邂逅
「ペシュ、とにかくそこから離れて」
そう命じるしかなかった。
どちらにしても、先ほど僕達を監視していたものとは別物だろう。ペシュが警戒していない様子からも明らかだし、また、攻撃を受けていないことから野生のモンスターを見間違えたということもなさそうだ。
もし、そうだとしたら。
僕の記憶が正しいとして……でも、それはあの獣が何者かという答えではない。
正体不明であることに変わりはないのだ。ただ、これまでの話を纏めるとリィヴが言っていた「リン」というのがあの獣である可能性は高い。
もしもディリィが、僕の思っている通りの人物だとしたら、という消去法であるけれど……。
「ペシュ、大丈夫なの?」
「うん、ステータスに変化はないようなので、平気だと思う」
だた、視界、聴覚、触覚といった共有のすべてが切れているので、向こうの状況がほとんどわからない。
そうこうしている間に、僕達の方は空白地帯に到着した。こちらからペシュの元へ向かうことも考えたが、まかり間違ってどこかですれ違うことになったりしたら余計に大変だ。なにしろ相手はダンジョンなのだ。ここに記載のない部屋や脇道があるかもしれない、調査に入っていない間に変化があったかもしれない。
ペシュの探索のスキルで、こちらに向かってもらったほうが確実である。
少々、やきもきしながらもペシュを待つこと数十分、ようやく近くに気配を感じた。チョビが珍しくペシュを気にするように、身体をゆすっている。やっぱり心配とかしてるのかな? 普段は、興味なさそうにしてるのにね。
パタパタと微かな羽音とともに、黒いコウモリが通路から姿を現した。
「ペシュ! よかった、無事だったんだね」
ペシュは僕の頭上を二回ほど回ると、しゅたっと肩に下りてきた。
「ごめんね、魔力枯渇しちゃったよね。大丈夫? ほら、こっちおいで」
手乗りコウモリのように、ペシュはいそいそと僕の手に乗った。そして、いつものように人差し指を差し出すと鍵爪のある前肢で掴み、巻き付くようにして指の腹に噛みついた。
本当に油断してた、ペシュは役割上どうしても僕の手を離れることも多いから、本当に気を付けてあげないといけないな。疲れていたのか、ペシュは半分眠りそうになりながら指に張り付いている。
そんなペシュをカエデもちょっと心配そうに見ていた。
「ペシュ、大丈夫なの? なんかぐったりしてるけど」
「ちょっと張り切り過ぎただけだよ。魔力が切れて、少し枯渇の症状が出てるだけだから」
たぶん、前回も逃げられて少し意地になってしまったのかもしれない。僕もあんな遠くまで行っちゃうとは思わなかったから、監督不行き届きというやつだ。
「その子、大丈夫だった?」
「あ、うん。平気だよ、お腹いっぱいになれば元気になるから」
「よかったぁ、フラフラ飛んでたから心配でついてきちゃったよ」
「……っ!?」
ん!? 僕、今誰と喋って?
慌てて顔を上げると、先ほどまで誰も居なかった場所に、いつの間にか一人の少年……いや、少女かな? が立っていた。
気配、まったく感じなかったんだけども!? っていうか誰!
出入り口を見張っていたゾラは、なぜか固まったように動いていない。カエデも、いきなり現れた人物に戸惑っている。
三人が完全にフリーズする中、彼女はニコッと笑って僕を見た。
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