薬草畑2

 休憩でお茶を飲んでいると、カエデとアリスがやってきた。


「植え替えは終わったのね、次は土を入れるところから?」

「うん、もうすぐダリルやエドガーも来るから、どうせならみんなでいっぺんにやっちゃおう」


 授業が終わって飛んできたのか、制服のままでやって来た彼女たちは、物置にもなっている小屋で着替えることにしたらしい。小屋はとても小さく、二人入るといっぱいになってしまうので、押し合いへし合いになって着替えているようだ。

 寮で着替えてくればいいのにとも思ったが、ここから寮までの距離を考えると大目に見るより仕方がない。

 もともとここは一番端っこで、他の畑ともすぐ隣り合わせというわけでもないので、本人たちが構わないのならいいんだけど。だけど、ここに男子が約一名いることも忘れないデネ。あまり小窓に寄らないように。

 小屋から出てきた二人の恰好は、双方とも動きやすそうな姿である。アリスは帽子にシャツと、男の子のようなズボン姿だった。カエデは……なんだろう、茶摘み娘のような格好だ。足元はもんぺのようなズボンだけど。

 そういえば、畑仕事はいつも黙々と一人でしていたけど、こうしてみんなで集まるとピクニックみたいでなんだか楽しいね。

 

 そうこうしている間に、エドガー達がやって来た。

 二人はお昼を済ませてきたようなので、僕達もこのまま食事にすることにした。

 簡単に食べられるおにぎりをフリーバックから取り出す。おかずは無いけど、大き目なお鍋にはお味噌汁がたっぷり仕込んであった。豆腐があったら完璧なんだけど、今回はシンプルに菜っ葉のみ。


「アリスたちも食べずに来たでしょ? 軽くお腹に入れてから作業しよう。ダリル達は悪いけど、お茶でも飲んで待っててね」


 深めの木の器に、4人分の味噌汁を注いでテーブルに置いた。


「なんだよ、今から昼飯か? じゃ、せっかくだから……てっ!?」


 食べてきたはずのエドガーが、おにぎりに手を出そうとしたので「食べるなら、手を洗って!」とその手を叩き落とした時、意外な声がその隣から掛けられた。


「お? ミソじゃねーか。懐かしいな、俺もくれ!」


 同じように手を出そうとして、慌てて手を引っ込めたダリルだった。

 飲み水用の水の栓を回して、エドガーとダリルは素直に手を洗っている。ちなみにこれは、僕が即席で作ったものだ。酒を貯蔵するための小さめの古い樽を貰ってきて、手作りの栓を下に取り付けてツマミを回すと水が出てくるものだ。もともと似たような物はあるので、それを参考に簡単バージョンで作った。

 何しろここの水場は飲み水用ではなく、雨水を貯水したものだからだ。

 まあ手を洗うくらいはいいのかもしれないが、おにぎりは手で掴むからね。念のためである。


「味噌、知ってるの?」

「まあな、俺のいた村は寒くて貧しかったけど、マメとイモだけは冬に蓄えることができるほど採れたからな」


 詳しく聞くと、豆味噌と、寺納豆のようなものがあったようだ。

 惜しい、糸引き納豆が食べたかったなあ。


「こっちに来てからは全然見ないから、この辺では食べないのかと思ったぜ」

「あ、これ。向こうで買ったんだ。なんだ、こっちにもあったんだね」


 向こうというのは当然、こちらが言う異界のことだ。考えてみれば、元は交流があったんだから不思議はないのかもしれない。

 でもダリルの実家ってことは、ここからめっちゃ遠い山奥ってことだよね。買いに行ける場所ではなさそうだけど、前に商人自体は行き来しているようなことを言ってたので、今度パトリックさんに聞いてみるのもいいだろう。


「ところで二人は、食べてきたんじゃないの?」


 結局、エドガーもダリルもちゃっかり味噌汁を片手におにぎりをガツガツ食べている。


「みんな食ってたら、食べたくなるだろ? それに、これ、味噌汁? 最初は変な匂いって思ったけど、慣れるとうまいな。しょっぱくて、オニギリに合う」

「……まあ、いんだけどね」


 数日分を仕込んで来たのに、ほとんどなくなってしまった。


「でも、あんまりお腹いっぱいにしないでよ。うごけなくなっちゃうから」

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