地下から階段で上った先は、うって変わって大理石風の床や壁に覆われた立派なロビーだった。どうやらここが塔の玄関にあたる場所のようである。

 地下からの扉には厳重な魔法陣仕掛けの施錠がしており、権限を持っているのは塔の管理者と、理事長であるお祖母様のみらしい。転移装置の他にも、貴重な代物が置いてある倉庫のような場所なのだそうだ。

 ロビーには、総合受付のようなカウンターと、階層案内のボードなどがあるほかは、まるでホテルの大きいロビーのような作りである。この辺りは、塔を使っている学生や研究者たちの談話室も兼ねているのだろう。

 お祖母様は、受付に何やら説明をしに行くのか、その辺りに座って待っているよう言い置いて、立ち去った。

 すると、ベアトリーチェも僕達の輪から離れて、受付の近くにある扉に手を掛けた。しばらく扉の前で、ノブを掴んだまま、何かのパフォーマンスのようにジタバタと引っ張ったり踏ん張ったりした挙句、すごすごと帰って来た。


「……開かなかったのじゃ」


 しょんぼりと肩を落として、そんなことを言っている。

 どうやら、あの扉の奥には各階に繋がる転移装置が設置されているようだ。お祖母様も、ベアトリーチェの動向には気が付いていたようだが、止めなかったのはこうなることがわかっていたからだろう。

 ここには、六階までの教室や研究室を使用している学生も入ってくるのだから、さっきの地下からの扉のように魔法陣の鍵のような仕掛けが施されていて然るべきである。


「そんなに上に登りたいの?」


 僕がそう聞くと、ベアトリーチェは咄嗟に応えようと頭を上げ、僕と目が合うと、ハッとしたように口をへの字に曲げて、ぷいっと横を向いた。

 ……んん? なに、この反応。


「待たせてごめんなさいね。今は休暇中で本来は寮が締まってるんだけど、特別に開けてもらう許可を取ったから、行きましょう」


 そうこうしているうちに、お祖母様が戻って来た。

 教職員棟も本来は学校の校舎の近くにあるのだが、学校関係のほとんどが休暇中の今は、事務関係を全て塔が管理しているようだ。


「寮の案内は妾がするのじゃ、叔母上」

「そうね、現役の学生の方がわかることも多いでしょう、お願いねビーチェ」


 ベアトリーチェは「任せるのじゃ」と胸を叩いて、張り切って先頭に立った。

 塔から教室棟、教員棟を経て、たっぷり三十分以上歩いて、寮の建物がようやく見えてきた。基本的には、幼等科、中等科など、それぞれの学部は、その周辺で生活が完結できるよう、寮、教室棟がそれぞれ配置されており、これほど歩く必要はない。塔のみが少し離れが位置にあるので、ちょっと遠い道のりとなってしまったのだ。

 ちなみに、キャンパスの外周には馬車が通れる道が整備されており、いささか遠回りにはなるが、学園の端から端まで移動しなくてはならない時などは、馬車を使って移動したりもするようだ。

 そして、案内されたのは高等科以上の生徒が使っている寮だ。


「女子寮は右、男子寮は左。一階は食堂を含む共同階、あとは三階が連絡と非常用に繋がっているのじゃ」

 

 一見すると一つの建物に見えるが、どうやら行き来は一階と三階しか出来ないようだ。ベアトリーチェの説明によると、三階の連絡は、男女がつかえる談話室を通らないと通り抜け出来ないらしく、本人認証の魔法具によって管理されているという。


「そう言えば、寮って従魔大丈夫か?」


 制服のポケットから顔を出すノルを指差して、ダリルが思い出したように聞いた。

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