面会準備

 先日のごたごたはあったが、結局神子のお披露目兼、祭事は予定通り行われることになった。

 ちなみにあの親子のことは、娘の方が神子候補の一人だったと、割とあっさり明かされた。精霊使いの古い家系の出だとのことだが、精霊使いだったのは母親で、娘の方ではなかったらしく保留扱いになっていたようだ。

 神子の外見は、基本的に幼少期から十代前半くらいまでとなっているため、母親では条件に合わなかったのだ。とはいえ、娘の方も精霊を見ることはできるらしく、神殿側としては母子ともに残留してほしいとの考えだった。

 それにもう一つ、決定的な点が神子として不足しているらしく、どちらにしても神子として採用するには、いろいろとしきたりなどを変える必要があったのだそうだ。

 俺の何が彼女たちより相応しいとなったのかは知らないが、ともあれ、やるしかないというなら、これも仕事だと思って割り切るしかない。

 失敗しても「任せたのはあんたたちだ」と、開き直ってやろうと心に決めた。

 

「神子様、本日はきちんと正装なさってくださいね。教皇様直属の枢機卿様がお見えになります」


 朝食が終わると、さっそくメリッサとエレが俺の支度を始めた。

 正装といっても、祭事に着用するようなものではなく、先日、外へ出た時とほぼ同じ格好で、ベールをしてないだけである。人と会う前提なので、位を示す肩掛けの帯が斜めに掛けられている。ちなみに白長衣も、形こそほとんど変わらないけれど、同色の糸で細かな透かし刺繍が施してあった。

 

「……これまでにも数人挨拶に来たけど、今日はまた完全装備だな」


 付け毛こそしなかったが、長く伸びた髪を念入りにくしけずり、俺越しに鏡を何度も確認するメリッサに思わず苦笑した。


「今日お見えになる方は、枢機卿のマリーアン様とおっしゃって、教皇様の代理のようなお方です」

「教皇……の、代理?」


 俺の呟きを「それじゃ教皇は?」と捉えたのか、少し躊躇ったように間を開けてから、幾分抑えた声で続けた。


「……少し、体調を崩しておいでなのですよ。さあ、出来ました帽子を被せますね」

「あ? ああ」


 いささか早口で話を切り上げたメリッサは、俺の頭に両手を添えて鏡の方へ固定させると、用意してあった帽子をそっと乗せた。鏡を見ながら角度を確認して、ずれないようにピンでしっかりと留めると、鏡に映った俺に向ってにっこりと笑いかけた。


「マリーアン様は、とても気さくな方でいらっしゃいますよ」


 これまでに数人の司教や枢機卿に会って、いずれもぐったりと疲れた経験があった俺に、メリッサはそう言って慰めた。

 うーん、そんなに顔に出てたか。まあ、気乗りしないのは確かだしな。

 俺の経験上、上司や、特権階級なんて人材は、だいたい似たり寄ったりだ。メリッサの助言はありがたいが、あまり期待するのはよそう。


「そうそう、なんでも神子様のお付きになる神官様は、マリーアン様がお連れになられるようですよ」

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