案内2
教室棟の地下は、二階まである。
地下二階は、光に弱い薬品や素材を扱う暗室や、特定の魔道具を使う準備室などがある。
一般生徒が使う実習教室と呼ばれる研究室は、地下一階で、基本的に共用だ。授業で使うこともあるし、中等課程から加入が出来るクラブ、サークルなどの集まりでも使用することができる。
普通の教室は引き戸だが、実習教室はノブのついた扉だった。
ベアトリーチェがノブに触れると、一瞬だけ魔法陣が浮き出てすぐに消えた。簡易の鍵になっており、教室の使用許可を持っている人物が一人はいないと開けられない仕様だった。
広いフロアーに、数人が座れる大きな机が十台ほどあり、その一つ一つに洗い場が設置してある。申請すれば、魔石を使ったバーナーなども貸し出し可能で、必要とあれば周りから遮断できるように、ぐるっと囲いができる衝立もあった。
魔法の実技、体技、球技、剣技など、運動系のクラブやサークル以外の室内活動は、だいたいはこの部屋を使う。ちなみに全員がクラブに参加しているわけではなく、いわゆる帰宅部という選択もあった。
同じクラブ活動でも、塔への予備研究員が主催するものになると、隣接する研究棟の、専門の道具が揃ったワンランク上の部屋が使うことができ、こちらは指定区域になるので一般生徒は入ることは出来ないエリアだ。
「みんなの申請もしてあるので、明日から個別で入れるようになっているはずじゃ」
休暇中にもかかわらず五組ほどのグループが活動をしていた。それまでザワザワと数人の楽し気な声が聞こえていたが、ベアトリーチェが現れると途端にしんと静まり返った。そんな周囲の様子にニーナ達は驚いたが、ベアトリーチェは気にする様子もなく教室の後方に歩いて行った。
「なにをしておるのじゃ、早う参れ。こっちじゃ」
入り口近くにほぼ固まっている他のグループを尻目に、一番後ろに位置するテーブルにベアトリーチェは向かった。そこには、一人の背の高い少年が立っていた。
足の止まったニーナ達を、エドガーが押すようにしてベアトリーチェの後を追う。
「ほら、取りあえず行こうぜ」
「え、ええ……そうね」
しばらくすると、静まり返っていた前方の生徒たちが先ほどと変わらぬざわめきを取り戻していた。
数人がこちらを気にしたようにヒソヒソ話している様子ではあったが。
「気にしなくてもよい。人の噂をするなど、暇な奴らのすることじゃ」
「……すみません、俺のせいでもあるんですよ」
呆れたように嘆息するベアトリーチェに、それまで机の側に立っていた少年が、一歩だけ進んでぺこりと頭を下げた。その頭にはぴょこんととんがった三角の耳があり、ふんわりとボリュームのある尻尾が左右にゆっくりと揺れていた。
「獣人は別に珍しくはないんですが、いや……実習教室を使うクラブでは珍しいですが、実は、俺の姉がちょっと有名人で、それで」
「……ごまかさなくともよい。噂の中心は、妾じゃ」
ベアトリーチェは、どうでも良さそうに手のひらをヒラヒラさせてから、手前の椅子を引いて腰かけると頬杖をついた。
「妾は、凶鳥の娘じゃからな」
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