魔法陣解放?

(なるほど、ダンジョンか)

 エドガーも言っていたが、この辺りにダンジョンがあるというのは聞いたことがない。けれど、リュシアンはその意見を笑い飛ばすことは出来なかった。

 あたりから漂う、異様に大きい魔力の流れ。

 リュシアンに感知能力はないが、嫌な気配というものは、ある程度なら誰でも感じることができるだろう。


「調べてみる?」

「え、出来るの、そんな事」


 思いついたようにリュシアンが顔を上げると、ニーナがちょっと驚いた顔で聞き返した。余談だが、ニーナの手の中にいるチョビが、そろそろ落ち着きなくリュシアンのことを気にしている。


「うん、マッピングの魔法陣なら覚えているから」


 マッピングは、それほど珍しい能力でもないが、レベルによっては価値が別物のように爆上がりする。それこそ、鑑定よりもレアなスキルだ。

 高レベルのマッピングスキルの魔法陣の写しは、禁書として保管されているほどである。ダンジョンのマップもそうだが、詳細で正確な世界地図などは、各国の王族、貴族の垂涎の代物だからだ。

 リュシアンは、例の王都図書館でコレを知り得た。

 王の証印を持っていたリュシアンは、よほどの国家機密レベルがつまった書庫以外は自由に出入りできたため、これら禁書も閲覧できたのだ。

 閲覧規制が国家機密でないのは、現実にこれだけを手に入れたところで、ほとんどの者にどうすることもできないからで、正直なところ、豚に真珠、猫に小判、紙くず以上の物にならないのだ。その主な理由が、写生することがそもそも出来ないと言われている。


 マッピングのスキルレベルは、ほとんどが生まれ持ったものそのままで、上がることが少ない。なぜなら、スキルレベルの上げ方が特殊で、熟練度ではなくアイテム(希少魔石)が必要になるからだ。これはダンジョンの宝箱や、フロアボス、ダンジョンボスが稀に落とすと言われていて、幾つもダンジョンを攻略しているような上位冒険者しか入手できず、とんでもなく高価なものだといわれている。

 初歩的なマッピングは、浅い階層しか解析できず、深層部となると、結局は冒険者の手書きに頼らざるを得ないというのが現状だ。

 誰よりも早くマップを完成させることは、冒険者にとって、結構な収入を得ることができる戦利品の一つでもある。

 おそらく今の世界には、高レベルのマッピングを扱える者も、魔法陣を起こせるだけの写生レベルを持つ者もほとんどいないだろう。


 そこで、リュシアンの念写である。

 伝説級だろうが神話級だろうが、写生レベルを一切無視して巻物を製作できる。相変わらずインチキチートな手法だが、今回は遠慮はしない。なにしろ、わりと生死がかかっている。

 リュシアンは、まずは手始めに初級のマッピングの魔法陣を描くため、その魔法陣を頭に思い浮かべながら、白紙の巻物をカバンから取り出そうとした。


「お、おいっ、……それ?!」


 その時、エドガーは変に裏返った上ずった声を上げた。

 おかしな反応をするエドガーに驚いて振り向くと、その視線はリュシアンではなく、ひたすら前方を見ているようだ。しかも、ニーナもアリスも、同じように口を開けて同じ方向を見ていた。


「なにを見て……? え!?」


 その光景は、何年か前に遭遇した事象だった。

 そう、目の前にいま思い描いた魔法陣が浮かんでいたのである。

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