第2話

私がやっていたゲーム「戦国のファルコン」とは、基本的には防衛を主としたゲームで、主人公があれやこれやと頑張って、魔王軍やモンスターから自国ファルコンを守るゲームです。


章が進むにつれ、主人公が成長を見せていくゲームなんだけど...。今回、伝説の勇者その主人公に選ばれた私は、成長する気まるでゼロのただのニート。


そんなこんなで私は、無理やりあの金髪悪魔に飛ばされて、宙に浮いています。いいえ、正確には空に投げ出されたと言ってもいいでしょう。ええ…大変ですね...。体は、無駄な浮遊感と重力に押されて真っ逆さまに落ちていきます。


で?なんで私がこんなに冷静にいられるかって?それはもう、現実味がないからです。だって考えてみてください。伝説の勇者に選ばれたと言われて突然空に投げ出されたのですよ?そんなの、現実にあるわけがないじゃないですか。ないです。ありえないです。これは夢ですね...。私は、一度目を瞑り深呼吸。もう一度目を開けてみます。


下を見ると西洋風の街が広がっていて、このまま落ちると、あの大きな城の天辺のとがった部分に突き刺さること間違いなし。上を見上げると、青色に染まった美しい空が広がっていました。


「綺麗だな~」


私は、小学生並みの感想を述べました。しかしおかしいです。目が全く覚めません。それどころか、段々と近づいてくる地面が現実味を帯びてきます。


「あっれ~??おっかしいな~夢かな???夢であってほしいよね?」


私は、自分で確かめるようにして言いましたが、残念ながら目は覚めてくれません。


「えっ?もしかしてこれ現実!?まっさか~嘘だよね~??誰か嘘だと言ってください。お願いします」


私は空中で頭を下げます。と言っても風圧に負けて全く頭は下がってないんですけど…。


「あれ?なんで誰も嘘だと言ってくれないの?なっ、何でですかあああああ!!」


私は、段々と現実味が帯びてきた出来事に混乱します。もう私の頭はぐちゃぐちゃです。手をぐるぐると動かして空を飛ぼうと試みたり、平泳ぎして空を飛ぼうと試みましたが、一向に落ちるスピードは変わらず、城の天辺のとんがった部分にぶつかりそうです。


「うぎゃあああああああ!!」


あと数メートル。私は、死を覚悟して目を瞑りました。



「いたたたた、いたいいたいいいいいよおおおおお!!」


泣き叫びます。痛い痛いです。チョー痛いです。私、死にました。確実に死にました。異世界来てすぐ死にました。チョー弱い私に寄付金くださいお願いします...。


???あれ?痛くない?


私は、瞑っていた眼を怖いのを我慢して開けます。すると…


「あの?…えっと...ようこそ勇者?よ?大丈夫か?」


レットカーペットの上で、無様に悶絶する私に、どう接していいか分からないかという風に、赤い無造作な髪と褐色色の特徴的な、白い騎士ぽいっドレスを着た少女がそう言いました...。どうやら、私は無事、王と謁見する広間的な場所に着陸したらしいのです。





恥ずかしいいぃぃいいい。恥ずかしはずかし恥ずかしイイイイ


私は、恥ずかしさのあまり赤いカーペットの上に顔をこすりつけます。


皆さんよく考えてみてください。知らない初対面の人の第一声が「いたたたた、いたいいたいいいいいよおおおおお!!」なんて、どう考えても変な人だと思われるじゃないですか。しかも外傷もなしでお腹を押さえながら泣き叫んでいたんですよ?コミ症な私は、開き直ることもできず、顔をレッドカーペットの上にこすりつけるしかありません…。


「あの?大丈夫なのか?」


赤髪の少女が同情したような目でこちらを見ています。このままでは、相手に気を遣わせてしまうので私は恐る恐る顔を上げることにしました。


「だ、大丈夫です...」


本当は全く大丈夫ではありません。心に大ダメージです。速くお家に帰りたい気分です。常にですけど...。


「そうか、それはよかった…」


赤髪の少女は優しく微笑んできます。


私は、このキャラいえ...この人のことをのことを知っています。戦国のファルコンに出てくる騎士姫マリスちゃん。幼いころから姫として戦場の旗に祭り上げられたかわいそうな子です。


マリスちゃんは序盤の方で魔王にあっけなく殺されるんだけど…この世界でもそれが適応されるのかな?そんなことを考えていると、マリスちゃんが此方をじっと見てきます。


なに!?恥ずかしいんだけど!?


