帰還への道筋

「あ、どうかな、以前に確認したときはなかったんだけど」

「じゃあ、この鑑定の巻物を使いなさい」


 僕がいつも作るような簡素な巻物だったが、これは魔界仕様なのかな。そういえば、魔技も発達してるっていってたし、大袈裟な呪文装飾がなくてもちゃんと保管できるってことかな。

 魔族はエルフほどたくさんの属性は持っていないし、研究が進んでるのかも。


「あれ、この文字……」

「あら? 読めないかしら、確かに向こうの魔法文字とは多少違うけど、もともと魔法言語はこの文字を簡略化したものなの。こっちのほうが歴史は古いのよ」

「以前、マッピングした時に見て……意味は分かっても、見たことがない文字だったから不思議な感じがしたんだ。そうか、あれって魔界の文字だったんだ」


 そういえばムーアー諸島って魔界のダンジョンなんだっけ。なら、その地名も現地の魔法文字で読み取ってしまったのかもしれない。


「話す言葉は共通だから安心して。ほら、早く鑑定して」


 急かされて、慌てて巻物を発動する。


「うん……、えと、まだ覚えてないみたい」

「そうなのね、うちの子と通信できたらと思ったけど、まだ無理かしら」


 見ると、長い髪に隠れた肩口から、ぴょこっと灰色のコウモリが顔を出した。ペシュより少し大きいサイズで、首を傾げると、ビロードのような胸元の産毛が艶々と波打つ。


「でも、そうね。今はかえってその方がいいかしら。まだ、諦めたわけじゃないでしょうし……」

「……え、なに? お祖母様」


 灰色コウモリに気を取れているうちに、なにやらブツブツと独り言を漏らしていたお婆様は、すぐに小さく首を振って、自分の従魔であるコウモリを手のひらに乗せると僕の方へと差し出した。

 ペシュも同族との再会にちょっと嬉しそうである。引っ込み思案のペシュには珍しく、自分からその手の平に飛び乗った。


「この子はアイよ、よろしくねペシュちゃん。吸血コウモリは成長が早いから、そのうちこの子たちを通じて連絡できるようになると思うわ。それまでは、緊急の時はリンを飛ばすわね」

「……ヒトを伝書鳩みたいに」


 リンはちょっぴり不満そうだが、お祖母様は意に介すことなく話を進めた。


「さて、そんなところかな。カエデさん、向こうには兄を通して学園への編入を依頼しておいたけれど、試験は受けてもらうことになるわよ。あとはリュシアン、ちゃんとお世話してあげなさいね」

「わかってるよ、女の子の友人もいるから安心して」


 ありったけの荷物をフリーバックに詰め込み、準備万端で僕の横で話を聞いていたカエデは、突然矛先を振られて戸惑ったようにこちらを見た。どうにも静かだと思ったら、かなり緊張していたようだ。

 当然と言えばそうだろう。なにしろ、冒険者のゴツイおじさんたちに取り囲まれたのは、ついこの間のことである。

 そしてお祖母様は、ちょっとだけ真面目な顔になって人差し指を立てた。

 

「それから一つだけ、これだけは注意して頂戴」

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