寮2
「大丈夫なのじゃ、寮の管理室に届け出れば従魔も認証されるのじゃ」
今は管理人も休暇中だが、お祖母様がその辺の処理は出来るということで、すぐに手続きを取ってくれるそうだ。サイズによっては、外に併設されている従魔用の獣舎で管理するようだが、ノルのような小型の従魔は主人と同じ部屋で生活することになる。
ところで、ニーナ達にも従魔の有無を聞いて回っているベアトリーチェが、何故か僕のことを無視しているような気がしてならないのだが、気のせいだろうか。
「あ……」
そう言えばと、ふと思い出して声を出した僕に、チラチラこちらを見つつも目を合わさなかったベアトリーチェは、思わず反応して慌てて振り向いた。
「わ、分かってるのじゃ! その頭に乗っておる従魔のことは……」
「ん? ああ……従魔のことなら、この子も追加してね」
何を勘違いしたのか、いささか裏声になりながらチョビを指差している。どうやら後ろめたい態度を取っているのは、ちょっと自覚があるようだ。この様子からすると、無視しているわけじゃなく意識しすぎて不自然な態度になっているってやつかな?
僕が塔に呼ばれているということに反発してたしね。
「コウモリ!? うそ、契約コウモリ? 叔母上と同じ……」
「うん、そうだよ。ペシュっていう……」
襟元に隠れていたペシュを手のひらに乗せ、ベアトリーチェに紹介しようとしたが、その手に縋りつくように飛びついて来た彼女に驚いて、ペシュは反射的にシュッと再び隠れてしまった。
「そ、そんな! 妾など何十回と挑戦しても従魔にできなかったのじゃ。どうやって……な、なにかコツがあるのか? 教えて欲しいのじゃ」
「え? コ、コツ……?」
どちらかと言うと、知らない間に従魔になっていたので正直わからない。考えてみれば、チョビも押しかけだったし、そもそも学校でも召喚魔クラスを取ってないこともあり、手順自体まったく知らないのだ。
お祖母様が仲裁に入ってくれたが、またしてもじっとりとした目で「ずるいのじゃ……」を、食らってしまった。
個体数が多いとされる吸血コウモリ。森林や、洞窟、民家の近く、本当にどこにでもいる魔物だ。コウモリとしての寿命は短く、ほんの数年ほどとされている。けれど、例外として主人を得ることによりクラスアップし、魔族となる珍しい種族である。主人の魔力と血により、長い寿命と、コウモリの時とは桁外れの能力を得ることができるのだ。
今まで二度ほど鑑定したので、もちろんこれら上辺だけの知識はあったが、どうやら吸血コウモリを従魔にするのは簡単ではないらしい。理由はいろいろ言われているが、そもそも吸血コウモリの中でも、魔族になれるだけの可能性を秘めている個体が少なく、砂の中の一粒を探す作業だという。
お祖母様の話では、ペシュはアイの子供らしく、魔族化できる可能性が高かったのだそうだ。
なんと、アイはペシュのお母さんだったのか、どうりで会うと嬉しそうにしていたはずである。前にペシュの性別が不明で驚いたが、魔族になって間もない幼生の間は無性のまま成長するのだそうだ。成体になる際、どちらかに変化するようである。
その話を聞いたベアトリーチェは、期待に満ちた目でお祖母様を見たが、どうやら魔族化した個体は、一度しか子を産むことは出来ないらしく、見るからにガッカリと肩を落としていた。
「……そ、そうじゃ! ペシュがおるではないか!」
いいアイディアと言わんばかりに目を輝かせたが、僕は即座にきっぱり「無理!」と断った。なにせ、ペシュはまだまだ子供だ。それこそ、お父さんは許しません! というやつである。
「ところで、リュシアン。さっきは何を言おうとしたの? なにか言いかけたでしょ?」
「あっ、忘れるところだった」
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