二つの世界
――翌日。
「はい、これギルドカード」
湖のほとりに立つ僕達に、今しがたリンの背に乗ってやって来た祖母コーデリアが、カエデの手の平に一枚のカードを乗せた。先日、カエデが一時的に預けたものである。
あの話し合いの果てにカエデが出した答えは、僕と一緒に行く、だった。
初めは驚いたけれど、考えてみれば彼女にとって知り合いのない新天地と、親しくなった友人であり、遠いながらも血縁でもある僕がいる異世界では、どちらがストレスが少ないか、という消去法だったのかもしれない。
たぶんどちらに行ってもトラブルはあるだろうし、彼女の存在が大なり小なり異邦人であることに変わりはない。ただその時、孤立しているかしていないか、この差はかなり大きいのだ。
その決断を聞いた時、お祖母様はすぐに頭を切り替えた。カエデにギルドカードを出してもらい、それに魔力を通して内容を確認したのである。
「カエデさんのカードはアルヴィナのギルド発行なのね。そうなると、どちらにしてもこの辺を少し弄らないとダメかな……そうね、私は一度魔界へ行ってくるわ。出発は明日の夕方、その間このカードを少し預かるわ」
そう言って、ろくに説明もせずに飛び出していったのだ。フットワーク軽すぎでしょう、お祖母様。
そして、現在にいたるのだ。
「これ、そちらの拠点としてドリスタン王国を指定しておいたわ。本来の発行場所のアルヴィナは、その下に記されているので普通に魔力を通しただけではわからない仕様になっているの」
それはたぶん、通常の地方ギルドで気軽に出来る変更ではないだろう。上書きと言っていたので、偽造というわけではなさそうだけど、それにしてもなんで魔界で?
「……って顔をしてるわね。それはね、冒険者ギルドの運営、それに中央管理局は魔界にあるからよ」
いろいろ驚くことばかりだが、なんと僕達の世界の冒険者ギルドも合わせての、中央管理局なのだという。
それ以上の説明はなかったが、察するに両方の世界を繋ぐギルドや教会のトップは、お互いの存在を把握しているのだということだろう。まあ、例の個人カードの情報が両大陸の情報を共有していたことから、ある程度の想像はついていたが。
たぶん通信は出来ても、お互いに行き来は出来なかったので、一部の上層部のみが知る秘密事項となったまま先送り案件になっていたのだろう。
物資を伴う交易が出来る訳でもない、出来るのは交信のみとなれば、その有益性は情報交換のみということになる。
もしかすると、学園都市をはじめとしたあちらの教育機関が魔力に頼った発展をしてしまったのは、こちらからの情報を有益視しすぎた弊害といえるかもしれない。
何しろ、もともと人族が得意とする機械文明は、ここ数百年の間に却って後退してしまったのだ。
長い間、秘密裏にされてきてしまったがゆえに、今すぐにこの事実を公にすることはいらぬ混乱を起こすだろうし、何よりこの形態で利益を得てきた者がいるとしたら利害関係にも絡んでくるだろう。
「私が何も言わなくても、聡い貴方にはいろいろわかってしまうかもしれないわね」
勝手な想像をして押し黙っていると、お祖母様はちょっと苦笑して僕の頭を撫でた。
「ま、おおむね想像通りだと思うわよ。でも、どっちも手をこまねいている状態で、何もできないでいるから当分は今までと変わらないでしょうよ」
そう言って、お祖母様は僕の肩に乗るペシュに話を移した。
「ところでこの子、テレパスは使えるようになったかしら?」
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