マリーアンと神官
数日前――。
とある枢機卿の居室にて。
「……それで、どうであった?」
マリーアンは、たった今部屋に入ってきた青年神官に、手短にそう聞いた。
「私の見解では本人かと。なにより、ペシュがこちらの通信に反応しました。契約コウモリは、生涯において主人を変えませんから……」
小さなコウモリを肩に乗せた青年神官は、神妙な顔で答える。
ちなみにアイのように、命令があれば主人からしばし離れることはあるが、血による魔力の供給は主人しかできない。とはいえ、もともとが省エネ体質であることに加え、こちらの豊富な魔力量のおかげもあって、そうそう魔力枯渇になることもないようだ。
青年の報告に「そうか」と相槌を打ったマリーアンは、けれど、そんな彼の表情に少なからぬ屈託したものがあるのを見逃さなかった。
「なんだ? なにかあったのか」
「いえ……ただ、魔界側への連絡は、彼と直接面会してからの方がいいかもしれません」
「なるほど、一理あるな。なんと言っても、本人が別人を名乗っていてはな……万一の時、実は別人でした、ではシャレにもならん」
「はい、私が逐一状況を連絡しているので、なんとかディリィもリンも大人しくしてますが……あの子にこれ以上危害が及ぶようなら、冗談抜きで戦争にさえなりかねません」
「はは……そうだな。それこそ魔界の軍隊を引き連れてこんとも限らぬな」
マリーアンは思わず笑ったが、もちろん笑いごとではない。
相手はたかが留学生一人、それこそ事故でもでっち上げ、保護したとかなんとか適当に取り繕うつもりだったのかもしれない。実際、孤児や、行き倒れの怪我人、身元不明の流浪者などを教会が保護しているのも確かだ。
仮に、ことが露見したとしても、大事の前の小事、立てた功により帳消しになると踏んでいるのだろう。
おめでたいことに、彼らは自分たちがすべてうまくやって、下手な騒ぎになっていないのだと勘違いしているのだ。
「彼は……名をリュシアン、だったか。どうだ、会えば本人であると断言できるか?」
「……直接会ったのは、まだ赤ん坊のころでした。事情があり、長く離れ離れで過ごしておりましたので、自信満々とは言いませんが、おそらく」
「こらこら、頼みは其方だけなんだ。そこは即答してくれないと」
――そして、ようやく二人は十数年ぶりに再会することになる。
「では、行くぞエルマン」
その日の朝、神子との面会が叶うと連絡が入った。
時間は午前中とのことだったので、朝食の時間を過ぎたころ合いを見て、マリーアンは目の前に控える青年に声を掛けて立ち上がり、枢機卿が着用する礼服の白いマントを翻した。
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