行く先は
監視役にペシュだけ残して、僕達はこっそり宿に戻ることにした。
おそらく宿屋にも一応の探りは入っただろうけれど、カエデがここに泊まっているとは思わなかったに違いない。なにしろ、ここはかなりの高級な宿で、カエデが無一文であることはわかっていただろうし、なにより僕達が三人連れの客だったこともカモフラージュになった。
「取りあえず村へ戻りたいところだけど、待ち伏せされているかしら?」
「ここから近いの?」
「そうね、ここからなら一昼夜というところね」
ここは、僕とゾラの二人部屋の方だ。運よく買い物の際は見つからなかったが、冒険者ギルドへ立ち寄っていたら間違いなくアウトだった。まず最初に捜索の手が伸びるのは乗合馬車、そして次に冒険者ギルドだろうから。まさか呑気に生鮮食品など買いあさっているとは夢にも思わなかっただろう。
「村に着いたとして、村の人達はどう出ると思う?」
聞きにくいことだったが、ここもはっきりしておかないとならない。彼らが味方になってくれるかどうかは、これからの行動に影響してくるからだ。
「……正直、どうなるかわからない」
カエデは悔しそうに床を睨みつけている。教会のデマに踊らされた住民たちに、不愉快な目にあったことを思い出したのかもしれない。
「家族は、たぶん大丈夫。祖父が一番味方になってくれるだろうけど……」
村の名前はミーデシア。数年前に、隣接する湖の近くでダンジョンが発見されて以来、少し有名になった所である。もともとは寂れた何もない村で、その先の港町へ向かう街道沿いということで、休息所としての宿屋や商店があるくらいである。
ダンジョンが見つかった時は、それは大騒ぎでしばらくは臨時の冒険者ギルドが設置されたり、冒険者たちもたくさんやって来て賑わったが、それはほんのひと時であった。
なぜならそのダンジョンにはボスがおらず、たった三階層しかなかったのだ。そのため、モンスターも雑魚しかおらず、たいしたお宝も眠ってない。早々に見切りをつけたギルドもすぐに引き上げ、再び村は静かになった。
カエデの家族は静かに暮らしたくてこの村を選んだらしく、その結果にむしろ喜んだが、大多数の住民はたいそうがっかりしたらしい。
ほんの二年足らずだったが、冒険者たちが落すお金でそれこそにわかバブルだった時期に味をしめた住民は、すぐには元の生活に戻ることが出来ず、次の冬にはかなり借金をしたらしい。
そんな時に降ってわいたのがカエデの嫁入りである。
眉唾に乗せられる形でカエデを帝都に追いやったが、村の人間が皇室に入るとなれば、すなわち強大な後ろ盾を得ることに繋がる。住人達にはそんな皮算用があったのかもしれない。
「どちらにしても追っ手はかかるだろうし、カエデは姿を変えたほうがいいかもしれないね」
僕たちは面割れしてないので、一緒に行動することは目くらましにもなる。
カエデの場合は、取りあえず角だね。それと髪の色。いろいろな種族がいるだけあって、こっちの人達は割と髪の色が多種多様だが、青い髪というのはあまり見かけない。
僕はカバンから雨具兼防寒着の中で、わりと薄手のフード付き肩掛けを取り出した。これはニーナ用に作成したものだったが、……後で謝っておこう。
「角は隠しておいた方がいいね。それとも、君のような容姿はこちらでは珍しくない?」
「……鬼人族は、この辺りでは私たちの家族だけよ。もともと少数の種族だし、私たちの血族は例のクーデター騒ぎの際にかなり粛清されたのよ。もっとも、通称魔界と呼ばれるこの大陸のずっと南、多数の島からなるムーアー諸島には、もちろんいるけどね」
魔界あるんだ……、というか南国の島なんだ! イメージ違うね、なんかリゾート地みたいな響きだ。
「取りあえず、偵察に置いてきたペシュからの映像では、あの男はまだあそこに居座っているようだし、今がチャンスかも知れない」
馬車でいくところを歩きで行くとなると、三日以上はかかるだろう。村の住人が味方として見込めないらしいが、カエデの家族に会えれば何か打開策があるかもしれない。
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