御靈に過去の真相をお教えくださるようお願いします。単刀直入に伺いますが、あなたは悪者だったのですか?

靈:いいや。計られた。わしは自分達が天孫の子孫であると伝えられてきた。それ故に悪しき者らを成敗致していた。


私:天孫とは何ですか?

靈:わしらの先祖は、この国の型を造られ、我らに与えたのだ。


私:先祖は、何処から来られたのですか?

靈:それは遠い地であると聞いた。わしらも行った事のない、海の遥か彼方である。


私:高天原とは、その遠い場所を意味しますか?

靈:その通り。タカーマガハーラである。


私:それが正しい呼び方なのですか?

靈:その通り。我らは口述により代々伝えられてきたのだ。それ故に間違える事はない。幼少の頃より何度も聞かされてきたのだ。


私:分かりました。タカーマガハーラは、海の遥か彼方にある遠い場所であり、祖先はそこから倭に入られたのですね。

靈:その経緯は直接ではなく、幾つもの棲み家を変えて、ようやく辿り着いたと聞いた。


私:分かりました。あなた方はその地に長年暮らして来られた人達なのですね。

靈:わしはここで生まれ育ち、あるじとしてまとめてきたのだ。祖先から伝わる秘宝を守り、みなをまとめてきた。それは間違ってはいない。代々そうしてきたのだ。周囲の者達の意見も聞き、良きようにまとめてきた。


私:では、みなで仲良くまつりをなされていたのですね。

靈:その通り。だが、遠方より次々と客人が来るようになり、住み着き縁を重ねてゆくごとに、良からぬ噂を耳にするようになった。


私:それはどのような噂でしょうか?

靈:わしが偽者であり、良からぬ政をしておると言って暗殺を企てている者らがいると聞いた。


私:それは誰から聞かれたのですか?

靈:異国からの使者達である。各地を廻って歩き、そのような噂を幾度も耳にしたと。


私:それはその方達の嘘だったのではありませんか? あなた方を仲違いさせて、自分達に都合のいいようにする企みであったと察しますが、どうですか?

靈:そうだ。その通りだった。それは後で分かった事。しかし、戦をし過ぎたゆえ責任を取らねば、周囲にも示しが付かなくなったのだ。


私:戦相手の事は、何と呼ばれていましたか?

靈:タケオミである。


私:タケオミとは、どのような方であると感じられましたか?

靈:気さくな人間であり、横暴さは感じなかった。誰かの指示で動いているのであろうと察した。


私:それは、侵略して来たと言う風には感じなかったと言う事ですか?

靈:そうだ。だが、疑いの気持ちが高ぶっていた故に、向こうからの話し合いに応じられなかった。騙し討ちを警戒していたからだ。


私:それも誰かに言われたのではないですか?

靈:その通り。異国の使者達は、用心するように何度も助言された故、はかりごととして受け付けなかったのだ。


私:そうでしたか。やはり、仲違いさせ両者共倒れを狙って、異国の者達にまんまと計られたのです。それは、大陸の者達の戦術のひとつであり、善の仮面を被り忍び込み、内部を探りながら敵味方を把握した上で、双方に悪しき噂を流して組織を混乱させ、両者に対して戦を煽ると言った魔物の考え方なのです。

靈:そうであろう。我々はそのような非道なる戦は全く好まなかった。しかし、そのような事を見極める事が出来なかった事もまた事実であり、その責任は取らねば治らんものであった。


私:それで、戦を止める事にしたのですね。

靈:そうだ。わしはすべての責任取ると宣言いたし、タケオミに国を譲ったのだ。


私:あなたはその後どうなされたのですか?

靈:弟と家族、ごく一部の家臣らと共にツガルへ渡る事にした。


私:ツガル? 北へと船で向かわれたのですか?

靈:そうである。


私:では、北の地で新たに国造りをなさられたのですか?

靈:わしは途中で戦傷が患い死んだ。


私:どの辺で亡くなったのですか?

靈:船に乗る前である。


私:船はどこから乗られる予定だったのですか?

