短い夏休み
「おいおい、マジか。お前が言ってたばーちゃんって、あの人なのか」
エドガーとお祖母様が話しているのを横目に、今度はダリルが小声で話しかけてきた。
その後ろから、ニーナやアリス、カエデも集まって来た。
「ちょうどいいから、みんなにも紹介するよ、僕の祖母で……」
「コーデリアよ。あらためて、魔界へようこそ」
お祖母様が、それぞれに目線を合わせてニッコリ笑った。ちなみにリンは、出発の前に、あちらで自己紹介済みだ。
「いつもリュシアンと仲良くしてくれてありがとう。今回も、こうして見知らぬ土地へ同行してくれて、とても感謝しているわ。これからもよろしくね」
その後、お祖母様はリンも交えて、ぞれぞれ個別に自己紹介をし合ったり、話しをしたりして交流を深めた。そんな合間を縫って、アリスがコソコソっと僕に近寄ってきて、もじもじしつつ聞いて来た。
「リュシアン、本当にお祖母様なの? 話には聞いてたけど、とてもそうには……」
「私もびっくりしちゃった。エルフ族は、年を取るのが緩やかだとは聞いたけど、想像以上ね」
いつの間にかニーナも加わり、うんうんと頷いている。
祖母なのは間違いないが、容姿だけなら母シャーロットの肖像画より若く見えるほどなので、この反応も仕方がない。
あれ? そういえば、みんなにハイエルフの件は言ったことなかったかな……僕もまだ、確証があるわけじゃないけど。
「まあ、でもよ。リュシアンもコレだし……ちょっと納得じゃね?」
なんて考えていたら、アリスとニーナに続いて、エドガーがサラッと失礼なことを言った。
しかも、みんなも「ああ……」って、妙に納得顔だ。
「ドワーフもあまり年齢がわかんねぇけど、エルフってのは半端ないな。一体、幾つ……んぐっ!」
どさくさに紛れて、ダリルが言ってはいけないことを口走りそうになったので、僕は、慌てて飛んでって口を押えた。リン曰く、お祖母様は、いわゆる祖母という年齢よりずっと上っぽい、ということを漏らしていたが……うん、これはエドガー達には黙っておこう。
やがて馬車の方から、ぞろぞろと黒服の男たちが荷物をいくつか持ってきて、なにもなかった砂浜にバーベキューセットと大きなパラソルなどを設置し始めた。
黒服姿の男たちは、騎士というよりはフットマン風だったが、帯剣しているので護衛も兼ねているのだろう。髪の色は金髪にブラウン、赤毛とそれぞれ違うが、全員短髪で同じような髪型で整えられていた。
誰一人として無駄口を叩かず、まるでアンドロイドのような規律ではあったが、なにしろその手に持っているのが、カラフルなパラソルに、野菜が入ったカゴなどで、なんともシュールで思わず笑いが込み上げてくる。
みるみるうちに「楽しい海の家」モドキの施設が整えられるのを、ただ圧倒されてポカンと見ていた僕達に、お祖母様は「さあ、どうぞ!」とばかりに、白い日傘をひるがえして微笑んだ。
「ほんの数日だけど、このリゾート地でゆっくり寛いで頂戴。その後、冒険者ギルドの総本部で必要な手続きをして、改めてお兄様のところへ案内するわね」
要約すると、これからめっちゃ忙しくなるから今は楽しんでね、という事である。
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