魔界の学校

 ジェレノイア地方の中心部にある冒険者ギルドから、ずっと山間部の方へ行くと大きな学校がある。

 町から離れてはいるが、充実した購買部やギルドの出張所などもあり、それなりに不自由しないようになっている。

 正式名称としては知識の塔所属、ジェレノイア教育部門。一般的には、魔王国学校と呼ばれている。


 翌日、僕達は、魔王城の一室にある転移魔法陣を使って、一瞬でこちらに移動してきた。僕が特大の紙に展開させたようなチャチなものじゃなく、巨大な魔石によりしっかりと永続処理が施された代物だ。

 当然、現在の技術で作られたものではなく、はるか昔の、偉人たちの英知の塊である。知識の塔でも、転移魔法について研究はされているが、今もって満足な成果はないようだ。

 そんな中、曲がりなりにも魔法陣を展開するという形で、新しく転移魔法の構築が出来る僕の存在を、世界が放っておいてくれるはずもなく……。

 転移魔法の件は、なんとなく面倒なことになりそうとは思ったけど、本当にそうなってしまったというわけだ。

 魔王様は僕を預かるために、とんだはったりで周りを黙らせたわけだけど、あの自信はどこからくるのだろうか。こんなスゴイ転移装置とか見せられちゃうと、ちょっと不安がよぎるんだけど。

 もっとも、そうでもしないとあっちの世界で確保とかされそうな勢いだったと聞いて、ちょっとゾッとした。なにしろ通信はできるわけだし、教会やギルドの組織も双方で繋がっているからね。


「……この転移装置なら相当の人数を一度に運べそうね。ダンジョンに設置されているものより、かなり立派な魔法陣だわ」

「それにこの魔石。一体、どんな巨大なモンスターだったのかしら」


 一方、到着するなり、すぐさまニーナとカエデは魔法陣を観察し始めた。アリスやダリル、エドガーもこの部屋の様子が気になって仕方がないようだ。

 ここは、学校側――お祖母様は「知識の塔」の内部と言っていたが、の魔法陣である。

 がらんと、何もない部屋だ。外からの光もないので、部屋に設置された魔石ランプの人工的な光で満たされている。 


「はっきりとはわからぬらしいが、魔石の魔力の形からドラゴンだったのではないか、と父上が言っておったのじゃ」

「……ド、ドラゴン!?」


 ベアトリーチェの説明に、ニーナとカエデの声は見事にハモった。

 ちなみにベアトリーチェも、一緒に転移装置を使ってこちらにやってきた。初めて使用許可が出たらしく、すごい張り切りようだった。

 理事長とはいえ新参者であるお祖母様より、すでに四年ほど在学している彼女の方が学校内のことはわかるだろうと、魔王様が案内に付けてくれたのだ。

 

「そんなことより、叔母上! ここは塔の何階なのじゃ?」

「ここは、地下よ。今は、ここに仮置きしてあるけど、いずれは上層階に移動させることになるわ」


 ベアトリーチェは、見るからにガッカリして「……地下」と呟いた。

 お祖母様の話によると、この塔の六階までは普通に階段で行けるらしく、そこには幾つかの学生用の教室もあるようで比較的誰でも入れるエリアなのだという。それより上には階段はなく、その移動手段は全て、この塔が建築された当時からある転移装置に頼ることになる。

 ずっと昔に壊れたままの転移装置もあり、そこに通じる階層には行けないのだというのだ。

 なんだかダンジョンのようだと思ったが、ダンジョンだって魔物が棲み付くまでは、貴重品が収めれれた遺跡だったという説があるくらいだから、この塔もたまたま人が管理し続けたのでダンジョン化しなかっただけなのかもしれない。

 僕は見たことがないが、塔タイプのダンジョンも存在するということだ。


「ここは関係者以外立ち入り禁止の場所だから、一度外に出ましょう」


 お祖母様は、みんなにそう言ってこの部屋の扉の方へ歩いて行った。僕は、頭の上のチョビと、襟元のペシュの確認をして、他のメンバー達とともについていくことにした。

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