新学期
縫製職人への依頼を済ますと、四人は学園へと戻った。
本当は鍛冶職人も紹介されてはいたのだが、なにしろアリスとエドガーは、まだ装備の方針が決まっていなかった。それに、既製品以外はすべて材料を錬金や加工をしなければならないのだが、手持ちの貴重な革や金属を、確実に加工できるのが今のところリュシアンだけなのだ。
よって、人数分の鎧を作るだけの材料が、単純に足りないのも理由の一つである。
「授業数は厳しいけど、私も錬金を取ろうかしら」
団欒室でこれからの事を相談していると、ぽつりとニーナが呟いた。
実のところ、錬金を取っているのはエドガーだけである。しかも鉱石のみだ。
リュシアンも書物による独学がメインで、学園での授業は取ってはいなかった。ただ、母親が錬金術を得意としてたので家には材料や器具が揃っていたし、緻密な計算や、微細な数字の暗記が得意なリュシアンは、錬金にも向いていたのだ。
鉱石、金属、素材の錬金加工を始め、革の処理に必要な鞣し剤の調合など、ほとんどリュシアンに任せきりなので、ニーナやアリスは手伝いたいと考えたようだ。
ちなみにエドガーは、自分で使う金属は自分でやると言って、いくつかの鉱石や金属片を預かっていた。
この頃になると、すでに学園には寮生がほとんど戻っており、この団欒室も普段の賑わいを取り戻していた。休みの間は錬金道具や、調合道具などを学園の許可を得て借りていたが、授業が始まれば学科を取っている生徒が優先となる。ニーナの言うように、この先の事を考えると錬金関係の学科を取るのも悪くないかもしれない。
もともと、興味はあったしね。
長い休みが終わり、ついに新しい学年が始まった。
学園二年目に突入したその日、ようやくゾラからの報告が来た。例のエドガーの継承権のことだ。
結論として、エドガーの意見は通らず、王様の権限で却下したそうだ。ゾラは何も言わなかったが、どうやらエドガーを推す派閥の反発もいくらかはあったらしい。
もちろん、その報告にエドガー自身は納得しなかった。ゾラに食って掛かろうとしたのを、リュシアンが間に立ってなんとか宥めたのである。
「ちゃんとイザベラ妃は裁かれてる。今回は、それで満足してよ」
ね?と、大人びた苦笑いを浮かべている。
「……なんで当事者のお前に諭されないといけないんだよ、逆だろ?普通」
エドガーは悔し気に、けれど諦めたように首を項垂れた。
わかっている。この思慮深い弟が心配しているのは、なによりも兄である自分のことなのだ。今回のことで後ろ盾の半分を失い、母親が罪人として幽閉された。これで地位まで失うことになったら、エドガーは王宮での居場所を奪われることになる。権力を失ったエドガーに、さらに母親の罪の責を負わせ、無遠慮な悪意が向けられるかもしれない。
「俺は…、何もできない子供なんだな」
弟どころか、自分の身を守ることも満足にできない。意思を通すには、力が足りなかったということだ。ここで駄々をこねてみたところで仕方がないのだ。
今できることは、ひたすら学び、成長するしかないのかもしれない。
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