ニートな私は物凄くお家に帰りたい。

カルシウム

第1話

そこは真っ暗な暗闇の中でした。私は、そんな暗闇の中でポツリと立っています。


「ここは…?」


私が呟くと突然、辺りが金色の光に覆われました。


「きゃっ!?」


思わず情けない声をあげてしまいましたが、頑張って目を開いてみることにします。すると…


「不動院ありさ…貴方は伝説の勇者に選ばれました…」


と言いながら美しい女神のような女性が目の前に現れたではありませんか…。

その容貌は女神と形容するに相応しく、金色の流れるような緩かな髪、くりっとした何処か上品な隻眼。通った鼻筋に、小さな小鼻、妖艶な唇。なんといってもボンキュンボンな体がうらやましい…。私だって年の割にはない訳じゃないけれど…ちょっと劣等感...。

しかし、そんなこととは関係なしに私は主張したいことがあったのです。


「あの~…お家に帰らせては頂けないでしょうか?」


女神のような女性は、拒否権を行使した私を見て、私以上に驚いた様子を見せました。

私はなぜこんなところにいるのか、今朝の出来事を思い出すことにしました。





私の名前は『不動院 ありさ』14歳。こんな可愛い名前ですがニートをやっています。

容姿は、黒髪ショートに天然の黒目で鼻だって小さくてかわいい。唇は丁度いい感じ。ちょっとお顔には自信があるんだけど…。お家から出ることがないので他人の評価はほとんど受けたことはないのです。


「ありさちゃーん、ママお仕事いってくるわね~」


私の部屋までママのきれいな声が聞こえました。どうやらママは私を養うためにお仕事に行くらしいのです。ちなみにパパはブラック企業勤めで、昨日から会社に泊まり込みで仕事をしています。バカみたい...。

私が考えるに、ニートこそ最強の生き方なのです。だって考えても見てください。人間は知能があるのです。無駄に奴隷のように働かなくても知恵を絞れば何とか生きていけます。だからこそ私はニートをするのです。

私はパパを小バカにしながら、ゲームの続きをするため椅子に座り直し、パソコンに向き直りました。


「さてと...」


左手をゲーミング用キーボードに手を置き、右手でマウスを操作し『戦国のファルコン』というアイコンをダブルクリックします。今日も楽しい楽しいゲームに没頭するのです。


この『戦国のファルコン』というゲームは一人用のRPGで、単純に言えばファルコンという国を救うために主人公がいろいろと頑張るゲームなのです。本来、私みたいな女の子がやるゲームじゃないんだけど、何故だか私はこのシリアスで残酷なゲームにはまってしまったのです。


まぁ、死んだら一からやり直しの結構シビアなゲームなんだけど、時間が有り余っているニートな私にとって、打って付けのゲームなのです。


「えっ...あっ…ちっ!!」


そんなことを考えながら油断していると、最終章クリア寸前で主人公が惜しくも死んでしまいました...。


「なっ、何ですかああああ!!はぁ・・・」


死んでしまった情けない主人公に嘆息しながら、回るディスクチェアに座りながら足で回転させます。目が回る~・・・。


と、思っていると…


「あれ?おかしくないですかね?止まらないんですけど、むしろ回転速度速くなってるんですけど…!?」


自然に速まる椅子の回転速度。足で止めようと地面に足をつけますが...。


「止まらない!?」


足を地面に付けっ放しにしていると、摩擦で焼けこげそうになります...。


「たっ、助けてええええええ!!」


そう叫び声をあげて段々と高速になっていく回転速度に恐怖しながら、気づけば暗闇の中に佇んでいたのです。





場面は、冒頭に戻ります…。


「あの...お家に帰らせては、頂けませんでしょうか・・・?」


私の言葉に、金色に輝く女神の目が点になります。


「お家に…「貴方は選ばれたのですよ伝説の勇者に!!嬉しくないんですか!?」


私が言い終わる前に、女神が捲し立てるように言ってきました。


「うっ~・・・」


女神の美しい容貌からは考えられないほどの焦った表情に気後れしてしまいます。


「あっ、すいません…」


私の、嫌そうな表情を見て気づいたのか、女神は落ち着いた口調で謝りました。


「いえ、別にいいんです...なんせ親以外の人とお話しするのが久しぶりなもので…」

「そうなんですか...てっ!?今なんて!?」

「私は、ニートのなので...きっと、伝説のなんちゃらにはなれないと思うのです。なので、今すぐお家に…「ダメです!!」


また私が言い終わる前に、女神が言ってきます。


どうしよう...この女神、女神じゃなくて悪魔に見えてきました。とりあえず拒否権を行使し続けるのです!!