靈:タンゴからである。


私:そうでしたか……。あなたはタンゴに葬られたのですね。そして、他の方々はタンゴからツガルへ行かれたのですね。

靈:そうである。わしはタンゴに葬られ、カミとして祀られておる。


私:今もタンゴの神社にて祀られているのですね。分かりました。そのうち伺わせて頂きます。

靈:わしは賊として国を開け渡し、タンゴで果て、情けによりカミとして祀られた。国の主たる者、見誤るとそのようにおとしいれられ、全て失うと言う良き教えである。隙があった故つけ込まれ、よく確かめなかった故まんまと操られた。主として失格であったのだ。それ故すべて譲ったのだ。負けたからではなく、己の不手際に対して責任を取らねばみなに示しが付かなったためである。祖先に対する謝罪も込め、一族の汚名を返上したく願い出た事。


私:分かりました。しかし、歴史ではどこにもそのようには書かれていません。残念ながら、ナガスネヒコは悪党として成敗された事になっています。

靈:そうであろう。その事は既に知っている。わしを貶めた者達もみなそれぞれ知っておる。そのツケは、もう果たさせてもらった。悪しき者達を成敗せねば、良くならん。それはいつの世も同じ事。


私:ツガルには、御魂として行かれましたか?

靈:わしは常に案じていた。それ故ついて行き、智恵を授けておった。


私:その子孫達は大きな国を造り、倭と戦をするようになりましたが、お分かりでしたか?

靈:全て分かっている。わしの思いも反映されているからだ。陥れた者達を成敗するために、長年掛けて戦をいたした。だがまた結局は、騙し討ちに合う因果であった。


私:もしやそれは、アテルイと繋がりますか?

靈:わしの子孫でもある。


私:そうなのですね。分かりました。歴史は繰り返されていた訳ですね。見極める事の大切さ。腹に落とし込みました。

靈:わしの思い、聞いてくれて有り難い。よくここまで聞いてくださった。礼を申す。


私:こちらこそ、お話くださり有難うございました。多くを知る事が出来ました。歴史が変わると思います。紐解かれた事がございます。一番のかなめとなる部分が分かりました。

靈:そうであるか。わしが悪者であるかどうか? 知る事が歴史を変えるのだな?


私:はい。あなたは騙されたに過ぎません。相手も騙されて戦をするに至ったのです。戦をさせた異国の者達による企みが元であり、今も昔もこの国は異国の者に騙され続けているのです。それは御魂の資質の違いであり、思想の違いがはっきりと分かりました。これから、良き国となるようわたしも出来る事をいたして参ります。今後共どうぞ宜しくお願いいたします。

靈:そうであるか。わしも礼を申す。また話をいたそう。


私:ありがとうございます。御縁に感謝申しあげます。わたしは、今生の本名が「タケヒト」と申します。これも正に因果なものであります。

靈:……そうでありましたか。やはり……。切に感謝申し上げます。

私:良き国造りを致したいものです。


2020年6月23日 神人 拝



 いかがだったでしょうか。勿論対話相手が本物かどうか、それを見極める術を私は持ってはおりません。なので真偽は読んだ人それぞれの判断に委ねます。一応は本人だと仮定して話を進めさせて頂きますね。


 興味深いのやはり長髄彦が天孫族の長だったと言う部分でしょうか。記紀では飽くまでも別の系統の天孫族に仕えるNo.2的な描かれ方でしたよね。もしかしたら彼は饒速日命の後継者だったのかも知れません。ならば神武天皇の東征に抵抗するのもうなずける話です。ただし、この部分にも何かもう一捻りあるのかも知れませんね。


 そうして、高天原の名前は本来タカーマガハーラだったと言うのも気になります。高天原の語源については西アジアにあるタガーマ州のハランと言う場所だったと言う説があるのですよね。タガーマ・ハランと言う訳です。この説と微妙にリンクするなと思ったのは私だけでしょうか。


 とにかく、天孫の歴史と宝を継承していた長ですから、長髄彦は一地方豪族との長言うレベルではなかった事がうかがわれます。邪馬台国の長であったと言う説もあります。ちなみに邪馬台国とはヤマト国と読みます。


 この対話を真実とするなら、長髄彦は神武天皇以前の日本を治めていた長であり、その地位やその他諸々を神武天皇勢力に奪われたと言う事になるのでしょう。そこには様々な権謀術数がめぐらされていたようです。

 この辺りの実情についてはウエツフミや東日流外三郡誌に詳しく書かれているのだとか。まぁ勝者の歴史書の記紀には正しく記載されませんよね。


 天津神と国津神、天孫の2つの系譜。土着の人々と新興勢力。日本の古代史にはまだまだ隠されている何かがありそうです。今後、そう言う部分が明らかになっていくと面白いですよね。

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