石ころ再び?
それは、とても懐かしい光景だった。
学校で、気の置けない友人たちとくだらないお喋りをして、他愛のないことで悩んで……家族には恵まれなかったが、友達はいい奴らばかりだった。
行き交う友人たちと順に話していたが、いつの間にか現れた黒い犬と、黒いインコの二匹に纏わりつかれて、気が付くと背景が学校から大きな屋敷に変っていた。
お城のような、立派な階段から二人の男女がゆっくりとこちらに微笑みながら降りてくる。
「……父様、母様」
なぜか自然に口から飛び出した。
両親などいないはずなのに、なぜ――。
「…………ン!」
呼ばれた気がして振り向くと、そこには先ほどとは違う顔ぶれの友人たちが立っていた。咄嗟に名前を呼ぼうとしたが、喉に何かがつまったように言葉がでてこない。
ふと、足元を見ると先ほどまで走り回っていた子犬と、肩に乗っていたインコが、みるみる違う姿へと姿へと変化していった。
その一匹、ゴツゴツした石を乗せた亀のようなそれが、シュッと薄い羽根を広げて飛び上がり、いきなり二の腕にくっついた。
思わず驚いて後ずさると、ふわっと身体が宙に浮いた。
――転ぶ!?
ヒュッと落ちるような感覚に身が縮んだが、気が付いた時には固い地面ではなく、柔らかいベッドの上に横たわっていた。
しばらく状況が分からず、ぼんやりと宙を見つめていた。
天蓋ベットの天井には細かな細工が施されており、目に映る花の模様の一つが顔に見えるよなあと、などとどうでもいいことを思った。
「……夢?」
無意識に口走り、「今の、夢か?」と、もう一度呟く。
記憶を手繰り寄せるように目を瞑るが、そこにはもう瞼の裏の闇しかなくてため息をつく。すぐ喉元まで来てるのに、気持ちが悪いことこの上ない。
起き上がろうとして、なにか違和感を感じた。
布団の中、何かが腕に触っている……というか、掴まれてる?
すると、その何かがもそっと動いた。
「わっ!?」
驚きのあまり飛び上がり、ベッドから転がり落ちそうになった。
「……な、なん、なんだこれ?」
飛び起きたせいで布団が捲れ、その原因が明らかになる。
二の腕辺りに、黒い塊がくっついているのだ。こぶしくらいの溶岩のようなものから、短い脚がチラ見えしており、それが腕にしがみついていた。
咄嗟に剥がそうとしたが、先ほど見た夢の一場面が、瞬間的にフラッシュバックした。
そのとき、天蓋ベットのカーテンが引かれ、少女がひょこっと顔を覗かせた。
「よかった……気分、へいき?」
いささか語彙が乏しいけれど、ペシュが心からほっとしたように笑った。普段は無表情なことが多いペシュが、こんな顔をすることは珍しい。
「……これ、お薬。メリッサが、飲めって」
「あ、うん……」
こちらの様子には一切構わず、淡々と事を進めていくペシュに、俺はつい言われるままに薬の入った器を受け取った。どうみても不審なものをくっつけて大騒ぎしていたのに、ペシュは普段通りに落ち着いている。
「あれ……、え?」
なんだろう、これは俺がおかしいのか?
結構、誰に対しても警戒心ビシバシのペシュが、何の反応もしていない。
もしかして、俺にしか見えてない?
薬の器を持ったまま、その黒い物体を改めて見つめた。よく見ると、頭らしき場所にクリッとした黒い瞳があった。今度こそ、バチッと確実に目が合った。
すると、急にグリグリッとすごい勢いで頭を擦りつけてきた。そう、めっちゃ尖った頭をだ。
「痛っ!? 痛い、痛いっ! 袖っ、服の袖が破れちゃうから、ちょっ!」
身を捩って痛みに耐えながらも、辛うじて手に持つ薬の椀を死守した。すごい色のこの汁を、豪華そうなこの布団にこぼしてはならない、絶対に!
「ダメ、邪魔しちゃ……薬、飲んでから、だよ」
ペシュは、そう言って黒い塊に注意した。けれどそれは、じゃれて遊んでいるのを止めるような「めっ!」くらいの威力しかない制止だった。なんだろう、この日常茶飯事かのようなやり取りは。
というか、やっぱりペシュにも見えてるんだな。そして、めっちゃ普通にスルーされてる……なんでだ。
すると、部屋の物音に気が付いたのか、扉がノックされてメリッサが入ってきた。
「お目覚めになられたのですね、よろしゅうござ……い、まし……」
うん、そうだよな、びっくりするよな普通。
ペシュの反応で、もしかしたら俺がおかしいのかとも思ったが、どうやらそうではないことがはっきりした。
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