薬草畑3
「うわ、なにこのふかふかな土! それに、良い色ね。あっちの世界にこんないい土があるなんて」
「う、うん、まあね」
ドロップっていうか、正直なところモンスターを倒すと、ドゥルッて感じで口から放出されるんだけどね。言わない方がいいよね。ニーナ、めちゃめちゃ素手で触ってるし……。
「中身全部あけて、そこに積んでもらっていいわよ。私が魔法で一気に撹拌するから」
僕が麻袋に詰め込んだ土をどんどん出していくと、それを担ぎ上げたダリル達にカエデがそう指示を出した。
「やっぱり!」
「……え?! な、なに? リュシアン」
そのカエデの指示に、僕は思わず声を上げてしまった。カエデはもちろん、他のみんなも驚いて思わず手を止める。
「あ、ごめん。いや、だって生活魔法だよね? やっぱりあるんだね、生活魔法農業バージョン!」
「ええ、あるわよ。なによ、そんな驚くことなの?」
僕の食いつきに、カエデがちょっと引き気味に頷いた。
「細々した作業はともかく、これだけの範囲を一気にって時は、やっぱり魔法の方が手っ取り早いでしょ?」
「だよね、あるよね。よかった、アリソンさんに聞いとけばよかったって後悔してたんだ。今から掛けようとしてるのはどんな魔法? 属性は? 魔法陣は?」
思わず矢継ぎ早に聞いてしまい、ニーナ達に畑から引き摺り出された。どうやらカエデの邪魔をしてしまったらしい。「後でね」と、呆れたようにいわれた。
……うん、ごめん。
でもね、こっちの生活魔法の本には、農作業に使える魔法はひとつも載ってなかったんだよ。
もともと生活魔法はマイナーだけど、こっちではほとんど貴族しか魔法が使えないからね。畑仕事はしないもんね、基本的に。
そして属性はやっぱりとんでもなかった。水、土、風だ。三つって、もうそれだけでも凶悪だよね? 最悪、水は無くても出来るみたいなんだけど、めちゃめちゃ土が舞っちゃうらしい。
そんでもってこの魔法、結局は畑を耕すだけだからね……息をするように多属性を操るエルフくらいしか、どのみち使わないってわけだ。
「確かに便利は、便利よねえ。大変だと思ってた土の混ぜ込み作業が、一瞬で終わったんだもの」
属性を聞いて呆れているニーナに、僕は苦笑しつつ頷く。
カエデは、光以外ほとんどの属性を使えるけれど、魔力はあまり多くない。それでもたぶん、この学園では上位に入るほどの魔力は持っている。向こうの世界の住人と、こちらの世界の住人では、もともとの魔力量に差があるのだ。
「じゃあ、女の子たちにはこの種と、新しく持ってきた苗を植えてもらって、僕を含めた男子チームは小さなビニールハウスを作ろう」
種や苗、ビニールハウス用の材料、道具なんかを、空いている場所に広げてそれぞれ作業に入って貰った。
「ダリル、このあと解体も手伝ってね」
「ああ……例の、大型モンスターな。まあ、俺も水棲モンスターはあまり得意じゃないけど」
それはそうか、ダリルは山育ちだからね。
そうして、ニーナ達はひたすら畑仕事、僕達は大工仕事と、手分けして夕方近くまで作業を続けることになったのだ。
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