「なっ、何でですか!?何でお家に帰ったらだめなんですか!!」


私は、突然与えられた理不尽に叫ぶことにします。私は、お家に帰ってダラダラしたいだけなのに、なんでこんな目に合わなきゃならないのか全く分からなかったからです。


「なんでってっ、貴方『戦国のファルコン』というゲームをプレイしていたでしょ?」

「し、してないもん!!」

「嘘をつくんじゃありません!!」

「うっ!?」


私の嘘を見抜き一喝する女神から悪魔にジョブチェンジした女性。豆腐メンタルな私の目からは暖かいものが流れてきました。


「なっ、なんでお家に返してくれないんですか...グスン...」

「えっと…てっ!?もしかして泣いてます?」

「泣いてないもん...グスン...ジュジュル...グスン...」

「泣いたって、無駄ですよ?」


と、冷たい目で言ってくる悪魔。


「なっ、何でですか!?うああああああああああああん!!」


号泣する私を見てドン引きする悪魔。どうだ、泣き脅し攻撃くらええええええ!!


「そ、そんな攻撃私には聞きません!!」

「ちっ!!」

「ちっ...てっ、えっ!今の嘘泣き!?」

「当たり前ですよ...グスン...泣いてないもん...」

「やっぱり泣いてるじゃありませんか...。もう話が前に進みませんね...。手短にお話させていただきます」

「聞かないもん…わああああ」


耳を両手でふさぎながら、大きな声を上げる作戦を行使します。これで悪魔対策はばっちり。


「はぁ...なんでこんな子が伝説の勇者に選ばれたのかしら…」

「こっちが聞きたいわ!!」

「きっ、聞こえてたの!?」

「わああああああああ...聞こえません…」

「はぁ…とりあえず何であなたが召喚されたか言うわね...」


私は、少し気になったのわああああをやめました。だって気になるじゃないですか。私には、実は隠された特別な力があったりするかもだし...。


「最初に言っておくけど、あなた自身に隠された特別な力はないわよ?」

「わあああああああああああああ」


私は、耳を塞いでわあああああを再開します。


「はぁ…あなたが選ばれたのは、『戦国のファルコン』というゲームをプレイしていたからにすぎません…その中でも勇者の素質が高いものがランダムで選ばれたのです...」

「私に勇者の素質が!!」

「案外ポジティブな子なのですね...。まぁ、あんなゲームしている人、デブか禿のクソゴミニートしかいないでしょうから、一番ビジュアルなマシなあなたが選ばれたんじゃないかしら?」

「わああああああああああああああ、私は勇者の素質があるうううう」


耳を塞いで現実逃避をする私。そんな私を見て呆れたように悪魔は...。


「はぁ...まぁいいわ…。とりあえず説明を続けるわね...。あなたにこれから行って救ってほしい世界は、その『戦国のファルコン』に酷似した世界なのよ。その世界で魔王を倒してきてほしいの...」

「だが断る!!」

「ダメよ?」

「うっ...」


様式美が通用しない悪魔に、またもや気後れしてしまいます。


「なっ何で、私なんですか!!デブや禿でいいじゃないですか!!」

「デブや禿に何ができるの!!」

「ひっどっ!!全国のデブと禿の人に謝って!!」


私が、悪魔にそう告げると...。


「そんなに嫌なのですか?」

「嫌に決まってるでしょ!!私の座右の銘はニートこそ最強!!働かないものこそ真の最強を語れるのです!!」

「はぁ…何を言っているか全く分かりませんね...。ホント...。何でこんな子が選ばれたのかしら…」


小さな声で言っているけど聞こえてるんですけど…


「分かりました。そんなに働きたくないのですね?」

「そうですとも!!」

「自信満々に言うことじゃない気がしますが...では、こうしましょう。あなたのやっていたゲーム『戦国のファルコン』の章、その章と類似した出来事を無事終えるたびに1ヵ月の家でのニート期間を設けましょう」

「ニートこそ最強!!故に、一度たりとも働いたら負け!!」

「黙りなさい!!」

「うわあああああああああああん!!」


私は、泣き叫ぶしかありません。だって考えてもみてください。章が終わるまで、無休で働き続けるてっことでしょ?そんなの無理だよ...。労働基準法違反だよ...。


私が泣き続けていると…。


「うるさい!!」

「うっ...」


女神の叱咤が飛んできます。グスン...


「これ以上の譲歩はありません。他に何かありませんか?ないならさっさと行ってください」

「ちょっと待って!!」

「なんですか?」

「えっと...せめて異世界に行く前に得点を…ほらなんかチート武器とかなんかあるでしょ?あるよね?」

「あるわけないでしょ?何を言ってるのですか?」


悪魔が、冷ややかな声で言いました。


もうこれは怒ってもいいでしょう。怒りますとも、ええ…。


「この悪魔!!」

「悪魔で結構。行ってらしゃい~」


悪魔が笑顔でそう言った瞬間、私は浮遊感に襲われました。


「えっ!?」


足元を見ると暗闇。地面が消えていました。


「ぎゃあああああああああああああ!!」


私は、暗闇へと吸い込まれるように落ちるのでした...。








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