薬草畑
今日は、朝一番に薬草畑を訪れていた。
学園の裏山を拓いて作った巨大な薬草園。それぞれ、低学年用の猫の額ほどの小さなものから、ビニールハウスまで立ててあるような大きなものまで様々である。
そして僕に与えられていたのは、規模が中くらいの広さで、薬草園中央の場所だったはず……。
しかし、そこには何故か知らない生徒の立て札が立っており、その札にはメモが貼ってあった。場所を示した簡単な地図と、走り書きのような書き置き……見覚えのあるニーナの字で。
「ニーナってば……行動力あり過ぎだよ」
仕方がなく、メモの示す場所へと歩いて行く。
それは、ほとんど薬草園の一番奥の端っこ。そこに目をやると、ニーナが大きく手を振って立っていた。
「リュシアン、ここよ」
「ニーナ、これは一体……」
「ごめんね、勝手に。でも、リュシアンがあっちからいくつか種を持ってきたって聞いて、もうちょっと設備が整っていた方がいいと思って」
ちょっと強引な手段に訴えた自覚はあるのか、ニーナは慌てて早口になりながら説明をした。
とはいえ、基本はリュシアンの助手扱いということでニーナと、さらにエドガー、アリス、ダリル、カエデという、今まで畑を申請していなかった生徒の分も総合で、合法的に大きな敷地を手配してもらったとのことだった。
たくさんの助手を持つ生徒の中には、同じようにかなり大きな敷地を個人で所有してることもあるので、必ずしもニーナが無理を通したというわけでもなさそうである。
まあ、それでも昨日の今日っていうのは、やっぱりニーナだからこそなんだろうけどね。
「ううん、ありがとう。小型のビニールハウスも置けそうで助かるよ。それにほら、授業に関係なく全員が集まる場所とか欲しかったしね」
畑の広さもさることながら、用具入れ兼休憩所に使える小さな小屋と、専用の水場も付いている。学園から一番遠くて不便といえばそうだが、この至れり尽くせりの仕様がなにより嬉しい。
午前中を使って、今まで使っていた小さな薬草畑から、苗をこちらに移す作業を行った。
ニーナもすっかり畑仕事の恰好である。
長い髪を一つに束ね、白いシャツに、ニーソにキュロットという姿だったが、裾が邪魔だったのか膝のあたりでリボンで結んで、黒い長靴を履いている。
種植えだけ手伝ってくれればいいっていったんだけどね。
魔法の世界でも、やっぱり農機具で耕すんだなあ。鍬を振り上げながら、ニーナの方にチラリと視線を送る。僕が耕した場所に、彼女は一株ずつスコップを使ってチマチマと苗を植え替えている。
やっぱり攻撃魔法だと地面が隆起したり、吹き飛んだりしちゃうか。あ、でも、こういうのも生活魔法ってあるのかな? エルフだって、作物を育てたりしてるみたいだったし。
しまった……アリソンさんに聞いておくんだった。
「なにブツブツ言ってるの? 道具があれば、私も耕すの手伝うわよ」
「あ、いや。苗を植え終わったら一回休憩しようか。もうすぐ、ダリル達も来るだろうし」
ニーナは空を見上げて、太陽が真上にあることを確かめて立ち上がった。
「もうこんな時間? 例の土を入れるまでやっちゃおうと思ってたのに」
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