ダリルと従魔2

「ニーナ遅かったね、他の授業と重なっちゃった?」

「ええ、やっぱり錬金を二つ入れたのはきつかったわ。仕方がないから、魔法科の方の休講を申請してきたの」


 ニーナはもともとたくさんの科を取っていたので、合同授業の多い新学期は特に重複しまくる。そこで、あまり得意ではない攻撃魔や、勉強のために取っていた回復魔を休講する手続をしてきたようだ。薬草学を新たに取ったエドガーも今日はそちらに行っているし、アリスもいくつか休講手続に行っているようだ。


「てめぇ、コラッ!無視するんじゃねぇよ。モンフォールのどの辺だ?!そこに狩場があるのか」


 どうやら話は終わってなかったらしい。

 リュシアンは、ちょっと困った顔でニーナと顔を見合わせた。なぜなら、モンフォールに行ったところで、間違いなく従魔は見つからないからだ。


「狩場なら、学園の傍にもあるでしょう?レベル的にも丁度いいと思うわよ」


 ニーナは、リュシアンが従魔を得た手段が普通でないことを知っていたので、いかにも必死な形相のダリルを、いささか気の毒に思ったらしい。珍しくまともなアドバイスをした。


「てめぇに聞いてねぇよ、黙ってろっ!おい、どうなんだ」


 ダリルはそんな気遣いを蹴散らして、さらにリュシアンに詰め寄った。

 こらこら…!ニーナが切れちゃうから、やめて。

 リュシアンは、ニーッコリと笑顔を湛えつつギュッと拳を握ったニーナを押しとどめて、慌てて口を開いた。


「僕の場合は、ちょっと特殊だったんだ。だから、悪いけどモンフォールの狩場は知らないよ」


 それを聞いて、明らかにダリルのテンションが下がった。

 さらに何かを言おうとして、すぐに思い直したようにチッと舌打ちをして背を向けた。乱暴に椅子を引いてドカッと不機嫌そうに座ると、もう用はないとばかりにこちらには見向きもしなかった。

 それにしても……

 リュシアンには、いささか違和感があった。

 鑑定こそしてないけど、ダリルはおそらく人より豊富な魔力があるし、素行の悪ささえなければ、攻撃魔の実力はかなり上のクラスでも遜色ない。どうして召喚できないのだろうか?

 召喚にも、態度の悪さとか関係あるのかな?


「もういいわよ、いきましょうリュシアン」


 落胆して項垂れてしまったダリルを尻目に、リュシアンはニーナに引っ張られて空いている席についた。

 先ほどの話からすると、ダリルはまたもや魔法科召喚魔を留年したようだ。従魔を手に入れられなかったという、その一点で。

 毎年、召喚魔Ⅲ以下の生徒の希望者に、召喚の儀式は行われる。それこそ、学園は万全を期して召喚の準備をさせているので、よほどのことが無い限り召喚は成功するはずである。というか、召喚の儀式を行うにも試験はあり、実のところそこが一番の難関なのだ。

 豊富な魔力量に、それを遺憾なく発揮できる魔力操作の技術、万一幻獣を呼んでも養うだけの覚悟と責任が要求される。

 さらに、それら難関を超えて召喚が成功しても、手に入れた召喚獣のレベルによっては、そこで脱落する者もいる。召喚した魔獣に納得いかず、才能がないと感じた者が自ら去ることも少なくないらしい。

 従魔を得るもう一つの手段が、捕らえた魔獣を契約で従えること。

 これは、相手が強いほど、または知能が高いほど難しいとされている。要はこの二つの方法で、ダリルは従魔を得られなかったという事だ。

 学園が過保護なほど手取足取り、万全を尽くしているにもかかわらず召喚できないとなると、やはり捕まえたうえでの直接契約しか手がないだろう。狩場は、先ほどニーナも言ったように結界のすぐ外、学園が所有する試練の森である。奥地へ向かっていくほど強力な魔獣が狩れるらしい。

 リュシアンは、ちらりとダリルの方を見た。

 思いつめたように下を向いているダリルに、リュシアンは少し嫌な予感がした。

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