案内

※※※※※※


 高等上位課程、教室棟区域――。

 学校案内をしてくれるというベアトリーチェと、ニーナ、アリス、カエデ、エドガー、ダリルの六人は寮の談話室で待ち合わせ、挨拶もそこそこに寮を出た。そこから約五分ほど歩いて、幾つかの建物が規則的に並んでいるエリアに到着した。


「ここは……教室棟ね。今日は、寮の中をもっと案内してくれるかと思ってたんだけど……」

「うむ、寮は男女それぞれ分かれておるしの。もう一人、助っ人を頼んでおいたのじゃ。その者と、これから行く場所で合流することになっておるのじゃ」


 建物を見上げるニーナに、ベアトリーチェがそう答えた。

 食堂以外の寮の設備は男女が分れているため、改めて同性の生徒を交え、それぞれ案内してもらえるということである。


「うん、それもそうか。ベアトリーチェ……様は、男子寮に入れないものね」


 アリスは頷いたが、ベアトリーチェをどう呼ぶか一瞬迷って口ごもった。ここにいる全員が、ベアトリーチェを魔王の娘だと知っているが、この学校で彼女をどのように呼ぶべきか迷ったためだ。


「妾のことは呼び捨てでよい。これから学友になろうというのに、堅苦しいのはかなわぬのじゃ」

「……わかったわ、ベアトリーチェ」


 ニーナが了解して頷くと、ベアトリーチェは照れ隠しのように鷹揚に頷いて、建物の中に足を進めた。


「……教室棟は開放されてるんだな、それとも俺たちが見学するために開けてくれたのか」


 大きな両開きの扉をくぐりながら、エドガーが質問する。


「もともと教室棟は、登録された生徒なら基本的に自由に入れるのじゃ。其方たちのカードには、すでに学生証が登録されておるゆえな。指定区域以外はどこでも入れるはずじゃ」

「指定区域?」

「代表的なのは塔内部と教員区域などじゃな。あとは研究棟など、個別に申請すると追加される区域など、決まった権限がないと入れない場所もあるのじゃ」


 購買部や飲食店にも権限区域があり、たとえば幼年科の生徒が危険な薬品を取り扱う高等科の購買部には入れないなど……入店が制限される仕様である。

 購買部には、筆記用具に始まり、研究に使う道具、素材など多種多様な品が用意されている。

 先日、コーデリアに連れられて学校の中央にある総合購買部へと行った。

 ほとんどの生徒が入店でき、主に雑貨、生活用品などが豊富に置いてある。なにより制服などの学校指定の衣料品、道具が揃う場所となっている。標準的な品物は他の購買部にも置いてあるが、ここ中央購買部では至れり尽くせりなんでも揃うという点が特徴だ。たとえば特別なサイズの衣服や、こだわりの生活用品など、ここにしかない品物が往々にしてある。

 ちなみに、制服は高等過程までは着用が基本だ。

 リュシアンは塔の研究室持ちという身分で、本来なら塔研究員扱いなのだが、諸々の事情で対外的にはニーナ達と同様、高等上位過程となり、制服を着ることになった。そもそも、この中央購買部に行くことになったのも、リュシアンの制服が特注だったからに他ならない。

 言わずもがな、高等科用制服の標準では、彼に合うサイズがなかったからである。

 とは言え、事前に発注は済んでおり、無事に全員分受け取ることはできたし、購買部の見学もできてよかったのだが、リュシアンの機嫌が微妙だったことは言うまでもなかった。


「前の制服も可愛かったけど、この制服もいいわね」


 ベアトリーチェに遅れないようについて行きながら、ニーナは腕を伸ばし、小さくクルッと回って新しい制服のスカートの裾をひらめかせた。


「ホントね、ちょっとお嬢様風?」

「うん、可愛い」


 アリスに、カエデが続く。

 ワンピースタイプのスカートの上に、ボレロのアウターを重ねたもので、スラッとしてすごくスタイルが良く見える。男子生徒用はシャツとスラックスが別になっているが、同じような型のブレザーを羽織り、きちんと対のデザインになっている。


「俺は、制服のデザインなんざ何でもいいけどな」


 ダリルは通常運転の感想を述べつつ、ひたすらノルの居心地のよさそうな場所をアレコレ探していた。エドガーもまた、制服の形などどうでも良さそうに、教室棟の内部の様子を興味深そうに眺めている。


「こっちじゃ。教室棟の地下には、共同で使う合同研究室があって、そこで妾のクラブに所属するメンバーを紹介するのじゃ」

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