休憩

 僕たちは危険を承知で、深夜に出発することにした。もちろん盗賊やモンスターへの心配はあったが、今は見つからないことが最優先だ。

 ミーデシアまでの道のりはほぼ森林地帯である。ときどき広い道には出るが、大体は両脇を背の高い木々に囲まれていた。身を隠せる半面、盗賊などが近くまで来ても気が付きにくい。

 町から離れるまでは夜通し歩いたが、朝方少し休んで、再び歩き出した。昼間の方は危険が少ないので、基本は明るい時間に歩く方がいいと思ったからだ。


「カエデ疲れてない? 今日は、暗くなる少し前になったら野営の準備をしよう」


 かなりハイペースで進んだので、明日早朝に出れば、深夜には村に入れるかもしれない。華奢な女の子とはいえ、さすがに魔族だからなのかカエデは結構体力がある。ちょっと無茶かなと思った強行軍も、訳なくスイスイと足取りも軽かった。


「大丈夫、了解よ。でもそうね、お腹がすいたわ」

「あ、そういえば朝食べたきりだったっけ。じゃあ、ちょっと広い所へ出たら食事にしよう」


 日差しが強くなり、おそらく今はお昼過ぎと言ったところだろう。そういえばこちらの季節はどうなっているのだろうか。体感ではあまり向こうと変わらない気がする。ずっとこの気温なのか、それとも今がこういう季節なのか、そもそも季節があるのか……ともかく今現在は春から夏にかけての季節のようだ。


「ああ、季節ならあるわよ。例外として、南の魔界は年中暑いらしいし、大陸の北端の山岳地帯なんかにはずっと雪が残ってるところもあるけど、この辺りは普通に四季があるわよ」


 街道をすこし外れた場所にある空き地で、僕達は休憩することにした。たぶん多くの旅人がそうしているのだろう、自然とそのあたりは火が使えるように石が積まれていたり、座るのにちょうどいい大きな岩が設置されていたりしている。


「へえー、そうなんだね。僕の勝手なイメージだけど、魔界は寒いんだと思ってたよ」

「あら、寒いところもあるわよ」


 いつものようにペシュには周辺調査をお願いして、気配察知を発動させておいた。ゾラも、久々に忍者スキルマックスで木々を飛び回って警戒中だ。


「……あれ? さっき年中暑いって」

「ええ、それは通常の場所でのことよ。ムーアー諸島にはたくさんの鍾乳洞や海底洞窟なんかもあるし、中心地にある魔王の城は、膨大な魔力で作られたという永久凍土の氷壁に囲まれた絶対零度の土地よ」


 僕はフリーバックから取り出した簡易コンロを取り落としそうになった。あまりにも勢いよく振り向いたので、チョビまで落ちそうになった。


「ま、魔王!?」


 ええっ、魔王がいるの!? それにやっぱり、なんかイメージ通りだったよ、魔界。


「あ、でも絶対零度って言っても本当にそうなんじゃなくて、それくらい寒いっていう意味なんだけどね」


 いやいや、驚いたのそこじゃないからね。

 テーブルに簡易コンロを置いて、僕は作り置きのスープを温めてた。それほどゆっくりもしていられないので、ここはアルヴィナで仕入れた串焼きやパンなどそのまま食べられるものを出した。

 それにしても魔界。なんだか興味あるね。うさんくさい聖地なんかより、すごく行ってみたいよ。


「変わった、魔道具? ね。火が出てないのにどうして鍋が温まるのかしら?」


 なんかニーナと同じこと言ってる。

 まだ数日しかたってないのに、すごく懐かしい気がする。みんなどうしているだろう……いろいろありすぎてゆっくり考える暇がなかったけど、あらためて無事に帰れるのだろうかと不安になってくる。


「……どうかしたの?」

「ううん、何でもないんだ。ペシュもゾラも戻って来たし、食事にしよう」


 しばらく手が止まっていた僕に、カエデはふと心配そうにのぞき込んで来たが、その時ちょうど、ゾラが音もなく近くの木から飛び降りてきたので、気を取り直してお茶のポットを取り出し、ちょっと遅い昼食にとることにした。

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