秘薬

 僕とエドガー、ニーナは、薬の完成から数日後、ドリスタン王国の王都へ赴いた。

 ユアン先生、その他たくさんの人達の協力のもと、ようやく薬は完成した。予備も含めて、三つ、僕のフリーバッグに収められている。

 協力者として、モンフォール王国の第二王子、エドガーの同席も国王に許可を貰っている。

 その「薬」の完成判定は、特級と伝説級。神話級こそ出来なかったが、伝説級が出来ただけでも奇跡に近い。なにしろ、たった三つしか作ってないのだから。

 前世であれば、ここで臨床実験とかに入るわけだが、この世界には幸い「鑑定」がある。

 鑑定ができれば、効能はもちろん、その結果までおおよそのことがわかるのだ。


 その結果は、次の通り。

 あらゆる外傷や、外的要因による身体欠損、機能の修復。ただし、生命活動を停止した個体には効果がない。

 完成等級により、その修復度は変化することがある。

 補足、補助素材として魔法水の併用を必要とする。


 すごく簡単にまとめるとこうである。なにやら、ゴチャゴチャ説明されているが、要するにほとんど思った通りの効果が期待できそうだ。生まれつきでさえなければ、薬の等級次第ではほぼ怪我をする前の状態に戻れると理解して間違いない。

 アンソニー王子の欠損部位はかなり重症といえるが、伝説級の出来栄えなら間違いないだろう。ただ、この薬に限らず、やはり患者本人の体力が勝負なところもあるので、何年も寝たきりだった王子の気力体力が、唯一心配される要因である。

 この日のために、少し改良した回復薬なども併用するつもりだ。こちらの魔力薬は気持ちが悪いほど効くので、多少は助けになるだろう。


 僕達の訪問は、箝口令が敷かれ内密に進められた。そのため、異例ではあるが王城への入城も深夜であった。

 ニーナと、事情を知る少数の衛兵の案内により、人気のない後宮の廊下を、まっすぐ抜けて中庭に出た。

 金色の満月に照らされた白い塔が、月明かりに照らされてまるで淡く光るようにそこに立っていた。エドガーが思わず息を呑んだのも仕方がない。

 僕だって初めて見た時はあまりの優美な建造物に感嘆の声を上げたものだ。まあ、すぐに「これ、いくらかかったんだろう?」と、考えてしまった僕は、やっぱりどこか庶民だったのだけど。


「ニーナ王女、どうぞこちらへ」


 塔の入り口付近に来ると、衛兵から白衣に身を包んだ青年に案内がバトンタッチされる。胸の前に手を置いて、目を伏せて挨拶した彼は、前にも会った貴族の青年だろう。

 僕達の方は悠長に自己紹介をしなかったが、話は通っているらしく、エドガーを見るとニーナへの態度と同様、礼をとって無言で頭を下げた。

 当然ながら、僕は無視されました。

 なんだろう、まだ気に入らないのだろうか? 話は聞いているが、納得していないという態度がありありと現れていた。

 胡散臭いエセ錬金薬剤師が、胡散臭い薬を持ってきたくらいに思っているかもしれない。

 気持ちもわからないでもないけどね、本当のところ僕だって気持ち的には半信半疑だ。ただ、品物などの鑑定においては、「鑑定」スキルが成功すれさえすれば、その記述にほぼ間違いはないのだ。

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