短い夏休み2

「ねえ、リュシアン。ペシュちゃんは? 連れてこなかったの?」


 お祖母様は全員との挨拶も終わって、砂浜ではしゃぐチョビに目配せをして、ペシュを探すように辺りを見回した。


「ペシュ? いるよ、ここに」


 僕は、着替えた水着の上に羽織っているパーカーの帽子を、後ろを見るようにして指差した。ちなみに、この水着一式は「魔界へのしおり」を貰った後、慌てて行きつけの工房に縫製を頼んだものだ。女主人のジョゼットさんが切り盛りする、防具やカバンなど、主に縫製が得意な工房だ。

 

「相変わらず引っ込み思案ね……そうだ、アイ! こっちにいらっしゃい」

 

 帽子の隙間からちょこっと顔を覗かせて、すぐにピュッと隠れたペシュに、お祖母様は自分の従魔のコウモリを呼んだ。どうやら偵察に出ていたようで、お祖母様の声に応えてずいぶん遠くから飛んできた。


「チチッ!」


 くるっと僕らの周りを一周して、お祖母様の手に乗った。

 その声に反応したのか、ペシュはそっと顔を出し、やがて帽子から出てきた。アイが僕の肩に乗ると、同じように肩に移動してきて、チチチッと何事か喋っているように羽をパタつかせている。


「本当に、シャイな子なのねぇ」

「……で、でも! やるときはやる子なんですよ」


 困ったさんねとのお祖母様の判定に、僕も、ついついうちの子自慢が出てしまう。

 そんな頃、女の子たちの着替えが終わったのか、馬車の方からニーナ達の笑い声が聞こえてきた。

 彼女たちの水着も当然、ジョゼットさんの工房で頼んだ。あの店は、店主が女性だからなのか、弟子も女の子が多く、ニーナ達も相談しやすくて助かっている。

 今回の水着のデザインも、彼女達と、工房の女の子全員で丸一日かけて考えた代物らしい。

 ニーナは、ビキニタイプだが肩紐から先がフリルで覆われており、腰にも同じ布地のフリルタイプのスカートが付いている。細身の彼女には良く似合っているように思う。

 アリスは襟のついた一見洋服のようなノースリーブのへそ出しで、下はボクサータイプのパンツ。カエデはすっきりしたワンピースで、胸のすぐ下あたりにリボンで切り替えがあり、そこからAラインの薄手のフレアが腿の上辺りまで覆っていた。

 活発そうなデザインのアリスに、ちょっと大人しめなデザインなカエデ。二人ともとても似合っていて、いいチョイスに思える。


「お待たせみんな! どう? 似合ってる?」

「私、水着なんか初めてだよ、なんかちょっと恥ずかしいなあ」

「うちは湖の近くだったから、よく泳いだよ。こんないい生地の水着は初めてだけど」


 先に着替えて待っていた僕達に、ニーナ、アリス、カエデとそれぞれの反応を見せつつ、苦心して考えた新作水着を披露した。


「うん、みんなとっても似合ってるよ」

「……もう、リュシアンたら、相変わらず反応が鈍いんだから」


 ニーナはなんだか怒っているが、いや……結構、可愛いって思ってるよ。だけど、女性に対してはつい習慣で感情をセーブする癖がついているようだ。

 ほら、おっさん時代を経験した僕としては、やっぱりセクハラとか気にするっていうか。


「みんな早く来いよ! 気持ちいいぜ」


 エドガーとダリルは、もうすっかり波打ち際から海へ飛び出している。

 何を隠そう、僕はこちらへきて初めての海水浴だ。前世では普通に泳げたが、果たしてちゃんと泳げるだろうか? チョビを笑ってばかりはいられない。


「うわー、どうしよう。私、泳いだことないよ」

「大丈夫、私が教えてあげる!」

「私もあまり泳いだことないけど、この辺りは浅いから大丈夫よ!」


 アリスが尻込みするのに、カエデとニーナが手を繋いで海の方へと走っていった。

 祖母様は、水着ではあるが泳がないようだ。大きなパラソルの下で、片手にジュースを持って、こちらに手を振っている。横に置いてある小さなテーブルには、先ほど預けたチョビとペシュが、アイとともに籠の中に入っていた。

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