薬草畑4
日が傾いてきたころ、なんとか予定していた作業をほとんど終えた。
骨組みだけとはいえ、小型ビニールハウスがほぼ完成した。ちなみにビニールっていうのは僕が勝手にそう呼称してるだけで、もちろん使うのは本当の意味でのビニールではない。これもまたモンスターの素材の一つである。
錬金加工する必要があるので、植える苗と共に、後日持って来る予定である。これがあるとかなりの種類の薬草を植えることが出来る。
自宅にいた頃のように、オリジナルの調合にも幅が出来るのでかなり嬉しい。
気温や外気に影響されない類の薬草は、今日の作業でほぼ植え終わった。カエデの魔法のおかげで、時短が出来たことも大きかった。
「みんな、今日はありがとう。この後、僕とダリルはちょっとだけ解体作業をするけど、各自解散してもらっていいからね」
道具を片付けていたエドガーは残る気まんまんなのか、自分には関係ないとばかりに返事もしない。最近、ちょっとだけ解体には興味があるようだ。男子チームの中で、自分だけ出来ないというのはやはり面白くないのだろう。
「私も見たいから、残るわ」
「じゃ、私も。どうせ寮に帰るんだから、一緒の方がいいし」
「私もっ……、って言いたいところだけど。薬草園から学園を横切るだけでもかなりあるし、残念だけどもう帰るわね」
ニーナとカエデに続きたかったアリスだが、彼女は自宅への帰宅組なので、後ろ髪をひかれるようにしながらも渋々諦めたようだ。
「……じゃあ、今日は解体だけにするよ。お昼休みならみんな集まれるよね? 明日のお昼、食堂に集合ってことにしよう」
しばらくして、着替えて小屋から出てきたアリスにそう言って、僕はみんなにも確認を取る。ニーナはもちろん、指でオッケーと合図を返し、エドガー達も異論はないようだ。
「ホント!? ありがとう、じゃあ私は帰るわね! みんな、また明日」
大きく手を振って、アリスが帰っていった。
「さ、暗くなる前に始めちゃおう」
大きなシートを敷くと、その上に途中まで解体したキングサハギンを取り出した。
僕の感覚ではサハギンと聞くと、半魚人みたいなのを想像するけど、これはまんま鯛である。モンスターだと納得したのは、三叉槍を持っていたからだ。魚は普通、武器持ってないからね。
「しかし、水棲モンスターを生で喰うって信じられねーな」
「いや、僕もそうだったんだけど、これが結構おいしくてね。カエデのお勧めだったんだけど」
この世界では、普通の動物とともにモンスターも食用として流通する。けれど、モンスターに限らず、この世界では肉を生で食べるという習慣がない。……いや、無いと思っていた。
あれはちょっと衝撃だった。
まあ、美味しかったけどね……。お腹こわさないかちょっと心配したけど、普通に大丈夫だった。
というわけで、食べる分として一部は切り落としたんだけど、他は触らずにそのまま持って帰ってきたのだ。硬い頭とか、僕にはどうにもできなかったからね。
それにカエデの話では、目玉とかギザギザの歯とか、エラ、鱗など、素材としても結構な高級品だというのだ。
僕もどこかで読んだ薬材の本に、キングサハギンって記述を見たことがあったような気がするんだよね。
ただ、今のこっちの世界にキングサハギンいるかどうかは問題である。その辺調べてからじゃないと、怖くて市場には出せない。
「綺麗な薄桃色の身ね。それに、このヒレ……なんだか七色に反射してるわ」
「そこあぶねぇぞ、どいてろ。まずは頭を落とす」
ニーナを押しのけるようにして、ダリルがマジックバックから大きなナタのような刃物を取り出し、モンスターに手を掛けた。
ちなみにダリルが使っているフリーバックは、僕が作ったものだ。受け取らせるのにはかなり苦労したが、討伐モンスターの解体をほとんどダリルが行っており、そのための道具をパーティとしていくつか追加したので、それも入れるためだと強引に渡したのである。
解体したモンスターや、討伐モンスターも保管しないといけないし、頑固なダリルを納得させるためには、何事もすべてはパーティ共有財産、の便利な一言で通すことにしたのである。
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