第3話

私がお家に帰ることを固く決意した翌日。


私は早速、章をクリアするための作戦を城内の白を基調とした簡素な会議室で模索していました。


備え付けられた長テーブルには、姫騎士マリスちゃんとその他...この国のお偉いさんたちがずらりと座っています。

この国のお偉いさんなんて私にはどうでもいいことです。視界から外しましょう。とりあえず私は、「戦国のファルコン」第一章を思い出すことにします。


「戦国のファルコン」第一章は、簡単に言うと負けイベです。魔王が突然城内に現れて、マリスちゃんを殺してしまうというストーリーなのです。確か、魔王が城内に現れるまで、召喚されてから一週間はあるはずです。それまでに私は、何とかしてマリスちゃんが殺されないようにしなければなりません。


ぶっちゃけ言うとそのまま待っていても章は終わります。でも私は、ゲーマーとして思うのです。負けイベで勝てたらどれだけ爽快なことか...。


だって考えてもみてください。ただ負けるだけのイベントなんて腹が立つじゃないですか!!何でニートで最強な私がそんなゴミイベントを黙って消化しなければならないんですか!!


と考えていると、マリスちゃんが私の小脇をついてきます。どうやら、さっさと会議を始めたいらしいですね。


「皆さんこんにちは、私が今回勇者となった不動院ありさです」


私の簡素な挨拶に、その他お偉いさんが顔を歪めます。それもそのはず、だって考えてもみてください。こんなか弱そうな美少女が、突然自分のこと勇者なんて名乗り始めたら、お偉いさんだって私の頼りなさに思わず顔をしかめてしまうことでしょう。


「おっほん!!」


私は、一つ咳払いをして説明をすることにしました。


「まず、手早く説明させてもらうことにします。あと一週間後、魔王が城内に現れます。そして、此処にいるマリスちゃんを殺します」


私が宣言すると、その他お偉いさんたちが動揺の色を見せます。殺されると分かったマリスちゃんの表情を見ると...。

意外なことに、いつもの凛々しい表情を崩すことはありませんでした。


「静かにしろ!!この程度でうろたえるな!!」


マリスちゃんが周りのその他お偉いさんに一喝。瞬く間にその場静まり返ります。

さすがマリスちゃんのカリスマ。一瞬にしてその他お偉いさんを黙らせてしまいます。


「何故そんなことが分かる?君は、未来予知でもできるのか?」

「できません。ニートの力です」


私がそう言うと、マリスちゃんは眉間にシワを寄せ、微妙な顔を浮かべました。


「で?君にはどんな考えがあるんだ?まさか私より弱い君が魔王を倒すわけじゃなかろう?」


マリスちゃんが此方に挑発的なまなざしを向けてきます。


まぁ、確かに私は弱いです。どうあがいても魔王には到底勝つことは出来ません。何故なら私のステータスを見たところ、ほとんどのステータス値が1という最弱値を示しているし、使える技だってワープぐらいしかありません。ワープは一度行った町や国、村に移動できる能力です。


もともとこのゲームは、チュートリアル時にステータスを振り分けて、ある程度強い状態でプレイすることが出来たんですけど...。あの金髪悪魔のせいで私は、そのステータスすら振り分けしていない状態で投げ出されてしまいました。

そんな私が、魔王に勝だなんて到底無理な話です。


私は、挑発的な笑みを浮かべるマリスちゃんに言うことにしました。


「戦うのは勿論私じゃありません。自慢じゃありませんが私はこの中でも最弱です。だから、マリスちゃん自身に魔王を倒してもらいます」

「私が魔王を?」

「そうです。魔王はマリスちゃんを一撃で屠ってきます。しかし、その前に魔王は、油断します。マリスちゃんに少し攻撃させて、自分の優位性を示そうとするのです。そこにチャンスが生まれるのです。マリスちゃんはそのチャンスを生かして魔王を一撃で屠ってしまえばいいのです」

「私にそんなことが出来るのか?」

「勿論、今のままではできません。ただし、私がマリスちゃんを鍛え上げて見せましょう」


マリスちゃんが何処か不満そうな顔を見せます。


「私より弱い君がか?正直私は、君に教わることは何もないと思っているのだが...」

「なっ、何でですか!?何を根拠にそんなこと言うのですか!!」

「いや、だって君アホそうだし...」

「もう怒りました!!マリスちゃんは魔王に殺されればいいのです!!」


せっかく人が親切に助けてあげようと思ったのに、もう知りません!!


「冗談だ。機嫌を直してくれよ?」

「嫌です!!わがままな私は、一度機嫌を悪くするともう口を利かない主義なのです!!」


私は、顔をそむけます。


「分かった、魔王を撃退できた暁には、君の願いをなんでも叶えてあげよう。それでいいかな?」

「いいでしょう。どんな願いでも100個だけ叶えてくれるのですね?」

「誰が100個と言った!!一つだけだ!!」

「そうですか...ではこの話はなかったことにしましょう」

「わ、分かった譲歩して2つだ」

「仕方ないですね...。それで許してあげましょう」

「君は、一体何様のつもりなんだ...」


マリスちゃんが呆れ気味に言ってきましたので私は、堂々と宣言します。


「ニートで最強な勇者、不動院ありさなのです!!」

「そうか...」


マリスちゃんは、諦めたようで改めて嘆息したのでした。

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