「私は、姫騎士マリス。君が召喚された勇者で間違いないか?」


マリスちゃんが私に聞いてきました。


「どうもご丁寧に...私は、不動院ありさです。たぶん人違いです」


私は、立ち上がりさらりと言いました。


「そんなはずはないだろ!?魔法陣から君が出てきたんだから!!」

「いいえ違います。人違いです」


私は、断固として認めたくはありませんでした。だって認めてしまえば大変な労働が待ち構えているんですから。そんな奴隷のような生活は人間のすることではありません。


働くということは、奴隷になることと同等なのです。


「そうか、君は伝説の勇者ではないのか?では、逆に聞くが君はなんだい?」

「私こそ、最強のニートです!!」

「に、にーと?訳が分からない...。それが君のジョブなのかい?」

「そうです」


私は、適当にうなずきます。


「う~んそうか...。調べさせて貰っていいか?そしたらすぐにわかるから」

「嫌だよお~」

「なんだその顔は!?めちゃくちゃ腹立つな!!だが関係ない!!調べさせて貰う!!」


私の渾身のウザい顔がスルーされました。


そして、マリスちゃんは右手を私に向けてきます。


やっばっ!!やられる!!


「ジョブサーチ!!」


マリスちゃんがそう言った途端、私の体は光に包まれます。そして...


「やっぱり君が、伝説の勇者じゃないか...なんで嘘をついたんだい?」


マリスちゃんが少し悲しそうな目でこちらを見ています。


「うっ、ウソじゃないし!!ニートだもん!!」

「そうか…まぁいい。君にはやってもらいたいことがたくさんある」

「嫌だよお~」


私は、渾身のムカつく顔で迎え撃ちます。


「はぁ…まず、この国のことは分かるかい?」

「嫌だよお~」

「分からないんだね...いいよ。説明する。我が国、ファルコンは今人類最後の砦となっている。他国は、魔王軍によって滅ぼされて逃げてきたものはこの国ファルコンに集まってきている」

「嫌だよお~」

「そして、この国ファルコンはどうにか今まで生きながらえてきたわけだが、もうすでにに国力は疲弊して限界にきている。そこで、私たちは最後の賭けとして勇者を召喚したんだ。その勇者が君てっ訳なんだけど…」

「嫌だよお~」


私は、渾身のウザい顔で迎え撃ちます。


「はぁ...大丈夫かな?こんなんで…」

「大丈夫じゃない!!勇者召喚再始動です!!」

「やかましい!!勇者召喚にどれだけの人間が犠牲となるのか分かるか?100人だぞ!!そんな、ことを何度もできるか!!」

「えっ...あっごめん…忘れてた…」


そう言えばそんな設定あったな~。


「はぁ~...」

「そんなため息ばっかしてたら、幸せが逃げちゃうぞ☆」

「やかましい!!黙れクソガキ!!」

「クソガキてっなんだよ!!マリスちゃんだって私と年変わんないじゃないか!!舐めて貰っちゃ困るぜ!!」


私は、堂々と言いました。そう舐めてもらっては困ります。


今までの14年間、親のすねをかじり続けて家からほとんど出なかったこの私を!!


「なんだか、君は無性に腹が立つな...何でだろう…」

「ドンマイ!!」

「君は後で絶対泣かしてやる!!覚悟しておけよ!!」

「私は泣かないもん!!」





そして...


「うわああぁぁぁああああん!!痛いよおおおお!!酷いよおおおあんまりだよおおおおお!!」


私は、マリスちゃんに泣かされました。


マリスちゃんが、私の戦いの腕を知りたいとか言ってきて、城の中庭に出た私たち。この時点で私にとっては意味不明な展開でした。しかし、そんな意味不明な展開はさらに続きました。突然マリスちゃんが持っていた木刀で切りかかってきたのです。ドメスティック!!。


物凄い勢いの木刀は見事に私の腕にクリティカルヒット。


酷いです。あんまりです...


「ひっぐっ!...痛い...もうママに言うもん...」

「いや...正直すまなかった…君がここまで弱いとは想定外だったんだ...」

「許さない...ママに言いつける…」

「さっきから、ママ、ママ言ってるけど…君のママは何処にいるんだい?」

「あっ…会えない...うわあああああああああああん!!お家帰りたいよおおおおおお!!」


私は、城全体に響き渡るような声で泣き叫びます。もうこんな理不尽に付き合っていられません...。


さっさと章を終わらせてお家に帰るのです。


私は、お家に帰ることを固く決意しました。




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