ダリルと従魔

「てっ、てめぇっ!そ、そそれ、どっ…」


 教室に入って早々、リュシアンはダリルに思いっきり指さされていた。

 そう、連れている従魔が増えていたからである。

 でもね、召喚魔は取らないよ。だって、チョビは通常戦闘には向いてないし、ペシュは基本的には普通のコウモリなのだ。進化型だから、進化の仕方によってはわからないけれど。というかこの吸血コウモリも、こちらでは珍しいらしい。下位とはいえ、魔族だからだろうか。

 それにしても、ダリルの大声にチョビはぎりぎり頭を締めつけているし、ペシュは首の後ろ、肩にかかる髪の影に隠れてしまった。ダリルってほんと従魔の受け悪いよね…、まあチョビの場合は自業自得だけど。


 今日は錬金術の、いわゆるお試し教室に来ていた。

 年度初めは、恒例になっている学科巡りが可能なので、リュシアンも新入生に混じって錬金術の体験授業を受けにきたのだ。もちろん、今年は上位クラスもいくつかあるので指導上級生としての役割もある。

 錬金術には、鉱石(金属、他含む)、宝石(魔石)、調合がある。

 鉱石、宝石も過程として調合、合成は必須だが、この「調合」は金属や革、魔石を加工する際に使われる薬剤などの調合を指している。

 薬草学の、いわゆる薬の調合は魔力がいらないものもあるが、こちらの調合はほとんど魔力が必須である。

 どうりでダリルがいるはずだ。本当に、魔力に拘り持ってるね。


「…召喚したのか?」


 長い沈黙のあと、ダリルは絞り出すように聞いてきた。リュシアンは、孫悟空の輪っか状態のチョビをなだめるように顎の下を撫でつつ、小さく首を傾げた。


「うーん、僕の場合は召喚じゃないんだ。こう、出会ってなんとなく?」


 本当のところは、強引な押しかけ状態だったけど。それに、どっちもエルマン殿下の差し金っぽいし。


「なんだよ、それ。わけわかんねー、ふざけてんなよ。くそっ…、どこで見つけたか教えろ!」

「……モンフォールだよ」


 たぶん、場所は関係ないと思うんだ。

 それでもダリルは納得しないだろうから、一応正直に答えた。


「モンフォール…、たしか魔法で有名な国だな。なるほど、そうか」


 いやいや、変な納得しないでね。

 今にもモンフォールに突っ走っていきそうなダリルに、リュシアンは慌てて他の手段を提案した。


「召喚の儀式はしたの?そっちの方が確実だと思うよ」

「そっ、それ、は…う、うるせぇっ!てめぇに指図される謂われはねえっ!」


 また…、すぐに手が出るんだから、もう。

 リュシアンは、あっという間に襟首を掴まれ、ぶらぶらと釣り上げられる。


「やめなさい、ダリル!学期末の召喚で失敗したからと言って、リュシアンに当たるんじゃないわよ」


 背後から現れたニーナが、ダリルの腕に情けなくぶら下がっているリュシアンを、腋の下を掬い上げるようにして抱き上げた。そのまま「大丈夫?」と、気遣いながら、ゆっくりと床に降ろしてくれる。

 みんなして人の事をひょいひょいと担ぐのやめてください……

 ニーナにお礼を言いつつも、リュシアンはひっそりと心の中で呟いた。

 周りはそれこそ成長期真っ盛り、数か月会わないとびっくりするくらい変わっている。ダリルに至っては、もともと体格に恵まれて大きかった身体は、今や大人と変わらないくらいの逞しさである。

 確か、今年十六だっけ?

 あっちも規格外な成長ぶりだけど、ある意味ではリュシアンも規格外の成長かもしれない。もちろん嬉しくない規格外ではあったけれど。

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