続・学園長からの申し出

※※※


「え? ……りゅ、留学って」

「戸惑うのはわかるわ。こちらで、魔界……というか、異界は今はもうお伽噺に近い扱いだもの」


 危うく落とすところだったカップをテーブルへ戻し、僕は居ずまいを正して学園長の話を聞いた。

 行ったわけではないが、魔界と呼ばれる場所に学校があることは知っている。けれど、今の段階で学園長の意図がわからず、なにも答えることが出来なかった。


「数年に一度の王族会議が、聖都ソナの神殿で開催されたのは知ってる?」


 ちなみに聖都ソナとは、特別に自治が許された小さな都市である。そのトップは、数人いる枢機卿から選出され、期間を区切って、暫定的な統治していると書物で読んことがある。

 冒険者ギルドも、総本部が向こうの世界にあることを考えると、ソナ教、即ちソティナルドゥ教も同じ一つの組織で、向こうの教皇が最高位ということなのかもしれない。

 そうなると、厳密にはフォルティア帝国領ってことになるのかな。


「……いえ、なにも」

「今回は通常の会議ではなく、大国と呼ばれる二国、そして有力な商業国、流通拠点となる国など主要国家に、教会上層部を交えての緊急招集があったのよ」

「緊急……?」


 普段の国家交流なども併せ持った会議の場合、王太子なども参加することもあるので、その場合はエドガーにも声がかかったかもしれないが、今回は国王やその代理のみの招集だったようだ。

 

「ええ、看過できない重要な時事の変化があったからよ」


 そんな大事になるような事件がなにかあっただろうか? と、僕が首をひねったところで、学園長がクスリと笑った。


「本人にはまったく自覚はないようね」


 そこまできて、ようやく学園長の言葉の意味を悟った。

 言うまでもなく、先日僕は問題の異界へ数日間滞在し、その世界から一人の少女を連れてきたのだ。

 僕にとっては、知り合った女の子が困っていたので成り行きで助け、一緒に学校へ通いたいと望んだ(母親の願いでもあった)ので連れてきただけなのだが、世界にとっては見過ごせぬ出来事だったようだ。


「この世界では、異界は曲がりなりにも存在すると認知されているし、さらに向こうの世界では、大陸が分れた日を覚えている種族さえいるわ。そして、あまり公言されていないけれど、魔道具による通信で、ある一定の範囲内で情報のやり取りはしっかりあったのよ」


 その件については、お祖母様からすでに聞いた話だ。

 僕は、学園長の言葉に頷いた。

 冒険者ギルドや特定の王家は、すでに両方の世界の情報を共有していたというし、ましてや冒険者ギルドの総本部は異界……魔界にあるというのだから驚きである。


「この件も知っていたようね。じゃあ、これはどうかしら。先日、あちらの魔界の学校の理事長に、コーデリア・ミークーリャ様が就任されたのよ」


 一瞬、誰の事を言われたのかわからずにポカンとなった。


「え? ……ええ!?」


 そして、それが祖母の事だと気が付いて、僕は思わず立ち上がってしまった。

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